日本トップリーグ連携機構 トップアスリート活動基盤整備事業 活動報告レポート<第3回>


 「地域とスポーツ(2)-これからのチームのあり方とは?」

 連載第2回で、これまで日本のスポーツ界を支えてきた企業スポーツチームは今後新たな存在意義を見出し、あり方について改めて考える必要性があると述べました。すなわちそれは、このまま企業チームとして活動を継続するのか、または、クラブ化することで企業に依存しない自立した運営をおこなうのかの選択を迫られることを意味します。そこで今回は、企業チームからクラブ化し活動をおこなっているトップスポーツチームの例として、日本ホッケーリーグに所属する「名古屋フラーテルホッケーチーム」(以下:名古屋フラーテル)を取り上げ、2008年9月19日に開催された「文部科学省トップアスリート活動基盤整備事業 第1回セミナー」にておこなわれた、チームの永井東一氏の講演を基にチームのあり方について考えてみたいと思います。

名古屋フラーテルとは?

 名古屋フラーテルは、1985年表示灯株式会社の20周年記念事業として名古屋市に設立された「表示灯ホッケーチーム」を前身とする男子ホッケーチームです。1985年のチーム創設以来、1989年の全日本制覇をはじめ、2002年からの日本リーグ6年連続チャンピオンなどの輝かしい成績を残し、また、日本代表チームへも多数の選手を派遣するなど長年に渡り全国トップレベルのホッケーチームとして活動してきました。しかし、チームとして輝かしい成績を残していたにも関わらず、2005年度のシーズンをもって会社が所有する企業チームとしては活動ができなくなります。企業チームとして活動していた時代は勝つことを最優先にやってきたが、会社から切り離されたクラブとなった時、「自分たちは何ができるのか?」という問題にぶち当たったといいます。それは、チームの活動が地域住民、会社、社員などのステイクホルダーを意識してこなかったことの証左です。そこで、改めてチームの意義を考え、より幅広い活動をおこなうため、2006年にチームを発展的に解消し、愛知県・名古屋市を基盤とするNPO法人愛知スポーツ倶楽部として生まれ変わりました。

クラブの理念とビジョン

 トップスポーツチームのミッションは「競技力の向上と競技の普及」であると言われています。「競技力の向上」とは、一般的に選手の強化であり、自チームからナショナルチームに多くの選手を送り込むことを大きな目標とし、「競技の普及」は競技人口の拡大を意味します。名古屋フラーテルも同様であり、「トップを追求していく者を支えるクラブであると同時に、地域、そして各年代に対して広がりを持つ社会に対してホッケーを通じて関わること。」をチームのミッションに挙げている(永井氏講演より)。また、永井氏によると、ホッケーは他の競技に比べ知名度が低い、いわゆる「マイナースポーツ」であることから、名古屋フラーテルでも競技の普及は特に重要な課題であるとしています。

ホッケー普及プロジェクト

 名古屋フラーテルがおこなっているホッケー競技の普及に向けた具体的な取り組みとして、
①クラブネットワーク事業 ②フラーテル・カップ事業 ③ホッケースクール事業 ④コーチング・セミナー事業 の4つの柱から構成される「ホッケー普及プロジェクト」があります。

①クラブネットワーク事業
 近年では、全国各地で総合型地域スポーツクラブが設立されていますが、総合型地域スポーツクラブは地域との密着が強く事業運営は安定しやすい反面、クラブの特徴が出しにくく、またトップの指導者の確保が困難であることから、他のクラブとの差がなく埋没する恐れがあります。その問題を解決するために、名古屋フラーテルは県内の総合型地域スポーツクラブに指導者の派遣をおこなっています。その結果、愛知県内ではジュニアホッケーチームが設立され、次に紹介するフラーテル・カップにも繋がりますが、各地のジュニアチームによる定期的なリーグ戦の開催もおこなわれ、これまで延べ450名がこの活動を通じてはじめてホッケーを体験したと報告されています。
 これらのクラブネットワーク事業は、愛知県広域スポーツセンターが統括しておこない、県内の各クラブの連携を深め、それぞれのクラブが特徴を出し、相互のメリットを享受し合えるネットワークの構築を目指しています。これは、トップレベルのスポーツクラブと総合型地域スポーツクラブの連携であり、トップスポーツチームと草の根スポーツチームの新しい形のスポーツ振興策と考えられるでしょう。

②フラーテル・カップ事業
 「フラーテル・カップ」とは、一般男子チームによる「トップリーグ」、一般女子と初心者や現役を退いた方たちのチームによって構成される「ミックスリーグ」、そして先に紹介した総合型地域スポーツクラブと連携することで生まれました。小中学生年代を対象としたチームによる「ジュニアリーグ」の3つのカテゴリーに分けておこなわれるホッケーのリーグ戦であり、名古屋フラーテルが掲げるホッケー普及プロジェクトの基幹事業であります。性別や年代により3つのリーグに分けることで、誰もがレベルに合わせてホッケーを楽しむことができるシステムとなっています。現在では、トップリーグ6、ミックスリーグ5の計11チームがリーグ戦に参加しています。永井氏によると、近年ではジュニアチームの保護者たちもミックスリーグのチームに参加する現象も見られ、家族でホッケーを楽しむ、スポーツが普及する良い循環が生まれているということです。

③ホッケースクール事業
 競技を1度おこなってみたいと思う人や、かつて学校などのチームでプレーしていたが就職などを機に所属できるチームがなくなった人たちが、気軽にプレーする環境がないというのは、ホッケーに限らず、どのマイナースポーツも共通して抱える問題です。名古屋フラーテルではその問題を解決するため、社会人を対象に「女子の経験者の為のスクール」と、性別は問わず「初心者中心のスクール」の二つのスクールを運営し、それぞれのスクールのチームはフラーテル・カップのミックスリーグに参加しています。競技をおこないたいと思っても、本格的に活動をおこなうトップリーグのチームしか存在しなければ、敷居が高く、多くの人は躊躇するでしょう。よって、このようなスクールが身近にあれば、誰でも気軽に参加することができ、競技の普及や継続に大きな役割を果たすと思われます。

④コーチング・セミナー
 競技者の育成と同時に、指導者の育成も競技の普及を考えるうえで重要な課題です。そこで、名古屋フラーテルでは、地域のクラブや現役の指導者、また将来指導者を目指したいと考えている選手を対象にコーチング・セミナーを開催しています。名古屋フラーテルのスタッフだけでなく、JOCメンタルコーチや元ホッケー日本代表ヘッドコーチなど国内の優秀な指導者や研究者などを講師として招くことで、セミナーを通じてホッケーに関する最先端の知識が得られるのです。

マネジメント基盤の安定

 以上が、名古屋フラーテルがホッケー競技の普及に向けておこなっている主な取り組みです。これらを見てみると、クラブネットワークの構築やスクールの設立など、競技の普及に向けたシステムは整備され、名古屋フラーテルのミッションのひとつである「ホッケーを通じた地域や社会との関わり」は着実に進められていると思われます。しかし、名古屋フラーテルのみならず、スポーツチームやクラブがさらなる発展を遂げるためには、安定的な活動を支えるためのマネジメント基盤の安定という大きな課題が残されています。現在、名古屋フラーテルも、組織の収入は、法人や支援者による後援会費が中心であり、トップチームの活動や普及に向けた継続的な事業をおこなうための十分な金額を確保できているとはいえません。また、チームには有給のスタッフがおらず、選手の雇用に関してもチーム人件費抑制のため、支援してもらっている地元の企業にお願いし、1企業につき1選手を社員として抱えてもらっているのが現状です。マネジメント基盤の安定をおこなうためには、今後、チームのメディアへの働きかけ、スポンサーの獲得、マーチャンダイジングの開発、などの積極的なマーケティング活動が必要となるでしょう。

地域社会・自治体との連携

 しかし、現在の経済状況では、いくら積極的なマーケティング活動をおこなってもチームの収入が劇的に増加することは考え難く、マネジメント基盤の安定には地道な努力が求められます。そして、その際必要となるのが、やはり地域社会や自治体の理解や協力です。今日では、地域社会や自治体の理解や協力なくして、スポーツクラブの発展はありえないと言っても過言ではありません。そこで、「では、スポーツクラブは地域に対して何ができるのか?」を考えなくてはならないのです。名古屋フラーテルが、ホッケー競技の普及を通じた活動をおこなうことで地域のスポーツクラブと連携を図っているように、どのスポーツチームやクラブもそれぞれの特徴を生かした活動をおこなうことで、地元地域の支持者を獲得し、活動基盤を築かなくてはならないのです。