日本トップリーグ連携機構 トップアスリート活動基盤整備事業 活動報告レポート<第16回>


「トップスポーツクラブの未来に向けて」

 これまで我が国のスポーツクラブは、企業や学校に付随した組織、いわばスポーツに勝つためだけを目的にした「チーム」でした。スポーツクラブがスポーツ活動を通じて社会に役立ち、そしてクラブが提供する事業・サービスが社会から価値を認められ、価値ある商品(事業・サービス)を提供する組織として、企業や行政、そして市民から支援を受けるシステムを起動させることが、自立経営への第一歩であると考えられます。
 そのためには、スポーツクラブはまずクラブの進むべき方向である「ミッション(使命)」をもって始まります。使命があれば、誰に対し、どのような価値を提供するのかが明確になり、次にクラブは使命に導かれた「ビジョン(目標)」を掲げ、その進捗状況を評価することで基本的なPDCA(プラン-ドゥ-チェック-アクション)サイクルを回すことができるようになります。そして目標を達成するための事業計画・事業戦略づくりを行い、それに適切な組織をつくっていく。今回の対象クラブは、収入のリスクも省みずに、使命に集まった勇気ある開拓者が、いま正に事業を始めようとしているところでありました。そのためにクラブの人材の多くは、定年退職後のシニアや新しい事業を立ち上げようとする地元企業からの出向、ボランティアの方々でした。
 スポーツクラブが形になると、実際に目標を達成するための市場の開拓に取り掛かることになりますが、スポーツの興行に必要となる舞台となる競技場・アリーナや練習施設、そして事務局が置かれるクラブハウスを選定しなければなりません。もちろん賃料が安いからといって顧客来場することをためらうような場所では事業を続けることはできないですし、我が国のスポーツ施設の多くが公共施設であることを考慮すれば、新天地となる自治体との連携も欠かすことができません。今回の対象クラブでも、地元自治体や地元の競技団体との連携に成功したクラブが大いに参考になると思われます。
 事業を展開する場所が決まり、次にするのはスポーツクラブの試合興行の準備とスポーツクラブの事業パートナーである協賛企業の獲得です。そのためにはスポーツ興行を顧客が購入しやすいように商品パッケージを作り、それをセールスシートに表現して営業活動を充実させる必要があります。入場料収入も大事な収入であり、多くのファンが試合会場に足を運び、充実した「試合観戦の一日」の経験を提供することに努める必要があります。
 興行の準備が進む一方で、興行の中心はやはりアスリートです。アスリートはクラブの大事な利害関係者であり、彼らが最高のパフォーマンスを繰り広げることができるような環境づくりが大事になります。そのためにはアスリートの生活面、将来計画まで含めたケアが大切です。
 スポーツクラブが活動を展開し始めると、その活動を広く市民に伝えなければ意味がありません。地域広報戦略では人と人、顔の見える広報活動が基本であることが再確認でき、マスメディアも組織であっても、それを動かすのは人であることを忘れてはなりません。同じようなことは、後援会組織やファンクラブのマネジメントにもあてはまります。会員となるメリットを単にグッズの配布や無料チケットにするのはあまり工夫がないのです。また、間違っても支援したい人々の組織が、スポーツクラブの経営の足を引っ張るような仕組みにしてしまうことを避けなければなりません。それは後援会会員やファンクラブ会員が求めていることではありません。
 ここまでスポーツクラブの経営改善に向けた提言を述べてきましたが、クラブ独自ではどうしても解決できない課題も今回の事業で抽出されました。例えば、リーグや協会自体の制度が、スポーツクラブの自立した経営を阻む仕組みを備えている事例も見られました。スポーツクラブの経営者が集まって組織するリーグですから、スポーツクラブの経営にとって有利な制度にしていく必要があります。また、外部のスポーツ組織との連携も検討する必要もあります。愛知県で始められた地域スポーツのクロスオーバーモデルは、総合型地域スポーツクラブとの連携により、双方が「Win-Win」の関係になる方法を紹介しています。地域の実情に合わせたクラブ間連携のビジネスモデルも今後の検討課題と考えられます。
 最後に、スポーツクラブの商品を根本から保護する仕組みが、商標法をはじめとする法律と契約であることを再認識することが大事です。またトップアスリートの肖像権について理解することもアスリートとの良好な関係づくりのためには欠かせないことは言うまでもありません。
 今回のトップアスリート活動基盤整備事業は、トップアスリートの活動するスポーツクラブの経営力向上がどのようにしてなされるのかが明確にされ、この知見をより多くのスポーツクラブ経営者が共有し、急激な時代の変化にも対応できる経営力を育てることが最終目標であります。この事業が、スポーツクラブ経営者の意識改革のきっかけとなり、各地でスポーツクラブ経営の論議がなされることを期待したいと思います。