有森裕子の国際貢献




 国際オリンピック委員会(IOC)には、女性のスポーツ参加などに貢献した人に贈る「女性スポーツ賞」が設置されている。「世界女性スポーツ賞」を1人に、五大陸からそれぞれ1人ずつ「女性スポーツ賞」が授与される。そのアジアからの受賞者に、マラソンで2大会連続メダリストの有森裕子が選ばれ、オリンピックデーである6月23日(1894年にオリンピック競技会の復興が決定された日)にローザンヌのIOC本部で表彰された。
 有森は1992年バルセロナオリンピックで銀メダル、96年アトランタオリンピックで銅メダルを獲得し、アトランタ大会ではゴール後に、「自分で自分をほめてあげたい」という言葉を残した。
 現役選手引退後は特定非営利活動法人「ハート・オブ・ゴールド」を1998年に設立し、カンボジアでのアンコールワット国際ハーフマラソンを通じて、地雷の犠牲となった子どもたちや女性のスポーツ参加を支援する活動を続けた。毎年、有森はカンボジアで彼ら彼女らと一緒にアンコールワットの周囲を走っている。
 そのような活動はカンボジアで評価され、カンボジア政府より小学校の体育授業の指導書作成を依頼される。そして国際協力機構(JICA)、筑波大学の専門家や現地の教育スタッフとともに、小学校の保健体育科指導要領を数年かけて作成した。この指導要領は2008年に完成し、今日のカンボジアでは、多くの小学校で保健体育の授業が行われるようになった。また、小学校の教員を対象にして、体育の授業の行い方などの研修も毎年行われている。このような彼女の国際的な社会活動が評価されての受賞であり、これからのスポーツを通じた国際貢献のあり方を示していよう。
 日本では、小学校から大学まで体育の授業が必ず行われている。さらに、中学校以上では、課外活動として部活動が放課後行われている。自分で好きなスポーツを選択して経験できる。スポーツクラブに比較して費用はさほどかからない。
 学校に体育の授業があり、放課後にスポーツが経験できるという国は世界に極めてまれで、イギリスやカナダでは、若者のスポーツ離れを防ぐために、学校でスポーツ活動ができる手だてや法案を検討しだしている。
 小学校から大学まで体育の授業を必須なものにし、課外活動を教育活動として制度化したのは嘉納治五郎(かのうじごろう)によるものだが、このシステムは、スポーツ先進国からも熱い視線を浴びているのである。
 カンボジアの子どもたちが受けた体育の授業の感想にはこのようにある。「もっとたくさん体育の授業を受けたい」「どんなに仕事が忙しくても、体育の授業がある日は学校に来たい」
 世界の子どもたちが、学校で体育やスポーツを存分に実践できるようになること、これは日本人の国際貢献の重要なツールであり、使命ではないだろうか。


真田 久
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