3月11日の大震災からはや2か月。被災地の復興に向けて、募金活動やチャリティーマッチの開催、被災地に選手を派遣してスポーツ教室行うなどで、スポーツ界も社会の一員としての使命を果たそうとしている。そんな現場をぜひ自分の目で見てみたいと思い、4月29日の東北楽天イーグルスのホーム開幕戦に足を運んだ。
 往復のバスと観戦チケットがセットになったツアーを利用したため、前夜11時に東京を出発し朝6時過ぎに仙台に到着。プレーボールの午後1時までフリータイムとなったので、時間の許す限り仙台周辺の被災状況を徒歩で見て回ることにした。

 まずは駅から楽天のホームであるクリネックススタジアム宮城(Kスタ宮城)に向かう。震災直後の衝撃的な映像が脳裏に焼き付いているせいか、建物や道路にその爪痕が残っているのだろうと思っていたのだが、外観を見る限り、「本当にここであんなひどい地震が起きたのか?」と思ってしまうほど。Kスタ宮城も地震で被害を受けたと聞いたが、開幕戦の開催に備えて修復されていた。
 そこで、もう少し海岸方面に歩を進めてみようと思い、まっすぐ東に向かう。国道4号を越えた先の六丁の目という地区で、以前取材で世話になったたばこ屋さんに立ち寄ると、建物自体は大丈夫だったが、激しい揺れで瓦がメチャメチャになったという。よく見ると屋根にブルーシートが張られていた。マンホール近辺にも5センチほどの段差が生じており、一帯は明らかに地盤沈下していた。

「津波はほんの1キロ先まで押し寄せてきていた。(仙台)東部道路の向こう側は大変な被害。ここまで来たなら、その様子を見て取材するといい」
 そう言われてさらに足を伸ばしてみると、東部道路を境に風景が一変した。田んぼだったところには津波で流された家の残骸や家具、クルマのほか、海岸に生えていたのであろう松の大木が無残に転がっている。東部道路が堤防の役割を果たしたので道路の陸側は被害が小さかったが、海側は免れようがなかったのだ。かすかに潮の匂いが漂うが、それを打ち消すように側溝にたまった水がドブ化して悪臭を放っている。荒浜地区の海岸沿いには多くの住宅が建っていたらしいが、残っているのは家の基礎部分だけ。それ以外は跡形もなく、辺り一面何の障害物もなく見渡せる。3月11日に牙をむいた三陸の海も、この日は極めて穏やかだった。

 正午近くにバスで仙台中心部に戻りKスタ宮城に向かったが、球場はすでに大勢の観戦客で賑わっている。お昼時とあって仙台名物の牛タンや選手プロデュースの弁当コーナーには長蛇の列ができており、空腹を満たすのも至難の業。荒浜地区の現実とはあまりに対照的な雰囲気にすぐには頭を切り換えられなかったが、仙台の人たちがいかにこの試合を待ち望んでいたかが窺えた。
 先発に指名されたマーくんこと田中将大投手は、ファンの声援に後押しされて気持ちのこもったピッチングを展開。打線も2回裏のチャンスにヒットを集中させ、3?1でオリックスに快勝した。東北人の気質なのか汚いヤジを飛ばすこともなく、球場に詰めかけた20613人のファンが選手を見守るまなざしは温かい。勝利が決まった瞬間に勢いよく空を舞ったジェット風船には、選手とファンの復興に賭ける思いが感じられ圧巻だった。

 試合後のセレモニーで嶋基宏選手が行ったスピーチも見事だった。どこかの首相のように用意された原稿を棒読みするのではなく、自身の思いを込めながら一言ずつ自分の言葉でファンに語りかける。
「震災後、選手みんなで“自分たちに何が出来るか?”“自分たちは何をすべきか?”を議論して考えぬき、東北の地に戻れる日を待ち続けました」
 この言葉に、私は思わず鳥肌が立った。
 震災被害の深刻さを見るにつけ、「スポーツに一体何ができるというのか?」とやや悲観的な気持ちになっていた。だが、この試合は単なる野球の試合なんかじゃない――。そう信じ直させる何かが間違いなくあった。


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