地域活性化に貢献するスポーツ・コミッション


 アメリカの国民的スポーツイベント「第44回スーパーボウル」が2月7日に、フロリダ州マイアミで開催された。
 「今世紀最高のQB(クォーターバック)」と呼ばれるペイトン・マニング率いるインディアナポリス・コルツと、今季リーグ1位の得点力で開幕13連勝の快進撃を見せたニューオーリンズ・セインツの対決は、「コルツ絶対有利」の下馬評とは裏腹に手に汗握る接戦を展開。初出場のセインツは序盤こそ動きが硬かったが、後半はリズムに乗った攻撃で逆転に成功し、終盤の勝負どころで決定的なパス・インターセプトを決めてコルツを突き放した。球団創設43年目の快挙である。
 セインツは4年半前のハリケーン・カトリーナで甚大な被害を受けた街の“復興の象徴”であるだけに選手の感慨もひとしおで、テレビに映った地元の街も大変な盛り上がりだった。その様子を見ていたら、8年前に同地で開催されたスーパーボウルに取材に行ったときのことを思い出した。

 スーパーボウルを開催する街では、1週間前から「スーパーボウル・ウィーク」と称する様々な関連イベントが繰り広げられ、観戦にやってくる観光客を楽しませてくれる。私が訪れたときもニューオーリンズにやってきた観客やメディアの数は13万5000人に上り、市内のレストランや土産物屋は大盛況。約400億円の経済波及効果を生んでいた。
 そんなドル箱イベントだけに開催を希望する都市の誘致合戦は熾烈だが、ニューオーリンズはこれまでに9回も開催を勝ち取っている。その理由が何なのかと思って調べたところ、誘致活動を中心になって行うスポーツ・コミッションの存在が浮かび上がってきた。

 大会を開催するにあたってスポーツ・コミッションは自治体と一体になり、会場やメディアセンターの手配をし、選手・観客の輸送手段や宿泊場所の確保をする。その一方で、手続きが面倒な警察や消防等の許可申請を代行し、イベント主催者に様々な便宜を図ってくれるのだ。日本でも映画やテレビのロケ地誘致や撮影支援を行うフィルム・コミッションが全国各地にあるが、これはそのスポーツ版。地域の活性化や観光振興を図る狙いから、アメリカでは多くの街にスポーツ・コミッションが存在する。ニューオーリンズでも「グレーター・ニューオーリンズ・スポーツ・ファウンデーション(GNOSF)」という地元NPOが、自治体を代表する形で大会の誘致、企画、運営を行っていた。
 広報担当者に話を聞いてみると「イベント開催に関わるすべてのことに対して、GNOSFが一括して動くので効率的に運営ができるのだ」という。スーパーボウル以外にもNCAAファイナル4(全米大学体育協会の上位4チームによるバスケットボール大会)や全米陸上選手権など、大きなスポーツイベントをこれまでにいくつも手がけていた。

 大会をサポートするボランティアの手配を行うのも彼らの仕事で、スーパーボウルの場合は7800人のスタッフが組織されていた。大学生、家庭の主婦、老人とその年齢層は幅広いが、彼らを適材適所に配置。直前の2か月間は観光客に接するときのマナーやノウハウ、移動案内の仕方などをトレーニングしたという。ルイジアナ州が活動を支援している老人のグループも役割を得て生き生きと働いており、アメフトファンかどうかに関わらず、わが街で開催されるビッグなお祭りにみんなで協力し合おうという地域の温かい絆が感じられた。
 「ニューオーリンズは人情に厚く、観光しても楽しい街だという印象を持ち帰ってもらうことで、観客が再びこの地に足を運んでくれることを私たちは願っているのです」

 GNOSFの広報担当者はそう語っていた。こうしたスポーツ・コミッションのあり方は、日本でも参考になるのではないだろうか。

 話は戻って今年のスーパーボウル――。セインツの優勝を私が地元ファンのごとく喜んだのは言うまでもない。


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