日本トップリーグ連携機構 トップアスリート活動基盤整備事業 活動報告レポート<第4回>


「地域とスポーツ(3)-企業チームとしてあるべき姿」

 前回の第3回では、企業チームからクラブ化し活動をおこなっているトップスポーツチームの例として、日本ホッケーリーグに所属する「名古屋フラーテルホッケーチーム」(以下:名古屋フラーテル)を取り上げ、クラブチームとして活動をおこなうトップスポーツチームのあり方について考えてみました。そこで今回は、企業チームとして活動するスポーツチームの例として、女子ハンドボールの「ソニーセミコンダクタ九州」の活動を取り上げ、名古屋フラーテルの時と同様に、2008年9月19日に開催された「文部科学省トップアスリート活動基盤整備事業 第1回セミナー」にておこなわれた、元ソニーセミコンダクタ九州GM・石黒聡氏(現JFLソニー仙台FC評議員)の講演を基に、企業チームの今後のあり方について考えてみたいと思います。


ソニーセミコンダクタ九州女子ハンドボールチームとは

 
ソニーセミコンダクタ九州を母体に、1984年に設立された鹿児島県を拠点に活動をおこなう女子ハンドボールチームです。創部以来チームは着実に力を着け、近年では日本代表に所属選手を派遣し、ハンドボール女子日本リーグでも毎年上位に進出するなどの強豪チームとなりました。2008-2009年のシーズンでは、17名の選手が登録され、選手たちは毎日ソニーセミコンダクタの社員として半日の会社勤務をする傍ら、ハンドボールの練習に励んでいます。


GMとしての役割

 
多くの企業スポーツチームで、近年、ゼネラルマネジャー(以下:GM)を置くところが増えています。GMの仕事内容は、監督と選手の橋渡し的な役割を務めることや選手のリクルートといった現場レベルの(競技に直接関わる)仕事から、チームのPRや会社との調整、また関係する団体との交渉など、チーム外での(競技とは直接関係のない)仕事までと多岐にわたります。まさに、チームが組織として活動を円滑におこなうための仕事であり、チームを統括する責任者の役割を担います。石黒氏によると、ソニーセミコンダクタ九州のGM時には、これまで監督が中心となり活動してきたチームの内向きな体質の改善、地元自治体や地場産業との関係強化などを行なってきました。GMとして仕事をおこなうにあたり重要なポイントとして、「チームがひとつの組織として、統一したビジョンを持つこと」を石黒氏は挙げています。


企業がスポーツチームを所有する理由

 わが国の企業スポーツは戦前から長い歴史があり、少し前までは、企業がスポーツチームを所有する理由として「社内の一体感の醸成」や「社員の福利厚生」、そして「広告・宣伝」が主なものとされてきました。しかし、1990年代後半あたりから企業のスポーツチームに対する考え方も変化し、近年では所有するスポーツチームを企業のコミュニケーション戦略に位置づけ「地域貢献」や「社会貢献」の一環として考える企業も増えています。ソニーセミコンダクタ九州でも (1)ナショナルレベルのチームに選手を派遣することで、スポーツ振興に貢献する (2)地域貢献 (3)(福利厚生ではない)CSRとしての活動 を3つの柱に女子ハンドボールチームを所有しています(石黒氏講演内容より)。


アイデンティティの確立

 
ソニーセミコンダクタ九州では、「地域貢献」を企業のハンドボールチーム所有の目的のひとつに挙げています。よって、女子ハンドボールチームでも、母体企業である「ソニー」と地元「鹿児島」をフルに活用したチームアイデンティティの形成をおこなっています。
 ソニーセミコンダクタ九州の女子ハンドボール部には「BLUE SAKUYA」というニックネームがありますが、公募でニックネームを募集する際にも、地元・鹿児島にちなんだ名前にしようということで決定されました。また、毎年、地元鹿児島で「ソニーセミコンダクタ九州杯小学生親善大会」を開催し、地域に根ざしたチーム作りを進めています。


グループ内のチームとの連携

 ソニーセミコンダクタ九州の女子ハンドボールチーム以外にも、ソニーグループには、日本フットボールリーグ(JFL)に所属する男子サッカーのソニー仙台FCと、愛知県一宮市を本拠地に活動する女子ホッケーのソニー一宮BRAVIA Ladiesがあります。これら3チームは、競技や活動拠点などは異なりますが、同じソニーグループに属するスポーツチームとして連携を図っています。具体的な試みとしては、3チームが合同でスポーツ総合情報サイトであるスポーツナビ+の中に「Three GOAL」(HTTP://www.plus-blog.sportsnavi.com/threegoal/)というブログを開設してのPR活動があります。ブログの中で、それぞれのチームについての情報を共同で載せることにより、これまで他の競技について知識がなかった人々に対しても、競技やチームについて知ってもらえる機会を得ることができます。また、石黒氏によると、ブログを用いたPR活動によって、チームの知名度の向上だけでなく、採用活動や企業のイメージ戦略に対しても効果があるとのことです。グループ内のチームと連携することは、チームや競技のPR活動だけにとどまらず、チームを所有する企業(グループ)への影響ももたらすと考えられます。これは、「スポーツ(チーム)の力」を示す大きなチャンスではないでしょうか。

まとめ

 企業スポーツチームとして活動をおこなう、ソニーセミコンダクタ九州の女子ハンドボールチームの例を見ても、地域住民、地元自治体、企業など多くのステークホルダーと密接に関わっていることがわかります。講演の中での石黒氏の言葉を借りると「いろいろな人を巻き込んで、みんなで新しいものをつくりだす。」ということであり、これは企業チームであろうと、クラブチームであろうと、今日のスポーツチームのあり方に共通することと言えるでしょう。そして、企業スポーツチームには、ソニーセミコンダクタ九州ならば「なぜソニーなのか?」「なぜ鹿児島なのか?」に答えられるチームの“明確なアイデンティティ”の確立や、それを表現するビジュアルアイデンティティと、またチームを所有する企業のコミュニケーション戦略に沿った“統一したビジョン”を共有することが今後さらに重要になると思われます。