海を渡った柔道家 福田敬子の人間力
選手が競技を通して人間性を高めていくことは、スポーツの大きな意義のひとつである。先日、改めてそのことを痛感する機会があった。 都会の木々たちが、うっすら紅葉しはじめた10月下旬。米サンフランシスコから、柔道家の福田敬子さんが20年ぶりの帰国を果たし講演を行った。現在96歳の福田さんは1966年(昭和41年)に単身で渡米し、以来、世界各国で柔道の普及にあたってきた。いまも自らが設立したサンフランシスコ桑港女子柔道クラブで稽古をつけている。 精力善用とは、自分がもつ心身の力を有効に活用すること。自他共栄とは、相手を敬い感謝することで信頼し合い、助け合い、お互いに成長すること。柔道を通して得たことを、社会生活にも応用することだ。 女性は結婚して子どもを生み、良き妻、良き母になることが当然とされていた時代、福田さんにアメリカ行きを決意させたのは、ほかならぬ嘉納の教えだったという。精力善用、自他共栄には、人間はいかにして正しく生きていくべきかという、人生の大命題が謳われている。当時としては珍しく語学が堪能で、自身も世界に柔道を広めていた嘉納は、福田さんにも海外で指導にあたることを勧め、福田さんもそれを我が使命と受け入れた。 福田さんは言う。「嘉納先生の教えに近づけるよう努力できた自分の人生をありがたく思う」と。しかし、柔道に身を捧げるがゆえ結婚をあきらめ、日本国籍をも手放した福田さんの人生は決して平坦ではなかっただろう。 2006年4月、福田さんの誕生日を機に奨学制度「Keiko Fukuda Judo Scholarship」が設立された。柔道を通して素晴らしい人間を育てることを理念に掲げ、若い選手をサポートしている。「どこへ行っても慕われ愛される人間になってほしい」というのが福田さんの願いだ。 今日では女性も国内外で試合をし、活躍するようになった柔道をはじめ、競技には常に勝敗がつきまとう。何をおいても結果が優先する世界だ。だが、結果を出すまでの過程で、見て、触れて、感じたものは人間の幅を広げ、メンタリティーの向上などにつながる。
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