春眠、暁を覚えず—-。寝覚めが良くないのは春に限ったことではないが、この日ばかりは違った。日本時間4月11日の朝。男子ゴルフ今季メジャー第1戦のマスターズ・トーナメント最終日。石川遼選手の結果もさることながら、今回はそれ以上に気になる存在がいた。日本人のアマチュアプレーヤーで初のマスターズ出場を果たした松山英樹選手だ。 一気に眠気を吹き飛ばすビッグニュースを届けてくれた松山選手は現在、東北福祉大学に通う2年生。石川選手とは同い年の19歳で、二人はジュニア時代にしのぎを削った。中学時代最後となる2007年3月の全国中学選手権大会では優勝争いを演じ、このときは石川選手に軍配。しかし、いずれも日本ゴルフ界の将来を担う期待の星として注目を浴びてきた。 そして乗り込んだ夢の大舞台、オーガスタ・インターナショナル・ゴルフクラブ。アマチュアで唯一、予選を通過し決勝へ駒を進めると、迎えた第3ラウンドでは18位タイにつける大健闘をみせた。世界の強豪と肩を並べた、まさに怒とうの4日間。最終ラウンド直後の公式インタビューでは、「マスターズでプレーできて本当にうれしく思う」と安堵と緊張が入り混じる、なんとも初々しい表情で語った。そして、「日本は今、大変な状況だが、勇気を与えるプレーができたんじゃないかと思う」という言葉が、日本で起きた惨劇を知る世界中の人々に“TOHOKU”を印象づけた。 彼の通う東北福祉大学も今回の大地震で被災した。大会前には大学側に「こんなときに不謹慎だ」とマスターズ出場辞退を求めるメールなどが届き、同大学ゴルフ部の阿部靖彦監督をはじめ関係者は厳しい決断を迫られたという。選手本人は、さぞ胸を痛めたことだろう。 この週は国内でも、被災地仙台を本拠地とするプロ野球チーム・東北楽天ゴールデンイーグルスが開幕戦で勝利を挙げ、その熱い戦いぶりが東北の人々に元気をもたらした。性別や年齢を問わず愛好家が多いゴルフもまた、野球と並び人々の共感と感動を得たスポーツだろう。松山選手がまだ19歳のアマチュアプレーヤーであることも意味深い。 13日に帰国した松山選手は被災地へ戻り、ボランティア活動にあたるという。東北福祉大学ではボランティア会を立ち上げ、被災した人々の心と体のケアにあたっているのだ。世界中が注目する華々しい舞台と未曾有の震災という、まったく相反する経験を同時期にした彼が、今後どのような価値観を持つアスリートに成長していくのか。じっくりと見守っていきたい。
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