スポーツの名場面に名曲はつきものだ。その曲を聴くだけで、当時の興奮と感動がよみがえる。ことオリンピックに関しては大会の数だけ、人々の心に残る名曲があると言っていいだろう。 今年は去る6月12日に行われ、結成100周年を迎える東京フィルハーモニー交響楽団の演奏とオリンピアン・パラリンピアンの出演が、会場のNHKホールをおおいに沸かせた。 プログラムは、第1部が「オリンピックの力」、第2部は「わが心のオリンピック」と題した2部構成で、ステージ上の大型スクリーンに映し出されるオリンピックの名シーンを、オーケストラ演奏とともに振り返るという設定だ。 序盤は1984年ロサンゼルス大会のオープニングテーマとなった『オリンピックファンファーレ』(ジョン・ウィリアムズ作曲)に乗せて、過去のオリンピックの開会式が次々と映し出された。ロサンゼルスオリンピックの開会式といえば、印象的だったのはなんといってもロケットマンの演出だろう。当時、筆者は14歳。未来を夢見る年頃ということもあり、背中に背負ったロケットで人が軽々と宙を飛んだあのインパクトは忘れられない。 また、2000年シドニー大会の最終聖火ランナー、キャシー・フリーマンの点火シーンも印象に残る一場面だ。オーストラリアの先住民族アボリジニの出身である彼女は、アボリジニと白人社会の「和解の象徴」となるべくこの大会に臨み、陸上女子400mで見事、金メダルに輝いた。ゴール後、アボリジニ旗と豪州国旗を掲げて走った裸足のウイニングランはすがすがしく、心から拍手を送った。 コンサートの中盤にはフィギュアスケート界のスター、髙橋大輔選手と浅田真央選手が登場し、ステージに華を添えた。近況を報告するインタビューの後、演奏されたのはイタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニ監督の映画『道』から「ジェルソミーナ」(ニーノ・ロータ作曲)。2010年バンクーバー冬季大会で髙橋選手が銅メダルを獲得したフリープログラムの曲だ。 ニーノ・ロータといえば、アラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』や『ゴッドファーザー〜ワルツ&愛のテーマ』といった名作の映画音楽を手がけた作曲家として知られる。 髙橋選手がこの曲を選曲したことは映画ファンにはたまらなかっただろうし、それまでジェルソミーナを知らなかった人にとっても、名曲を知る良いきっかけになったはずだ。浅田選手にいたっても、バンクーバーで銀メダルを獲得したハチャトゥリアンの『仮面舞踏会』が日本で広く知られるようになったように、フィギュアスケートは音楽への見識も広げてくれる特殊な競技と言えるだろう。ちなみに『仮面舞踏会』は2009年のオリンピックコンサートで演奏されていた。 今年は他にも、バンクーバー冬季大会でNHK放送のテーマソングになった日本の人気バンドL’Arc〜en〜Cielの『BLESS』や、昭和期にスポーツ放送の代名詞にもなった『スポーツ・ショー行進曲』、1964年東京大会のテーマソング『オリンピック・マーチ』(ともに古関裕而作曲)など、幅広いジャンルと時代の曲が当時の映像とともに披露された。また、豪快なメダル獲得シーンにぴったりなエルガーの行進曲『威風堂々』やラヴェルの『ボレロ』といった壮大なナンバーも登場するなど、その数は実に13曲に及んだ。いずれも観客たちを、それぞれの心に残るあの日、あの瞬間にいざなう名曲と名シーンばかりであった。 スポーツと音楽という別のジャンルを融合させたオリンピックコンサートは、スポーツの好き嫌いや年齢、性別を問わず楽しめる、スポーツ関連のイベントのなかでも大変珍しい試みである。オリンピックコンサートをご存知ない方は、ぜひ来年、足を運ばれてはいかがだろう。オリンピックと音楽の結びつきと、その相乗効果を再発見するはずだ。 ※今回のオリンピックコンサートは東日本大震災の復興支援チャリティー事業として開催され、観戦チケットの収益および会場で募った募金は、日本赤十字社を通じて被災地の救援に役立てられています。
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