イタリアでも嘉納治五郎生誕150周年




 本年は、柔道を創設しアジア人初のIOC委員に就任した嘉納治五郎の生誕150周年であることは5話で述べたが、遠くイタリアでも、嘉納を祝う行事が進行中である。 
 主催は、会員数3500人の「イタリアスポーツ教育協会」で、イタリアの厚生労働省と教育省からも公認されている。当協会は柔道関係者が創始し、嘉納治五郎の『柔道教本』(1931年)に基づく柔道、すなわち一本をとる柔道を学ぶことと、嘉納の提唱した「自他共栄」(他者に尽くすことで自己の人格も磨かれ、社会も繁栄していくということ)の精神を身につけることを目的としている。
 イタリアスポーツ教育協会が実践しているスポーツ活動は、スポーツ、ヨガ、ダンス、合気道、剣道などであり、スポーツ活動とともに、次のようなプログラムも用意されている。

①青少年を対象とした柔道教室
 青少年を対象とした柔道教室やサマーキャンプなど。柔道の指導においては、ポイント制より「一本」の精神を重視し、嘉納が創案した柔道に近い特別ルールでの競技会を開催。
②障害者への柔道指導
 自他共栄の精神を具現化するために、障害者を対象とした柔道教室を開催。
③女性スポーツリーダーの育成
 スポーツ界における女性リーダーの育成を目指し、柔道の研修や各種セミナーを実施。
④農作業プログラム
 連携している大学と共同して、学生に農作業を体験させ、資源や環境の大切さを学ぶ。

 これらを通して、嘉納治五郎の自他共栄の精神を身につけるという。嘉納治五郎が1928年にイタリアで柔道の実演と講演を行ってからイタリアでの柔道は盛んになったようだが、嘉納の名のもと、このような幅広い教育プログラムが展開されていることに驚きを禁じ得ない。

 さて、嘉納治五郎150周年をイタリア人はどのように祝うのだろう。まずはローマやミラノ、パレルモなど、イタリア各都市で12回のセミナーを開いて、嘉納治五郎の理念とそれに基づく実践を多くの人に理解してもらうようにするという。現在のところ、毎回100人以上の人が参加しているようだ。嘉納治五郎が生まれた10月(旧暦)には、国際レベルでのシンポジウムが企画されている。さらに『教育者:嘉納治五郎』という本の出版も計画されている。

 実は、イタリアスポーツ教育協会の学校教育プログラム担当者、サンナ氏が先日来日し、彼らの活動を詳細に説明してくれた。サンナ氏は中学校体育教師で、道場も持っていて、15年ほど前から嘉納の教育理念に強く関心をもち、柔道家、教育者としての嘉納の実像について調査している。初めて来日し、講道館も訪れた彼は、イタリアと日本でともに嘉納師範の教えを発展させましょうと熱く語っていた。イタリアからの嘉納エールに私たち日本人は応えなければならない。
 そこで早速、という訳ではないが、6月12日に東京国際フォーラム(有楽町)で、嘉納治五郎生誕150周年記念国際シンポジウムが行われる。主催は嘉納が校長を長く務めた筑波大学で、嘉納の自他共栄の精神を今後に展開することを企図している。これを聞いたサンナ氏は、このシンポジウムの内容をイタリアにすぐに送ってほしい、と言い残して日本を後にされた。嘉納治五郎は今日でも日本と世界とをつないでいるのである。

AISE(イタリアスポーツ教育協会)
http://www.judo-educazione.it/aise/indice.html

真田 久
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