ココロに効くスポーツ〜病と生涯スポーツ〜
寒さも底の1月下旬。防寒に余念のないこの時期、私の通うテニススクールでは老若男女が駅ビルに併設された屋外コートで日夜、汗を流す。会員の年齢層は、下は5歳から上は70代までと幅広く、レッスンに通う目的も技術の向上や健康維持、仲間づくりなどさまざまだ。 その中で、週3回、朝一番のレッスンに通う小野良重さんは、来月76歳の誕生日を迎えるテニス歴20年のベテランだ。ボールにラケット面をうまく合わせてコースをつく打球が見事で、ゲーム中は油断をすればすぐに痛いところをつかれてしまう。一見、人あたりはぶっきらぼうなのだが、ユーモアあふれる何気ない一言で場をなごませてくれる温かい人柄だ。 そんなスポーツマンの小野さんも6年前、食道ガンを患った。それまで病気らしい病気をしたことのなかった小野さんにとって、まさに青天の霹靂(へきれき)。職場の定期健診で腫瘍が見つかった後、すぐに入院して切除手術を受けたが、切除部分が腫れてしまったため術後の経過が思わしくなく、約1カ月間の点滴生活を余儀なくされた。退院しても、のどの違和感と再発への不安で気分がふさいだという。 現在も定期健診を受け、食生活に気を配りながらガンの再発を予防している小野さん。再発への不安が消えることはないが、テニスをしているおかげで気が晴れ、気持ちが前向きになるという。「本当はラケットじゃなくて、杖をついている歳なのにな」。話の最後にそう言って笑いながら、小野さんは仲間の待つテニスコートへと向かった。 スポーツが身体能力やコミュニケーション能力の発達だけでなく、精神面に良い効果をもたらすことは周知の通りだ。小野さんの場合、他者がスポーツを楽しむ姿や成長の過程に心を癒されたという、スポーツで形成されたコミュニティーの効果が興味深い。小野さんの体験はさまざまな年齢や境遇の人々が交わることで生まれるスポーツの相乗効果と、生涯を通じてスポーツを続ける意義を教えてくれている。
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