日本トップリーグ連携機構 トップアスリート活動基盤整備事業 活動報告レポート<第5回>

トップレベル・スポーツクラブの経営戦略 -概論-

バブル崩壊、アジア経済危機、そしてアメリカ金融危機

  これまでトップレベルのスポーツアスリートは、企業にとって、さまざまな面で企業に貢献するからこそ、企業は雇用し、チームを編成して、チームの運営コストを支出してきました。高度経済成長期の女子バレーチームであれば、工場で働く彼女たちの活躍が工員の士気向上につながっていました。また近年の高度化したスポーツにおいては、企業はアスリートを正社員ではなく契約社員化して、新聞やテレビに掲載される広告宣伝の価値を期待してきました。しかしこれらの機能は、企業では収入に直接つながらないコストセンターであり、増益の効果を明確には示せませんでした。
 しかし90年代からの不況下では、スポーツを企業の経営戦略に位置づけ、チームを所有する意味を見出す企業も現れました。例えば、企業の社会的責任(CSR)を果たすために、地域貢献活動にスポーツ教室などのスポーツイベントを開催したり、スポーツのイメージを商品のブランドとして販売促進につなげたりする事例もみられます。後者は、スポーツが企業イメージを表現する「メディア」として機能しており、企業とトップアスリート、スポーツクラブ、スポーツ競技団体関係者が、スポーツを「メディア」と認識して協働することで、スポーツのイメージを創り、守ることで成り立っています。
 企業がスポーツに期待する機能が変容するいっぽうで、これまでアスリートや監督・コーチらチームスタッフはゲームの勝利のみ目標として活動し、チーム全体の経営には関わることはまれでした。このことが後に企業スポーツの廃部や休部の決定がなされる一因でもあります。経営学者のコトラーは、利益を求める企業はもとより、非営利組織にもマーケティング戦略が必要であるとされ、顧客志向のマーケティングが必要であると述べていますが、日本経済がガタガタな今だからこそ、日本の企業スポーツクラブにも顧客志向のマーケティングが生き残るためには必要です。


トップレベル・スポーツクラブのミッションとビジョン

  スポーツクラブが、最初にすることはクラブのミッション(なんのためにクラブは存在し、なにをめざすのか)を明確にして、常に経営のよりどころとして立ち返れる哲学を持つことです。しかしスポーツクラブだからといって、ミッションが「優勝」というのはお粗末です。「優勝」することで達成されることはなんでしょうか?「優勝」することで関係者一同が得られるものはなんでしょうか?「優勝」はあくまでミッションを達成するための手段であって目的ではありません。例えば、「クラブメンバーの充実した一生」でも良いのですが、これでは周囲の人に響いて支援をしようと思う人は少ないでしょう。せめて「地域住民の幸せな生活」や「青少年の健全育成」など、スポーツクラブを支援すると自分たちの社会が良くなると感じられるミッションがよいでしょう。次に大事なのは、ミッションに基づいて実際にどうなるのか具体的な「ビジョン」を示すことです。周囲の人は「ビジョン」を知ってクラブのことを理解、協力する気持ちもわいてくるものです。


トップレベル・スポーツクラブのステイクホルダー

 トップアスリートがスポーツ活動に専念しても給与を得られる企業スポーツチームを維持しようとすれば、チームのステイクホルダーである企業についてよく知る努力が必要です。「「なぜ」その企業は支援するのか?」に始まり、「なにを」・「どのように」すれば最大限その企業の期待に応えられるのかを明確にする必要があります。スポーツクラブの利害関係者には、企業に限らず、ファン、行政、アスリート、競技団体関係者、メディアなどがあります。彼らは時間やお金や物品などのコストを負担してもいったい何を期待してついてきてくれるのでしょうか?スポーツクラブの経営は、彼らステイクホルダーの関係を最高なバランスに保つ、気配りが必要になります。企業スポーツチームのときは、親企業だけに集中していればよかったかもしれませんが、独立したトップレベルの地域クラブになるには、経営センスに長けたGM(ジェネラルマネージャー)が重要になります。


トップレベル・スポーツクラブのマーケティング4P+3P

  スポーツクラブの経営は、スポーツイベント(興行)を核にしたサービスの経営になります。サービスですから、基本的に①手に触れない(無形性)、②生産と消費が同時になる、③雰囲気はお客様と共同で生産、④結果を得るにはスタジアムに行くまでの過程も大事といった特性があります。こうした特質を踏まえた上で、スポーツイベントを提供する仕組み、場所、顧客のコストなどを考える際に、一般のマーケティング同様4P(製品・価格・立地(流通)・プロモーション)を考慮し、さらにサービスを提供する人材、サービスを提供する場所や道具など物理的な環境、サービスの提供過程についても十分な配慮が必要になります。いかがでしょうか?トップレベルのプレーをステイクホルダーの皆様に喜んで消費いただくまでには多くの段階があることが理解できたでしょうか?

 これから今回の事業で明らかになったトップレベル・スポーツクラブの経営で陥りやすい失敗談や、うまく切り抜けた成功事例を紹介していきますので、ぜひクラブ経営のヒントにしていただければと思います。