このたびの東日本大震災に伴う被害の大きさが、日ごと明らかになる中、読者の皆さんも胸を痛める毎日が続いていらっしゃることだろう。筆者にも7年前、新潟県中越地震で身内が被災した経験があり、現地で被害に遭われた方々や、そのご家族のことを思うと暗い気持ちになる。スポーツ界でも連日、関連イベントの中止が告げられ、スポーツとは世の中が平穏だからこそのものだと痛感するばかりだ。 しかし、このような非常時にスポーツにできることはないかといえば、そうではない。1995年に起きた阪神淡路大震災のときには、地元のプロ野球チーム・オリックスが「がんばろうKOBE」を合言葉に復興の願いをこめてペナントレースを戦い、リーグ優勝。翌年には日本一に輝き、被災地に活力をもたらした。プロ野球界では今回もいち早く、震災発生から3日後のオープン戦緒戦で募金箱を設け、一日で100万円超を集めている。 スポーツ界のチャリティーへの取り組みは災害時もさることながら、通常時においても進められるべきであろう。そうした意味では、去る2月27日に開催された東京マラソンが初めて本格的なチャリティーランナー制度を導入したのは注目すべきである。 「東京マラソン2011チャリティー“つなぐ”」と題したこの試みは、1万円の参加費とは別に10万円以上を寄附することで出走枠を得られるというもので、先着1,000人の募集枠に707人がエントリーし、大会直前の2月25日までに総額7,184万5000円を集めた。集まった寄附金は東京マラソンの主催者である「一般財団法人東京マラソン財団」が、寄附者(個人のみ、法人は除く)の希望に沿って、(1)難病と闘う子どもと家族、(2)水源の森と村の再生プロジェクト、(3)難民キャンプ、(4)障害者アスリートといった4分野の関連団体に分配する。 チャリティーマラソンと呼ばれる大会はこれまでにもあったが、それらは参加費の一部が寄附される形式で、東京マラソンのようなケースは日本初。海外の大規模市民マラソンに倣った、いわゆる世界のスタンダードだ。 例えば1981年から行われているイギリスのロンドンマラソンは、3万5,000人を超える参加者のおよそ4分の3がチャリティーランナーで、一昨年は4,720万ポンド(約62億1,397万円)を集めた。また、アメリカのシカゴマラソンも1,000万ドル(約8億1,680万円)を集める大規模なチャリティーマラソンだ。ちなみに寄附金の金額設定は1枠につき10〜20万円以上が相場となっている。 しかし、海外では一般的なこうした感覚も、日本ですぐに受け入れられるとは限らない。チャリティーランナー制度のスキーム作りに奔走した東京マラソン財団の白井耀企画担当部長も、「チャリティーランナーの本来の意味を理解してもらえるかどうかがポイントだった。高額なお金を出せば大会に出られると捉えられるのではないか、そういう心配があった」と話す。 確かにチャリティーランナーの募集は一般ランナーの当選発表後だったこともあり、その時期や実施方法、目的などの透明性を疑問視する声も上がった。しかし実際に参加したランナーたちは、日ごろから環境問題に関心を持っていたが、自分に何ができるか分からなかったとか、障害者スポーツを応援していたけど、それを形にするきっかけを探していたという方が多く、「それぞれ高い意識を持っていらっしゃるのが印象的だった」と白井さんは語っている。 ただ、「寄附が控除の対象となり、企業が補助金を出して寄付行為を奨励する欧米に比べ、日本にはそうした環境が乏しい」と白井さんが指摘するように、わが国のチャリティー活動の活性化には個人の意識だけでなく、社会を挙げた取り組みが必要だ。そういう意味では、東京マラソンのような影響力のあるイベントが、課題を残しながらも一歩踏み出したことは評価に値するといっていいだろう。ぜひ来年以降に注目したい。 今回のチャリティーランナー制度によって集められた寄附金は、前述の寄附先4分野に加え、大地震に見舞われたニュージーランドへも届けられた。現在は東日本大震災への支援が急ぎ検討されている。
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