第90話 オリンピックで地球を歩く!

 「ロンドンオリンピックへ行くには、どうすればいいですか?」
 「知○袋」なるインターネットサイトに、こんな質問を見つけた。「オリンピックへ行く」は「出場する」の意味ではない。そうかといって「観戦に行く」でもない。質問者はロンドンオリンピックになんらかの形で「かかわりたい」と考えているのだ。

 彼(彼女)に、なんとかヒントをあげたい。2000年シドニーオリンピックで初めてオリンピックの現場を知り、その魅力にとりつかれた筆者はそう考え、ボランティアスタッフの提案をしてみることにした。
オリンピックには必ず大会運営をサポートするボランティアスタッフがいる。人員は各大会の組織委員会がホームページを通じて募集するのだが、条件としては主に(1)健康である、(2)英語などの外国語が話せる、(3)渡航費・宿泊費などの経費を自己負担できるなど。ボランティアなので報酬は出ないが、その代わりスタッフ全員に大会オリジナルのユニフォームや帽子、ウエストポーチ、腕時計などが支給される。いずれもオリンピックファンにはたまらない“お宝”ばかりだ。

 ネックとなるのは宿泊先である。ボランティアスタッフは自力で宿を見つけなければならず、滞在も長期にわたる。しかも、大会期間中は宿泊料が4〜5倍に高騰するから、安易にホテルに泊まろうものなら、経費がかさんで仕方がない。比較的安価なホテルも争奪戦という具合だ。
では、どうするか。一般的にはあまり知られていない方法だが、ボランティアスタッフには仲間同士のコミュニティーがあり、これが大いに活躍する。世界各国から集まるボランティアスタッフに対し、開催都市に住むボランティアスタッフたちが知人・友人・家族・親戚などあらゆる人脈を使って、宿泊先を紹介してくれるのだ。

 筆者の経験から少しお話すると、2004年アテネオリンピックにボランティアスタッフとした参加した知人女性はアテネ在住の仲間にコンタクトを取り、ステイ先を確保。一般のお宅の敷地にあるゲストハウスで、シャワールーム・キッチン・リビングルーム・ベッドルームが2部屋完備された条件の良い物件を押さえた。これで1泊およそ5,000円。実は筆者もここをシェアさせてもらったのだが、条件の良さに加え、ホストファミリーとの交流が実に楽しく、生涯忘れがたい体験となった。
 これに味をしめ、2010年バンクーバー冬季オリンピックではインターネットサイトを利用し、自力でホストファミリーを見つけたところ、やはり彼らとの交流は楽しく、現地滞在を満喫できた。

 しかし、ここで断っておかなければならないのは、こうした行為について大会運営サイドはいっさい関知しないため、すべて自己責任のもとで行わなければならないということだ。
 実際、部屋の賃貸をめぐるトラブルは起きており、筆者もバンクーバーで、日本から手配しておいたマンスリーマンションがダブルブッキングされてしまい、現地に着くなり別の宿探しに奔走するはめになった。そのおかげで良いホストファミリーと出会うことができたわけだが、十分な注意が必要だということを身をもって実感した。

 ロンドンオリンピック(2012年7月27日〜8月12日)まで1年を切った。そろそろロンドン行きを考えている方もいることだろう。旅行会社の観戦ツアーも、“なでしこジャパン”の試合日程が好調な売れ行きだという。ツアーならば航空券と宿泊券、観戦チケットがセットになって、添乗員も同行するため安心だが、自分なりの方法でオリンピックに臨むというのも、また一興だ。
 すべてを自力でアレンジするとなれば、さまざまな場面で知力、体力が試される。交渉力やコミュニケーション能力、危険を察知する力も必要だ。だが、次々に現れるハードルを一つ一つクリアしていく過程はエキサイティングだし、住み慣れた日本では味わえない達成感、そして思いもよらぬ人々との出会いがある。

 オリンピックは冬季大会を含め2年ごとにやってくる。それを機に地球を旅してみるというのはいかがだろう。ボランティアスタッフも一つの手段だろう。その手はじめは来年の夏。近代スポーツ発祥の地、イギリスはロンドンからということで。

■「2012ロンドンオリンピック」ボランティアスタッフに関する詳細
http://www.london2012.com/get-involved/volunteer/index.php

高樹 ミナ(たかぎ みな)

スポーツライター

2000年シドニー大会の現地取材でオリンピックの魅力に開眼。

2004年アテネ大会、2008年北京大会を含む3大会を経て、

2016年オリンピック・パラリンピック招致に招致委員会スタッフとして携わる。

競技だけにとどまらず、教育・文化・レガシー(遺産)などの側面からオリンピックとスポーツの意義や魅力を伝える。

日本文化をこよなく愛し、取材現場にも着物で出没。趣味は三味線と茶道。

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