ソフトボール・ピッチングのサイエンス

第4回

 ソフトボールのピッチャーは、両足を投手板に着けてホームベースに正対し、からだの前でボールを両手で保持します。そして1秒以上10秒以内、からだを静止させてから動作を起こします。動作は、投手板の前方に1歩踏み出し、腰より下の体側線で手と手首を前向きに通過させながらボールを離します(図上)。
 投手板前面を中心にした半径2.44mのピッチャーズサークルは平坦でマウンドはありません。その投手板からホームベースまでの距離は女子で13.11m、男子で14.02mです。また、ボールは3号規格で円周30.48cmの大きさ、約190gの重さです。
全日本レベルの女子のピッチング動作を分析した研究(福島と小嶋、2006)によると、まず、体幹は踏み出しの間にホームベースに対して最も横向きになります。また、投球腕の回転の速さは一定ではありません。振り上げる時と振り下ろす時に速く、腕が上にある時、すなわち踏み出しで体幹が横向きの時に遅いのです。
 そして振り下ろす時の腕は、内転(腕が体側に近づく)してから内旋(腕が内向きに捻られる)します。肩を動かないものとして描いた肘の動きを正面から見ると(図下右)、リリースの0.1秒前あたりから肘が体側に近づいてくるのがわかります。その後に腕を内向きに捻るということです。また、真横から見ると(図下左)、肘は振り下ろしで背中のほうへいかないこともわかります。体側の面で振り下ろされています。腕が後ろにいくように見えるのは、体幹が横を向いているためです。
 さらに、図上のリリース0.1秒前を見ると、振り下ろしの途中で肘は伸びています。この後、曲がっていくのですが、手首が体側に接触する直前に肘は一度伸びてそして再び曲がってリリースするのです。初めに曲げることで内旋(腕が内向きに捻られる)の効果を大きくして、次に伸ばし曲げるの反動で手首から先をさらに速く動かしているのです。
 踏み出しによる体幹の移動や回転といった勢いを腕で使うのですから、踏み出しに対する腕の振り下ろしのタイミングをよく観察してください。

図 ピッチング動作(上)と肩を中心にした真横(下左)と正面(下右)からみた肘の動き(ボールリリースを0.0秒としている)
図 ピッチング動作(上)と肩を中心にした真横(下左)と正面(下右)からみた肘の動き(ボールリリースを0.0秒としている)




国立スポーツ科学センター・スポーツ科学研究部・部長

1953年東京生まれ。東京大学教育学部助教授を経て現在国立スポーツ科学センター・スポーツ科学研究部・部長。専門はスポーツバイオメカニクス、トレーニング科学。