日本トップリーグ連携機構 トップアスリート活動基盤整備事業 活動報告レポート<第12回>
●「スポンサーシップ営業用のセールスシートについて」
トップレベル・スポーツクラブを健全に経営するには、地域社会からの物心両面による支援が欠かせません。このことを改めて説明する必要はないでしょう。地域社会においてクラブが公共財として認知・理解されていれば、ごく自然に支援を得られるかもしれません。しかし、現実はそれほど甘くありません。特に物資面での支援(例えば、スポンサーシップ)を得るには、クラブは自らの価値を十分に説明し、理解してもらわなければなりません。闇雲に支援をお願いしても、お願いされた方が困ってしまうだけです。
では、クラブにはどのような価値があるのでしょうか。言い換えれば、クラブはどのような価値を提供できるのでしょうか。スポンサーシップという形態の支援を得るためにクラブが提供する価値を明示したものがセールスシートです。支援者の立場からすれば、クラブから提供されるベネフィットが記されたものといえます。本稿では、スポンサーシップ営業用のセールスシートを作成する手順を追いながら、幾つかの注意事項を確認していきます。
まず、クラブが提供できるベネフィットを整理し目録をつくりましょう。一般論として、スポンサーシップのベネフィットはルール系、露出系、販売促進系、名誉系の4つに分類することができます。それぞれの分類における例を以下の表に示します。この表は参考にすぎないので、クラブの実情に合わせて目録をつくって下さい。「えっ、これってメリットになるのですか。」クラブ経営に携わる方との会話の中で、ときどきこんなセリフが飛び出してきます。ひとりでは気付かないこともあります。同じリーグの他クラブや、他リーグに目を向けてみてもいいかもしれません。
表.スポンサーメリットの例 |
ルール系 | 独占排他権(契約カテゴリーに関する権利) マーク・マスコット等の使用権 スポンサー呼称権 優先交渉権(契約更新に関する権利) |
露出系 | 競技場内の看板、バナー、大型スクリーン等 ユニフォーム インタビューバックドロップ プログラム、ウェブサイト、会報誌、ポスター等 チケット優先購入権 オンサイト・サンプリング 商品展示 販売の機会 |
販売促進系 | ホスピタリティ・エリア 無料招待券、アクセスパス |
名誉系 | ロイヤルボックスへの招待 表彰式への列席 トロフィー名へのブランド記載 副賞の提供 |
(参考:海老塚修、スポーツデザイン研究所(2007)『バリュースポーツ』遊戯社.) |
作成した目録に目新しいアイデアや斬新なアイテムはひとつもないかもしれません。それで何も問題はありません。書き出してみることで頭を整理し、組織内でその目録を共有することが大切なのです。
このとき、それぞれのメリットを提供するために必要な費用(原価)を把握しておくことも重要です。どんなに素晴らしいメリットが提供できたとしても、値段設定を失敗して、売れば売るほど赤字が膨らむような悲劇は避けたいものです。
マークやマスコットといったクラブの知的財産の使用をメリットとして提供する場合には、あらかじめ使用方法などを定めておくことも必要です。アスリートの肖像権を扱う場合には、所属するリーグの規定やアスリート本人の承認など、あとでトラブルにならないようにしっかり確認しておく必要があります。
契約カテゴリー(業種とは異なり、クラブやリーグが独自に定めることができる)については、どういったカテゴリーがクラブに対して開放されているのか、どういったカテゴリーは自粛しなければならないのか、所属リーグの規定を確認しておくことも必要です。
目録ができたら、メリットを組み合わせてスポンサーシップのためのパッケージをつくりましょう。組み合わせは自由なので幾通りものパッケージを生み出すことはできます。しかし、あまりにも種類が多いと、売る側(クラブ)も買う側(支援企業など)も混乱してしまうので気をつけましょう。
「こんなことはすべて当たり前で、ご指導いただかなくても結構」と感じる方もいるでしょう。まったくその通りです。しかし、日々忙殺されているクラブ経営者にとっては、当り前だからこそ、ついつい頭の中だけで済ませてしまうことがあります。セールスシートはスポンサーシップ営業用ツールですが、クラブ経営に携わる全員がクラブが生み出す価値を理解するためのツールでもある、と捉えてみてください。それからもう一つ重要なことがあります。セールスシートに書かれたメリットは、支援者に対するクラブの約束です。約束ですから必ず守らなければなりません。どのようにメリットを提供するのか、ガイドラインやマニュアルをつくって漏れや抜けがないようにしましょう。
パッケージができあがったら、いよいよ営業です。営業ツールとして、どんなメリットが享受できるのかイメージできるようなセールスシートを作成しましょう。例えば、競技場内での看板掲出がメリットであるならば、写真や図でそれがどのようなものか提示しましょう。写真だけで説明するのが難しければ、動画で伝えることも検討してみて下さい。マッチデープログラム上の広告掲出がメリットならば、実物を提示するのもいいでしょう。
セールスシートだけではうまく説明できないメリットもあります。例えば、ロイヤルボックスやホスピタリティ・エリアといったメリットは体験してみないとその価値を理解することは難しいものです。そのようなメリットを理解してもらう場合には、見込顧客を招待して体験してもらいましょう。
ところで、物資面での支援とは現金だけを意味するわけではありません。支援者が身の丈にあった方法で支援できるような仕組みも考える必要があります。例えば、物品やサービスを提供してもらうというサプライヤーシップという方法があります。提供してもらう物品・役務(サービス)をVIK(Value in-kind)といいます。クリーニング店がユニフォームやトレーニングウェアの洗濯を引き受けてくれるのであれば、それは経費節減につながります。クリーニング店からすれば、現金を捻出するのは難しいが、クリーニングという形態でなら無理なくクラブを支援することができるわけです。
VIKを広く捉えれば、選手を雇用してくれる企業は、人件費相当額を支援してくれているわけなので、サプライヤーと捉えるべきでしょう。清涼飲料の自動販売機の売上の一部をクラブの支援金にまわす、というような支援方法もあります。スポンサーシップ・パッケージをつくる段階では、こうした支援企業も十分に考慮に入れて検討しましょう。
努力を積み重ねてスポンサーシップ契約にこぎ着けたとして、それがゴールではありません。末永く支援していただくためにも、来シーズンも契約を更新していただけかなければなりません。複数年契約を結べたとしても、同じことです。支援を約束してもらう(契約してもらう)までは一生懸命なのに、そのあとのメンテナンスがおろそかになってしまうことはよくあります。シーズン終了後には、報告書を作成し、きちんと報告しましょう。報告書はセールスシートを作成するのと同じくらい、あるいはそれ以上に労力を費やして作成するべきです。
ところで、支援企業によるさまざまな活動が新聞やテレビといった報道機関で取り上げられれば、スポンサーシップ・パッケージに新たな価値が上積みされたことになります。クラブ自らが有するメディア(ウェブサイトやメールマガジン、マッチデープログラムなど)で紹介することも価値の上積みにつながります。約束したメリット以上のものを提供しているわけですから、ぜひ報告書に盛り込みましょう。
支援者たちの心を繋ぎ止めるという意味では、支援者たちを招待してパーティーを開くという手法も考えられます。選手や監督・コーチと支援者たちが直接触れ合えるような機会を設ければ、クラブに対する親近感は非常に高まるものです。