第7回

 球技スポーツ選手が、試合中にどのような動きをどの程度行い、どの程度動いているか、体への負担度がどの程度かなど、監督やコーチでもご存知ない方はたくさんおられると思います。球技スポーツ選手に必要な体力づくりのヒントは、やはり試合の中に存在します。試合中のさまざまな分析により、それぞれの種目の体力的特徴をより明確にすることができ、具体的なトレーニング方法が作成できます。もちろん、さまざまな体力測定もこれまでのトレーニング成果として客観的に見ることができ、今後のトレーニング目標にもなる上で重要な指標の一つになります。
 ハンドボールゲーム中の動きを、図1のように静止(Standing)、歩行(Walking)、軽走・中間走(Jogging)、速走(Fast Run)、疾走やジャンプ・シュート・激しい身体接触(Sprint)に大雑把に分けて分析すると、攻防戦の中に激しい無酸素性の動き(疾走と速走)と緩やかな有酸素性の動き(歩行やjog)が繰り返し行われる、間欠的運動となっていることがわかります。激しい動きではより高い筋力やスピード・パワー・敏捷性をより巧みに(調整力)発揮し、緩やかな動きで早い回復(アデノシン3燐酸とクレアチン燐酸の回復、並びに疲労物質である乳酸の除去)を行っています。これらの動きを前半30分、休憩10分ののち後半30分、延長戦なればさらに10分(第1延長)〜20分(第2延長)行うことになります。

 分析の結果、無酸素性の動きは1分間に20秒前後になることもありますが、図2のように平均的には10秒/分前後で1回当たり3〜4秒(1試合60分で10分程度)、中でも疾走は1試合60分間で3分程度と意外に少ない結果でした。半分の30分は歩行、1/4の15分はjogでした。攻撃回数が1試合60〜70回ですので、「1分間の攻撃と防御の中に3秒程度の激しい身体接触や素速い動きを含む10秒程度の速い動きと15秒のjog、30秒の歩行」と表現できます。しかし、心拍数は150〜180拍/分を推移し、時には200拍/分を超えることもあります。また、移動距離について個人差はありますが1試合5〜6kmで1分当たり80〜100mになります。この他、シュート数は1試合40〜50本(1人当たり8本)、ジャンプは片足ジャンプがほとんどで1人1試合10〜20回、激しい身体接触は攻撃時のポストプレーヤーで1試合40回程度、他は10〜20回となりました。いずれの数値も試合内容やポジション、技術レベルによって多少異なりますが、概ねこの程度になります。

 
これらを踏まえると、ハンドボール競技ではインターバルトレーニングやサーキットトレーニングが有効なトレーニングになります。主運動として疾走やさまざまなフットワーク、筋力発揮を行わせ、主運動の時間とインターバル時間を前述の分析結果を参考に(主運動を比較的長くするかインターバルを比較的短くする)設定すると、試合に対する十分な負荷がかかります。また、試合中の心拍数や移動距離から有酸素性持久力トレーニングの負荷設定もでき、指導に際しても説得力のある指示が行えるでしょう。
 同様に、他競技でも類似した傾向が見られます。サッカー選手の試合中の動きの分析でも、無酸素性の動きと有酸素性の動きの割合や心拍数などはハンドボールとほぼ同様で、移動距離は試合時間(90分)とコートの大きさ(100m×50m)からハンドボールの約2倍の10〜13kmになります。バスケットボール競技の分析でも、無酸素性の動きは20%程度、有酸素性の動きの中でjogが50%(歩行は25〜30%)と他競技に比べ若干多めですが、プレー時間の止まる回数が多いため回復時間が結構あり、従って心拍数も170拍/分前後で推移し、移動距離は5〜6kmになります。


田中 守(たなか まもる)
福岡大学スポーツ科学部 教授

<経歴>
1958年生まれ。群馬県吉岡町出身。筑波大学体育専門学群卒業、同大学院体育研究科
修了。1983年福岡大学体育学部助手、1997年より現職。専門は、スポーツ生理学、体力学、ハンドボール。
現在、日本ハンドボール協会情報科学委員長、福岡県ハンドボール協会理事長
指導歴は、全日本女子ジュニアハンドボールチームコーチ(1988〜1991)
全日本女子学生ハンドボールチームコーチ(1993〜1994)
福岡大学男女ハンドボール部監督(1983〜現在)