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※このコラムは第35話の続編です

 イングランドのヘレフォードで8月14日から9日間に渡って開催されていたブラインドサッカー(以下、ブラサカ)の世界選手権。世界10か国の代表が一堂に会し、W杯南ア大会にも劣らぬ熱戦を連日繰り広げた。
 初出場だった前回大会後の4年間で国際経験を積むなどして強化を図ってきた日本は、ベスト4を現実的な目標に掲げていたが、決定力不足が悩みのタネ。押し気味の試合は多々あったが肝心の1点をどうしても奪うことができず、5チームずつに分かれて戦ったグループリーグでは2敗2分。前回覇者アルゼンチンとの順位決定戦も「0-1」で惜敗し、世界と戦える手応えはあったものの改めて壁の厚さを実感させられた。

 しかし、ブラサカという競技の魅力を多くの人に知ってもらうという点で、今回は大成功だったのではないだろうか。日本ブラインドサッカー協会は学生スタッフ1名を現地に派遣し、ユーストリームで試合をライブ配信。お金と人手をかけるテレビ中継のようなわけにはいかないが、めったに観ることのできないブラサカの試合を臨場感たっぷりの映像で熱く伝えたのである。ライブ映像の視聴者がツイッターで発信するつぶやきも同じ画面上にリアルタイムで掲示し、その反響は1試合あたり1000を超えるほど。「初めて見たけど、スゴイ!」「こんなサッカーがあるなんて知らなかった」といった声が多く寄せられ、新たなファンを獲得した。
 この映像を使って、8月19日の韓国戦は池袋のパーティースペースでパブリックビューイングを開催。フォトジャーナリストの宇都宮徹壱さんら3人をゲストに迎え、トークを織り交ぜながら会場と現地が一体となって試合に一喜一憂する。選手たちの動きが“見えない”ことをまったく感じさせないせいか、「そこでシュート!」「もっと強いシュートを打たなきゃダメだろう」と容赦なく叱咤激励の声が飛ぶ。試合は「0-0」の引き分けに終わったものの、みんなで1つになって応援するというスポーツならではの興奮にしばし包まれた。この日のライブ配信は、PV会場の約70人に加えて視聴者の数も498人に達し、ブラサカが1つのスポーツとしていかに魅力を持った競技であるかを裏付けた。

「ブラサカという言葉だけを知っている人とプレーを観たことがある人ではやはりギャップがあるんです。それを埋めるために動画でしっかり見せ、ブラサカの魅力を伝えることがどうしても必要だった」
 日本ブラインドサッカー協会の松崎英吾事務局長は今回の仕掛けについてそう語る。幸い、NTTデータの協賛を得て費用を捻出することができたので、「ライブ配信やツイッターを使うことでブラサカの魅力を多くの人に伝えたい」と発案した学生スタッフ(通称レッド)を現地に送り込み、借り物の機材で超ローコストな手づくりライブ配信が可能になったのである。
「ウチの事務局には常勤が3人、学生インターンが6人、社会人ボランティアが10〜15人いるんですが、何かを実現したくてここに来ている人たちばかり。世界選手権開催中は休日返上で徹夜しているスタッフもいました。誰かから与えられてやる仕事より、自分がやりたいと思うことをやった方が結果も出ますし、組織としても健全な方向に向かうとぼくは思うんです。外から見えない部分なんですが、個人的には彼らをすごく自慢したいですね」
 チームスポーツの裏方であり障害者組織の裏方でもある日本ブラインドサッカー協会は、自分たち自身もチームワークやコミュニケーション、各自の個性や多様性が大切だということを体現する組織でなければいけない。「この2つが組み合わさった組織はめちゃめちゃパワフルですよ」と松崎さんは言う。

 世界選手権をきっかけに生まれた熱気を、次につなげる取り組みもすでに始まっている。協会がこの秋から本格展開しようと準備しているのが『ブラインドサッカー“スポ育”プロジェクト』で、小・中・高校に講師(ブラサカ選手)を派遣し、一緒にサッカーで汗を流しながらチームワークやコミュニケーションの重要性、個性の尊重、障害者への理解を深めてもらおうという活動だ。これまでも地道にやってはいたが、年に1〜2回のイベントとしてやるのではなく、少人数で何回も積み重ねていことで社会への浸透を図ろうと企業の協賛も仰ぎつつ体制を整えた。いずれは全国展開をする予定だが、授業の質を一定に保つため当面は東京都限定で行うといい、1回につき50人、年200回(週4回ペース)の実施を目指す。
「今、全国の少年サッカー人口が1学年あたり7〜9万人といわれています。その子供たち全員が卒業するまでの間に“ブラサカをやったことがある”という状態にしたいんです。これを10年継続すれば、100万人近い子供たちが選手と一緒にブラサカを体験することになり、障害者に対しても“かわいそう”ではなく“この人たち何だかスゲェ!”と意識がポジティブに変わるんじゃないか。これまでと違った価値観を持つ人材を生み出すことで、社会全体も相当変わると思うんです」

 競技人口400人というマイナー競技ながら、今は何千人もの人たちが応援してくれるイメージがしっかり持てているという松崎さん。競技としての魅力もさることながら、社会におけるスポーツの意義や価値をいかに高めていくかという点でもブラサカの取り組みは興味深い。こうした事例は障害者スポーツという枠を超え、多くのマイナー競技でも参考になるのではないだろうか。

ブラサカ及びイベントの詳細情報は下記サイトへ
●日本ブラインドサッカー協会(JBFA)

http://www.b-soccer.jp/


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