ボールゲームの組織論 ジャパンの強化とリーグの活性化(その2)
|
||||
前稿では、トップリーグ機構に加盟している競技団体が、ナショナルチームの強化を推進する上で共通して直面することが想定される今日的課題をいくつか取り上げた。
今回から、それらの課題を踏まえ、ナショナルチームを統括する国内競技団体(NF)が、ナショナルチームの競技力向上活動を推進するにあたり、組織として有しておかなければならないと思われる経営基盤について論じたい。
1. 最強チーム編成のためのシステム
「(ナショナルチーム編成にあたり)組織としてベストメンバーを選考し、招集できるシステム」を明確に持つことは、NFが競技力向上事業を推進する上で最も重要視すべきことのひとつである。このことを換言すると、「監督が集めたい選手をいつでも集めることのできるシステムと環境を組織として構築しておくこと」となる。
国内外にプロフェッショナルな、あるいはそれに準じるリーグが存在し、そこから代表選手の多くを招集することが如何に困難なことであるかは明らかであり、そのための(NF側の)マネジメント業務は、もはやボランティアベースの作業では手に負えない仕事となっていることは前稿で述べた。
ここでは、ナショナルチームの編成システムに関して、NFが有すべき基本的な基盤について紹介する。
(1) 規約の検討と遵守の重要性
日本トップリーグ連携機構に加盟するNFは言うまでもなく、多くの競技団体がナショナルチームへの参加義務を謳った規約を有している。
たとえば、日本サッカー協会の基本規程第3章第54条には、「代表チームへの参加義務」について、「加盟チームは、所属選手が本協会により代表チームまたは選抜チーム等の一員として招聘された場合、当該選手を参加させる義務を負う。ただし、傷害または疾病のために、本協会の招聘に応ずることができない選手は、本協会の選定した医師の健康診断を受けなければならない。」という条文が見られる。
また、日本バスケットボール協会の場合は、競技者規定第7条に「競技者は、本協会が編成する代表チームの候補選手及び代表チームの選手に選抜された場合は、正当な理由のない限りこれへの参加を拒否することができないものとする。参加を辞退しようとするときは、所属チームは辞退を正当とする疎明資料を付して本協会に参加辞退届を提出してその許可を得なければならない。」、日本ラグビーフットボール協会では、協会規約第88条に「代表チームへの参加義務」を「各協会の代表チームまたは選抜チームの一員または候補として当該協会より招請を受けた選手は、その協会チーム活動(練習、合宿、試合)に参加する義務を負う。ただし、特別の事情(業務・冠婚葬祭等)または傷害または疾病のために各協会の招請に応ずることができないと当該協会理事会が認めた場合はこの限りでない。ただし、傷害・疾病の場合、選手は、状況により協会の選定した医師の診断を受けなければならない。」とそれぞれ明文化されている。
これに準じてそれぞれのNFの傘下にあるトップリーグ規約を見ると、たとえば「Jリーグ規約(サッカー)」第88条は、「協会から,各カテゴリーの日本代表選手に選出された場合のトレーニング,合宿および試合への参加」の履行義務が謳われ、「Vリーグ参加チーム規定(バレーボール)」第22条には、「本会および本大会の登録チームは,登録構成員が日本代表チーム,または選抜チーム等の一員に選出された場合は当該登録構成員をこれに参加させなければならない」と定めている。
ラグビー協会の「トップリーグ規約」第88条では、「選手は、(日本代表スクォッドへの参加)を他のラグビーに関する一切の活動(日本代表に関するものを除く)に常に優先して履行する義務を負う」としている。
以上のように、ほとんどのNFおよび傘下にあるリーグの規約は、ナショナルチームの編成を優先し、登録する競技者にはその参加の義務と、所属チームに対しては派遣義務を謳っている。しかし、これらの規約の中には、(代表チーム参加に関しての)義務違反に対する罰則規定が定められていないものもある。また、罰則規定が存在しても、規約そのものが遵守されているとは言い難い事例も少なくない。
冒頭、「組織としてベストメンバーを選考し、招集できるシステムを明確に持つことは、NFが競技力向上事業を推進する上で最も重要視すべきことのひとつである」と述べた。NFが国際競技力向上を推進する上で、まず組織として行うべきは、組織運営の根幹を成す規約そのものについて再度組織としてその存在意義も含めた検討を加えることだと考える。
多くの競技団体における統括組織である日本協会(連盟)は、一部の大学や実業団チーム、あるいは地域協会同士が試合をするための母体として設けられ、運営されてきた歴史と経緯がある。また、ナショナルチームの編成も、オリンピックや世界選手権時などを中心に行われ、現在のように国際競技力が試される場面はそれほど頻繁ではなく、その編成にあたって生じる所属チームとの利害関係は今日とは比べようもないくらい小さいものであった。しかし、その利害関係の大きさ、組織の規模、大会の頻度等、協会を取り巻く状況は劇的に変化してきており、当然のことながらその「約束事」として存在する協会内の「規約」は、きわめて重要なものとなっている。仮に、この規約そのものが形骸化し、それまでの慣習が優先されていたとしたら、それは未成熟な組織として評価され、社会的にあるいは国際的組織としての立脚点を失うことになると危惧すべきである。
そして、同時に、「規約」を遵守するシステムや環境が、組織として整っているかどうかについても検討を加える必要がある。
トップ選手の通常プレーエリアである国内トップリーグのレベルを上げることも、ナショナルチームのレベルを引き上げることに直結しており、NFは組織として、トップリーグ各チームがそれぞれの競技力向上を図る機会や環境整備に関して支援する必要がある。ナショナルチームに主力選手を派遣するということは、チームメイトとの連携の機会を少なくするということと同義であり、チーム力の向上とは背反することにもなるからだ。NFの強化関係組織とリーグ側の運営者の綿密な連携と共同は、ナショナルチームの強化に不可欠な因子となることは明らかである。
国内リーグとのスケジュールの調整、選手の体調、怪我に対する十分な配慮など、ナショナルチームの強化は、今やNFが組織をあげて行うべき大事業であり、NFの組織力そのものがダイレクトに投影される事業であると思われる。
くどいようであるが、代表チームの競技力向上を推進するためには、その編成に関しての「規約」がしっかりと明文化され、それが遵守されるシステムを確立し、環境を整備されなければならない。形骸化されたルールである場合は、直ちに、組織をあげてその改善に努めなければならない。
「皆で決めたルールは、みんなで大切にする」。「皆の代表チームを皆で支える」。このあたりまえのことを行う仕組みを構築することが、国際競技力向上事業を本格化させる第一歩であると考える。
次回は、ナショナルチーム編成や強化活動を円滑に進めるためにNFが組織として構築すべき環境について論じたい。