小学生アスリートに見たスポーツの力


 新年を迎え、もうすぐひと月がたとうとしている。年のはじめというのは心機一転、何か新たな目標に向かってがんばろうという気持ちになるものだ。皆さんのなかにも、今年一年の目標を立てた方は多いことだろう。

 正月ムードが残る1月7日、東京・八王子市民体育館で行われた、中学生以下を対象とする卓球大会に出かけた。お目あては弱冠9歳の“天才卓球少女”こと、平野美宇(ひらのみう)選手。平野選手は昨年、全日本選手権の初戦で高校生を破り、福原愛選手のもつ史上最年少勝利記録を塗り替え脚光を浴びた。
 彼女の夢はずばり、「オリンピックで金メダルを取る」こと。それを聞いて、日本のスポーツの将来を担う子どもたちをもっと応援しなくては、という気持ちになり、彼女の試合にはできるだけ足を運んで応援するようになった。

 美宇ちゃんはまだ小学3年生だが、自分より格上の相手と試合をして力をつけている。この大会も中学生と対戦し、とんとん拍子で準決勝まで勝ちあがった。だが、準決勝はさすがに楽な相手ではない。母でありコーチである真理子さんが、「これまでに何度か戦ったことのあるカットマンで、勝ったり負けたりの五分五分」と心配そうに見守るなか、相手選手は美宇ちゃんの打球をバックスピンでことごとく打ち返し、ミスを誘ってくる。このカットマン特有の作戦に対し、美宇ちゃんは粘り強くラリーをつないでチャンスボールを決め、途中リードされながらも、終わってみればストレート勝ちで決勝進出を決めた。

 決勝は、さらに圧巻だった。前半こそ相手のスピードに押され、一進一退の攻防が続いたが、2セットを奪ってファイナルセットに入ると、美宇ちゃんのスピードがみるみる乗ってきて、鋭いスマッシュがきわどいコースに次々と決まっていく。そのたびに「おー!」という歓声が上がり、相手選手の応援団も思わず彼女のプレーに拍手を送っている。
 終盤、完全に相手の攻撃を封じ込めた美宇ちゃんは、決勝もストレート勝ちで優勝。試合後は相手選手が記念撮影を求めてきたり、ご家族やコーチ、大会主宰者が活躍を称えに訪れたり、朝4時起きで静岡の沼津から駆けつけたという美宇ちゃんのおじいちゃんなどは、「いや〜、評価などおこがましいくらい素晴らしかった。感激した!」と興奮のあまりつい声が大きくなり、9歳の孫にたしなめられていた。そのどれもがほほえましい場面であった。

 この日の美宇ちゃんのプレーは、みんなを元気にした。スポーツは、これがいい。優れたプレーは理屈抜きで人々の心を動かし、活力を与える。その効果たるや、今年も一年がんばっていこうと前向きな気持ちになっている年はじめなら、なおさらだ。私も例外ではなく、いい一年のスタートが切れたと感謝している。
 さいわい年明けには毎年、大小さまざまなスポーツイベントが開かれる。一年の目標を立てた方には、ぜひスポーツ観戦をおすすめしたい。すでに三日坊主の魔の手に堕ちてしまった方も、ご安心あれ。これからバンクーバーオリンピックをはじめ、スポーツイベントは目白押しである。2010年は、まだはじまったばかりだ。

※平野選手は1月12日〜17日、東京体育館で開かれた全日本選手権において、史上最年少で女子シングルス・ダブルス、混合ダブルスに出場。初戦突破はならなかったものの、女子ジュニアシングルスで前回大会を上回る2勝を挙げた。

高樹 ミナ(たかぎ みな)

スポーツライター

2000年シドニー大会の現地取材でオリンピックの魅力に開眼。

2004年アテネ大会、2008年北京大会を含む3大会を経て、

2016年オリンピック・パラリンピック招致に招致委員会スタッフとして携わる。

競技だけにとどまらず、教育・文化・レガシー(遺産)などの側面から

オリンピックとスポーツの意義や魅力を伝える。

日本文化をこよなく愛し、取材現場にも着物で出没。趣味は三味線と茶道。

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