“観る”競技から、“する”スポーツへ




 熱狂のサッカーW杯が幕を閉じ、これにとって代わるようにして欧州では自転車レースの最高峰ツール・ド・フランスが波乱につぐ波乱で後半戦に突入した。極東の地に住まうわれわれ日本人にとっては、熱く、眠れぬ夜が続く。

 寝不足気味の先月から今月にかけて、一般参加型のスポーツ大会を取材する機会が立て続けにあった。ひとつは「北海道富良野アースライド」という自転車のロングライドイベント、もうひとつは「館山わかしおトライアスロン大会」。自転車、トライアスロン、いずれも根強い固定ファンを抱える競技だが、最近では新たな層が増えており、改めて脚光を浴びている。
 かくいう私も、その予備軍といっていい。
 トライアスロンに関しては1999年から、ある女子選手との出逢いを機に取材を重ねてきたが、自分がやろうなどとは、つゆも思わなかった。なにしろ彼女はオリンピックの日本代表選手で、出場する大会はエリートと呼ばれるトップ選手のレースばかり。苦しい日々の練習をそばで見ていたこともあり、自分にできるなどとは、とても思えなかった。

 他方、スイム、バイク(自転車)、ラン(ランニング)の3種目をこなす超人的な競技に魅力を感じていたし、鍛え抜かれた身体と柔軟な思考の持ち主が多いトライアスリートたちを尊敬もしていた。「あんなふうになれたら、カッコイイな」と、彼らはいつでも憧れの存在であった。
 そんな雲の上のようなトライアスロンが、館山の大会で一気に身近になった。自分と同じような年齢や背格好、普段は仕事をもっている一般参加者たちが、誰かと競うのではなく、それぞれのレベルの中で自分の限界に挑戦している姿に共感したからだ。
 これまで競技としてしか観てこなかったトライアスロンが、急に自分にもできるスポーツに思えてきた。

 大人になってから新しいことをはじめる場合、きっかけをつかむのが意外と難しい。そこで提案だが、「以前からやってみたいと思っていた」「最近興味をもってはじめてみたいと思っている」というスポーツのある方は、ぜひ一般参加型の大会を観に行くことをおすすめする。会場には、さまざまなレベルの老若男女が集まっていて、ウエアや道具など、たいへん参考になる。その場で声をかけてアドバイスをもらうのもいいだろう。また、運営サイドも愛好者の裾野を広げるべく、何かをたずねられたら、よほど仕事が立て込んでいない限り、親切に教えてくれるはずだ。

 そうして情報を集めれば、次のステップはスムーズで、ウエアや道具選びがはじまる。これが実に楽しい。トライアスロン挑戦に目覚めた私は、ランには多少覚えがあるので、自転車をはじめることにした。ロードバイクはデザインが豊富で目移りしてしまう。価格もピンからキリまで。下は5万円台から、上は100万円を越えるものまである。調べれば調べるほど迷いの種は増えるばかりだ。
 波乱のツール・ド・フランスの行方を見守りながら、ロードバイクのカタログをハート型の目で眺める毎日。熱く、眠れぬ夜は当分続きそうだが、“観る”にとどまっていた憧れの競技が、実際に“する”スポーツになるというのは、なんともエキサイティングなものである。


高樹 ミナ(たかぎ みな)

スポーツライター

2000年シドニー大会の現地取材でオリンピックの魅力に開眼。

2004年アテネ大会、2008年北京大会を含む3大会を経て、

2016年オリンピック・パラリンピック招致に招致委員会スタッフとして携わる。

競技だけにとどまらず、教育・文化・レガシー(遺産)などの側面から

オリンピックとスポーツの意義や魅力を伝える。

日本文化をこよなく愛し、取材現場にも着物で出没。趣味は三味線と茶道。

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