プールが恋しい季節になってきた。今月下旬にはロンドン五輪の前哨戦となる世界水泳が上海で開催される予定で、いよいよ夏も本番である。
 ここ3〜4年、世界の競泳界は水着問題に揺れてきた。2008年の北京五輪では、スピード社が極細繊維の薄い生地にポリウレタンの低抵抗パネルを貼りつけた水着『レーザー・レーサー』を開発し、メダルを独占。09年の世界水泳ローマ大会では、極限まで摩擦抵抗を抑えたラバーやポリウレタンの高速水着が脚光を浴び、レーザー・レーサーから主役の座を奪い取った。おかげで10年からは水着の性能によって選手の勝敗が左右されぬよう規制が入り、ラバーやポリウレタンは一切禁止。すべて織物素材でつくられた水着に統一されている。

 こうした開発競争の中で、スピードとアリーナという2大ブランドが長年シェアを争ってきた牙城に、彗星のごとく現れて話題をさらったのがイタリアの新興メーカー、ジャケッド社だ。もともとは製品をパック包装する機械を製造していたという同社が、そのノウハウを生かして縫ったり編んだりすることなく、生地と生地のつなぎ目を熱で圧着させるポリウレタン製の画期的な水着を発想。つくってみたら予想以上の大成功を収めたというわけだ。2年前の世界水泳では、その速さから試着したいという選手が殺到し、水着を借りるのに4時間も待たされたという。着たくても着られなかった選手は日本にも多いはずだ。
 そのジャケッド社の水着を昨年4月から日本で独占輸入販売すると同時に、『ジャケッド』ブランドの一部製造販売も今年から行っているのが東京・両国にある小さなメーカー、フットマークである。
 フットマークは水泳用品と介護用品が事業の柱というちょっと異色の企業で、1946年に赤ちゃん用のおむつカバーをつくる会社として創業。少子高齢化により寝たきり老人用のおむつカバーに軸足を移したのをきっかけに、介護用品ビジネスへと事業を転換してきた。その一方で、おむつカバーと同じ技術でつくれるスクール用の水泳帽を開発し、スイミングビジネスも手がけてきた。水泳帽では国内ナンバー1のシェアを持っている。

 私はちょうど10年前、同社を取材したことがある。カナヅチで水とは縁のなかった人たちにも水泳の楽しさを知ってもらいたいと、救命胴衣と一体化したような浮力のついた水着『浮きうき水着』を開発したところ、年配女性から支持を得て、新たな需要を掘り起こしていたのである。ひたすら速く泳ぐことに特化した競泳水着とは対極にあるユニークな発想が、強く印象に残っていた。
 その会社が競泳のトップブランドと契約とはどういうことなのか? 興味を引かれて再び取材に出かけた。
「弊社は、赤ちゃんが生まれてすぐに水に入るための用品からスクール水着、フィットネスや中高年向けの健康水着まで、各種商品ラインナップがそろっています。一生涯に渡ってウチの商品と共にプールに通い、健康づくりに役立ててほしい。それが会社としての夢なんです。ただ、競泳だけは開発競争が厳しくてなかなか手が出せず、ポッカリと抜け落ちていたんです」
 ジャケッドプロモーションチームの小林智也さんは言う。水泳とは縁のなかった40〜50代の人たちが、健康のために水泳を始めるときに選ぶのは“競泳水着のブランド”とのリサーチ結果もあり、夢をかなえるためには競泳市場の参入は避けて通れない道だったのだ。

※ 以下、次回(7/15)に続く


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