「サッカーライターを集めて何かできないか?」

 そんな些細な呼びかけに端を発した企画本が4月下旬、1つの作品として結実した。その名も『FOOTBALL WRITER’S AID サッカーのチカラ』。スポーツ選手による復興支援の募金活動やボランティア活動はしばしば報じられるが、報じる側のライターも「何かの役に立ちたい」と結束してアクションを起こし始めた。
 『サッカーのチカラ』の担当編集者で、サッカーや格闘技などスポーツ関連書籍を発行する東邦出版の中林良輔編集長はいう。
 「ぼく自身、神戸出身で阪神大震災を経験していますので“被災者の力になりたい”という思いは強かったんですが、サポーターたちも含めてサッカー界の動きは速かったですね。震災翌日には“チャリティーフットサルを開催できないか?”“チャリティーオークションをやろう”といった企画が何本も立ち上がり、ぼくのところにも協力してほしいという連絡が来ていました。その中の1つが、ライターのミカミカンタさんから提案いただいた今回の企画だったんです」

 さっそく社内で検討作業に入ったが、2つの問題があった。1つは紙を使った出版物として発行する場合のリスク。その時点ではどんなライターが協力してくれてどんな内容になるのかもわからない。印刷物にすれば紙代、印刷代、書店に卸すための取次手数料など相当なコストがかかる。チャリティーとはいえ売上がマイナスになることを承知で会社に「やりましょう」とは言えなかった。

 もう1つは、印刷物にしてしまうと前述したようなコストがかかるため、収益をすべて義援金に回したとしても売上全体の20%程度にとどまってしまうことだった。出版界の仕組みを知らない一般の人にしてみれば、「売上の80%はどこに消えるんだ?」という不透明感がどうしても残る。こうしたリスクを回避して義援金を増やすための最善策が“電子書籍”だった。

「電子書籍は紙代や印刷代がかからない分、チャリティーに回せるお金の比率がグンと高まるんですよ。電子書籍での書き下ろしは今回が初めてですが、本として出版した作品を電子書籍化する作業は何回もやったことがあるので、電子書籍サービス『honto』の担当者に相談したところ、サッカー好きの人でもあったのですぐに“やりましょう!”ということになったんです」

 今回、中林さんが声をかけたのはサッカーを専門にするライター120人。原稿のテーマは「サッカーのチカラ」で、エッセイでもコラムでも、ストーリーがあってもなくても、フィクションでもノンフィクションでも書き方は自由。それぞれの書き手の得意分野に特化した形で書いてほしい旨を伝えた。チャリティー企画なので通常書き手に支払われる印税はすべて義援金に回される。
 「震災は直球でぶつかるとかなり重いテーマなので、“賛同します”といって書き始めたものの“やっぱり書けない”と断念した方もいれば、“こうした企画に名前を出して参加するより、義援金という形で匿名で復興に協力するのが自分のやり方だ”と断られた方もいましたが、最終的に107人が原稿を寄せてくれました。同じテーマで書いてもらっただけに内容がかぶることも予想していたのですが、真っ向から震災と向き合って書いた人、震災とは違う視点からサッカーの力について書いた人など内容は千差万別で、107の原稿がそれぞれ違った輝きを放っています。通常のサッカー原稿とは違い、それぞれのライターさんの素の文章を読むことができるので、読者は新たな発見があって楽しいんじゃないでしょうか」

 こうしてまとめられた『サッカーのチカラ』は4月22日に発売された。1本が1500字に収められているので、ショートストーリー集のようにサクッと読めるのが特徴。通勤時にスマートフォンなどの小型ディバイスで読むのも苦にならない。関係者の努力のおかげで、1冊当たりの売上1200円のうちなんと1000円が東日本大震災の義援金として寄付され、復興支援に使われるという。

 企画コンセプトが共感を呼び、発売直後からツイッターやフェイスブックを中心にサッカー情報に敏感な人たちの間で評判となり、電子書籍としては異例のベストセラーになっている。だが、ネット上で購入してダウンロードするための登録手続きや、コンテンツを読むためのビューワーもダウンロードする手間がかかるため、ダウンロード数は約500にとどまっている。「実際のサッカーの力はこんなものじゃありません。最低でも1000、できれば1万ダウンロードを目指したい」という中林さんにとって、まだまだ物足りないのが実情だ。ネット上の購入手続きを簡便にすることと、サッカーという枠の外側にいる人にもいかに知ってもらうかが、今後の売上アップのカギになるだろう。

 「復興支援のあり方は様々なのでお金の多寡だけで切り取ることはできませんが、義援金という数字は“サッカーやスポーツでこれだけのことができるんだ”と具体的に示すチャンスだと思うんです。逆に言えば“今、スポーツ界にどれだけのことができるのか?”が、問われているのかもしれませんね」

 果たしてスポーツの力はいかほどか。競技の枠を越えた結束と協力で、ぜひともその底力を示したい。

●電子書籍販売サイト「honto」

http://hon-to.jp/


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