第91話 ラグビーW杯の日本開催に向けて

2011/9/30

 ニュージーランドで、ラグビーのワールドカップが開かれている。日本代表も出場しているのだが、大会が開かれていることすら知らない者も少なくない。オリンピックやサッカーのW杯とは注目度が違うようだ。新聞報道もそれを反映してだろうか、日本戦の前日・翌日ですら紙面は小さく、サッカーW杯のアジア3次予選、「なでしこリーグ」に関する記事に埋もれている。
 テレビも、日本テレビがかろうじて、日本の初戦となったフランス戦をライブ放送したものの、他のニュージーランド(NZ)、トンガ、カナダ戦にいたっては、試合終了後、しかも深夜12時過ぎの放送であった。準々決勝、準決勝、決勝の放送予定も組まれてはいるが、やはり午前3時過ぎの録画放送である。朗報は、独占放映権を得たJ SPORTS(有料放送)が10月1日から1週間だけ無料放送をしており、さらに、スカパー!のキャンペーンを合わせると23日の決勝まで観戦できる。ラグビーファンが増えることを期待したい。

 百年以上の歴史をもつ近代オリンピックや、1930年に始まったサッカーW杯に比べるとラグビーW杯の歴史はまだ浅く、1987年から始まった。豪州やNZの呼びかけにラグビーの母国イギリスの4つの協会(イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド)が応じて開催に漕ぎつけ、今年のNZ大会で7回を数える。観客数224万人、テレビ視聴者数42億人(いずれも2007年大会の場合)と、世界的注目度ではオリンピック、サッカーに次ぐといってよい規模の大会に成長した。
 日本代表チームは初回から連続参加している有数の国のひとつだが、通算成績は1勝21敗2分。なかなか勝ち星を上げることができない。1991年大会でジンバブエを相手に初勝利を挙げて以来、20年ぶりの勝利をめざした今大会、2勝を目標に掲げていたが、トンガのパワーに圧倒され(18-32)、カナダとは前回のフランス大会同様、引き分けに終わった(23-23)。
 日本代表の世界ランキングは13位前後と決して低いほうではないが、強豪が揃うW杯の壁はぶ厚い。勝てないせいなのか、マスコミも今一つ力が入らず、国民の目がラグビーに向くきっかけも少ない。その日本で2019年にはW杯を開催しなくてはならないのだ。世界で5指に入るラグビー人口(約12万人)を誇る日本だが、裏を返せば、総人口の99.9%は縁遠いと言ってよいこの国で、はたして祝祭は盛り上がるのだろうか。ホスト国としての責任は日本ラグビー協会だけに負わせて済むものではないように思う。

 財政面の心配もある。オリンピックやサッカーW杯では、その大会運営費は、テレビ放映権やスポンサーからの協賛金、公式グッズの販売、入場料収入などでまかなわれ、1998年長野冬季オリンピック、2002年日韓W杯では余剰金が生まれた。これに対してラグビーの場合、およそ180億円とみられる運営費は主に入場料収入から捻出しなくてはならない仕組みになっている。サッカーくじ“toto”を運営する日本スポーツ振興センターが36億円の助成金を出すとはいえ、不足分の確保は観客動員にかかっている。

 そのため、会場の一つとなる国立競技場が現在の6万人収容から8万に拡大するプランに期待がかかる。その一方で、今回のNZ大会では48試合のうち実に11試合が、最大収容数(6万2千人)を誇るイーデン・パーク競技場(オークランド)で行われるように、日本大会も国立競技場、日産スタジアム(横浜7万2千人)での試合が多くなるかも知れない。
 2009年に日本で開催された世界ジュニア選手権(U20)では、2019年の日本招致につながったと言われるほど動員に成功したらしいが、その後起きた原発事故の影響は計り知れないし、何より、国内ラグビーファンのボランティア精神とラグビー文化に根差したホスピタリティが試される。

 幸いかな、国の新しい学習指導要領は、中学・高校の体育理論において、国際的スポーツ大会の意義を学ぶよう定めている。「国際理解」「国際親善・友好」に重点が置かれ、生徒たちは、海外からやってくる選手や観客たちと積極的に交流できるチャンスだと教えられる。2019年は学習成果を実感する好機なのだ。
 それまでの間に、ラグビーについて学ぶと共に、NZや豪州、南アフリカ、英国、フランス、アルゼンチン、イタリアなど、出場が確実な国々については早くから学習を始めるなど、交流に備えたい。交流プログラムの企画と実現には、学校や地域の関係者のアイデアと熱意が問われよう。かくいう私自身も、新たな企画にトライしようと目論んでいる。

嵯峨 寿(さが ひとし)

筑波大学准教授(レジャー・スポーツ産業論)。秋田県生まれ。筑波大学体育専門学群卒業、同大学院修了、(財)余暇開発センター研究員などを経て現職。CSRや社会貢献活動などを通じた企業とアスリートのパートーナーシップが、双方およびスポーツや社会におよぼす効果などを研究。
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