日本トップリーグ連携機構 トップアスリート活動基盤整備事業 活動報告レポート<第2回>


 「地域とスポーツ(1)-スポーツ界の転換期」

 
2008年12月18・19日、2日続けてわが国のスポーツ界にとって大変ショッキングな発表がありました。日本リーグ13度、アジア・リーグも2度制覇したアイスホッケーの名門・SEIBUプリンスラビッツと、日本社会人Xリーグ東地区に所属し、92年と07年に2度の日本一を果たしたことがあるアメリカンフットボールのオンワードという、これまで両リーグを代表してきたチームの今シーズン限りでの廃部と解散です。アメリカのサブプライムローン問題に端を発する世界的な金融危機に伴う経済不況の波が、いよいよスポーツ界にも大きな影響を及ぼし始めたのです。
 今日ではさまざまな競技でリーグやチームが独立採算をめざして運営をおこなうプロリーグが発足し、注目を集めていますが、これまで日本のスポーツ界は学校や企業がチームを所有するアマチュアスポーツを中心に発展してきました。「実業団」と言われる企業のチームは、トップレベルの選手を従業員として雇用し、選手の継続的なスポーツ活動の場となってきました。戦後、数々の名門チームは「実業団」チームとして誕生し、多くのオリンピック選手を輩出してきました。いわば、企業スポーツは日本のスポーツ文化の中でも大きな特徴なのです。
 企業スポーツにおいて、企業がスポーツチームを所有する理由としては、広告宣伝の他に、福利厚生や社員の士気高揚、社内の一体感を強めるといったことが昔から挙げられてきました。これは近年勃興しているプロリーグとは異なり、直接の営利を目的とはしていません。企業スポーツに関わる多くの者たちも「スポーツチームが活躍することにより、目には見えないが従業員や会社全体によい効果をもたらす。」と考えられてきました。そのような環境においては、チームは試合で勝ち、大会で活躍することが一番の存在意義であったといえます。
 しかし、経済のグローバル化により、経営方針の転換や、雇用形態の変化などが生じ、多くの企業で所有するスポーツチームに対する見方も変わってきました。多くの企業経営者の中で、所有するスポーツチームは“ただ試合で勝つ”だけでは、チームの維持・運営に多くのお金を掛けるほど企業に対して利益をもたらさないといった考えが生まれはじめたのです。その結果、特に1990年代後半から2000年始めにかけては、バブル崩壊の影響もあり、毎年30以上もの企業チームが消滅するというスポーツ界にとって危機的な事態が生じました。残念なことに、悪化する経営環境において、所有するスポーツチームを手放すことは、ステークホルダーに対して経費削減のアピールの象徴ともなってしまったようです。
 2000年中頃に入り、景気の回復や、CSR(社会貢献活動)の一貫として企業が所有するスポーツチームに対して新たな価値を見出し始めたことから、企業スポーツチームの休・廃部数は一旦落ち着きを見せました。しかし、今回の経済不況により、これからも休・廃部する企業チームは増加すると見られ予断を許しません。いよいよ、かつて日本のスポーツ界で広く浸透していた「スポーツ選手は練習だけをしていればいい」といった考えは通用しなくなり、企業スポーツチーム、ひいては、日本のスポーツ界全体が本気で新たな存在意義を見つけなければならない時代となっているのです。すなわち、これまでの企業全面的に依存する体質から脱却し、企業や地域住民、そして自治体との新たな関係を構築してリーグやチームが自立する方法を考える必要性に迫られているのです。さもなければ、いつまでたっても日本のスポーツ界はその時の経済状況に翻弄され、これ以上の発展が見込まれません。そこで、次回からは、企業が所有するスポーツチーム、そして、企業チームからクラブ化したチームの活動事例を紹介し、今後のスポーツチームのあり方について考えていきたいと思います。