2016年リオ五輪めざす 女子ラグビーにニューウェーブ


 “なでしこジャパン”旋風吹き荒れる、この夏。日本のスポーツ界に新たな女子チームが誕生した。2016年リオデジャネイロオリンピックから正式種目に採用される7人制ラグビーの「戸塚共立メディカルセブンズラグビークラブ(TKM7)」だ。

 8月8日に創設されたTKM7は、その1週間前に日本ラグビーフットボール協会で記者会見を開き、初年度としては驚くほど手厚いチーム体制を発表した。
 まず、本拠地は神奈川県横浜市戸塚区。練習グラウンドには、“カズ”こと三浦知良選手も所属するサッカーJ2の「横浜FC」のホームグラウンドを確保した。手入れの行き届いた人工芝が広がる贅沢な環境だ。

 クラブオーナーは医療法人「柏堤会(はくていかい)」の理事長・横山秀男氏。地域の中核病院である「戸塚共立第1、2病院」を柱に地域医療の活性化に取り組む人物である。

 所属選手には戸塚第1、2病院の職員としての待遇が約束され、選手を引退した後もそのまま在職できる。ちなみに、現在27団体が登録する日本女子ラグビーフットボール連盟(2002年より日本ラグビーフットボール協会に加盟)のなかでTKM7は唯一の企業チームだ。他はクラブチームか個人チームでバックアップ体制がおぼつかず、選手たちは厳しい競技生活を強いられている。

 さらに指導者もそうそうたる顔ぶれがそろった。監督兼ゼネラルマネジャーに、元ラグビー日本代表で慶應義塾大学やU-21代表監督などを歴任した上田昭夫氏が就任。ヘッドコーチ兼チームディレクターには東芝府中、ヤマハ発動機などで監督を務め、昨年まで日野自動車のヘッドコーチだった花岡伸明氏が起用された。加えて現在、日本スケート連盟および日本オリンピック委員会(JOC)の強化スタッフである望月麻紀氏をアスレティックトレーナーに招いた。

 サポート企業もすでに7社が集まり、前述の横浜FCを筆頭に、食事、ウェアおよびスポーツ機器、トレーニングジム、インターネットサービスなどを提供する企業が名を連ねている。そのなかの一つ、戸塚駅前のフィットネスクラブ「フィットネス&スパ ヴィラックス」の支配人は元ラガーマンということもあり、TKM7のジムトレーニングはもちろん、グラウンド練習にまで参加する熱烈なサポーター。「戸塚の街の活性化につながるはず」と彼女たちの活躍に期待を寄せる。

 さて、肝心の戦力だが、現在選手は6人。中心には日本代表メンバーとして、昨年8月の広州アジア大会を戦ったスタンドオフの横山里菜子選手を据えるが、その他はなんとラグビー未経験者である。いずれも大学で本格的にソフトボールや硬式野球をやっていた競技者とあって、身体能力も向上心も高いが、ラグビーはまったくの素人だ。

 来春には、日本代表メンバーの鈴木郁美選手と田中彩子選手(ともに日本体育大学4年生)の加入が内定しており、戦力アップが見込まれるが、現状はまだボールの持ち方やパス回しなど、ラグビーのイロハを一から教えている段階。体づくりも始まったばかりで、「アスリートの体になるまで半年はかかるだろう」と上田監督は言う。しかし、今回のチームづくりは何よりも、スポーツと社会の連携に大きな役割を果たすと監督。

 「チームの母体は医療法人だから、メディカルサポートが充実している。スポーツ医科学に裏づけされたトレーニング環境が整っているというのは、競技力の向上とケガ防止にとても重要なんです。それにここはリハビリテーション病院や介護施設なども持っているから、選手は引退後、自身の経験を踏まえた医療人として社会に貢献できる。もちろんそのためのステップアップも支援していきます」と話している。

 なるほど、このシステムならば、アスリートの多くが抱えるセカンドキャリアの不安解消につながり、企業側の利益にもつながるだろう。また、スポーツを通じて培ったアスリートのノウハウが医療の現場に生きるということは、当コラムでも医療経営学を学ぶ清水宏保氏のケース(第82話)や、東日本大震災の被災地に赴いたオリンピックドクターの活動(第73話)などで伝えてきた。TKM7には2016年リオ五輪の代表選手を輩出するという大きな目標もあるが、ぜひアスリートのセカンドキャリア対策やスポーツの社会的価値を証明するロールモデルとなってほしい。

 最後に、クラブオーナーである横山理事長について触れておきたい。病院経営で手腕を振るう横山氏は、もともと心臓外科の医学博士で、昭和大学医学部時代はラグビー部で主将を務めたラガーマンでもある。ラグビーを通じて学んだ“One for all,All for one”(一人はすべてのために、すべては一人のために)の精神は、専門職が集まり、支え合い、最良の医療を患者に提供するという医療の現場で生きたという。チーム発足の記者発表の席でも、「ラグビー精神は病院づくりにも当てはまる。また病院は約75%が女性職員で構成される職場。女子のラグビーチームを持つことには多くの意味がある」と話していた。

 スポーツで得たものを社会で生かし、社会で得たものを若いアスリートに還元する、横山氏のような人物を生み出すことが、スポーツの価値とも言えるだろう。

高樹 ミナ(たかぎ みな)

スポーツライター

2000年シドニー大会の現地取材でオリンピックの魅力に開眼。

2004年アテネ大会、2008年北京大会を含む3大会を経て、

2016年オリンピック・パラリンピック招致に招致委員会スタッフとして携わる。

競技だけにとどまらず、教育・文化・レガシー(遺産)などの側面からオリンピックとスポーツの意義や魅力を伝える。

日本文化をこよなく愛し、取材現場にも着物で出没。趣味は三味線と茶道。

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