第96話 イタリアにおける嘉納柔道への熱い視線
2011/11/04
10月末にイタリア北部のピエモントオリエンターレ大学で、柔道の創設者で教育者でもあった嘉納治五郎(かのうじごろう 1860〜1938年)についての国際会議が開催され、出席した。会議のテーマは、「青少年教育としての嘉納柔道」というもので、文明を西洋から享受した日本が西洋文明に返せるものは教育である、との嘉納の言説に基づき、その中身を探求するというものであった。主催はイタリアの教育省から公認を受けているイタリアスポーツ教育協会(AISE)で、この会は、柔道やその他の武道の愛好者、学校の教師、大学教授などから構成されている。創設者のバリオーリ氏は、東京高等師範学校(現在の筑波大学)出身の阿部一郎十段から柔道を教わり、嘉納治五郎の柔道こそ人間形成を育むことのできる教育的要素が含まれているとし、その普及に努めている。 さて、10月の会議には、イタリアの研究者はもちろん、スペイン、ベルギー、スウェーデン、そして日本から柔道や嘉納治五郎研究者を招いて3日間行われた。それぞれの発表の後、グループディスカッションを行い、発表者に質問を浴びせるというもので、嘉納治五郎についての理解を促すとともに、聴衆者であるAISE会員の知的トレーニングの場でもあった。また途中には、柔道の試合や稽古も行われた。 私に対する質問は、最近の日本で嘉納が再認識されてきているようだが、その理由は何か、嘉納の理念や柔道はどれくらい日本で広まりつつあるのか、どのような学校でどのように嘉納について教えられているのか、というものであった。本家本元における嘉納の位置づけについての関心は高い。果ては、東日本大震災後の日本人の秩序正しさは、嘉納の興した教育と関連があるのか?という質問まで出された。 ヨーロッパの嘉納研究者やAISE関係者とディスカッションを通して感じたのは次のことであった。
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