顧客を囲い込むファン組織の活用(その1)

1. 会員組織とマーケティング

 ネットが気軽に使えるようになって便利な時代になったと思っていたら、アッという間にネットが使えないと不便で困ると感じる時代になってしまいました。とはいえ、ネットでサービスを利用しようとすると、「利用者登録=会員登録」を求められることが多く、簡単にはサービスを利用させてくれません。入力する「必須項目」の何と多いこと。どうしても使いたいサービスでないと、嫌気がさして画面から去ってしまうこともしばしばです。

 個人情報保護法が施行され、情報漏洩に関してはマスコミにも大きく取り上げられ、多大な非難の渦にさらされます。そんな状況にも関わらず、個人情報の登録を求められるシーンは増えています。なぜ、これほどまでに個人のいろいろな情報を欲しがるのでしょうか?答えは明らかです。マーケティングに活用するためです。現在のマーケティングにおいて、顧客の個人情報の活用が効果的な活動を行う前提となっているからです。ちなみに、必要とされる情報の分類としては、(1)個人属性データ、(2)個人嗜好データ、(3)購買記録、(4)コミュニケーション記録、などです。

 マーケティングの大きな流れとして、「マス(Mass)・マーケティング」から「リレーションシップ(Relationship)・マーケティング」への構造変化があります。消費者を小集団に分けてその集団をターゲットにして行うマーケティングから、個人一人一人にアプローチしていくマーケティングへの変化です。その進化形が、「ワントーワン(one-to-one)マーケティング」や「CRM(Customer Relationship Marketing)」、「e-CRM(ウェブを使ったCRM)」と呼ばれています。さらにIT技術・インターネット技術の発達により「データベース・マーケテイング」(大量の情報の蓄積と分析)、顧客とのコミュニケーション手段の発達により「ダイレクト・マーケティング」「テレ・マーケティング」「ウェブ・マーケティング」などといろいろな手法が生み出されました。

 共通した大事なポイントは、「個人一人一人のニーズに対応して、企業と顧客の関係性を深める」対応がますます求められているということです。いかに顧客を増やすかはもちろん重要ですが、さらに獲得した顧客をいかに自社に囲い込んで、そして優良顧客に育てていくかがビジネスの重要課題になっています。それは、よく言われる次のような言葉にも表れています。「新規に一人の会員を獲得するのにかかるコストと、十人の会員を継続維持するのにかかるコストは同じ」、「20%の顧客が80%の売り上げを占める」、「顧客のライフタイムバリュー(1人の顧客が、生涯を通じてある製品やサービスに支払うお金を)を最大限にする」などです。

 一方、クラブチームの会員を募集するということは、すでに嗜好が明確なセグメント化(小集団化)された顧客を集めることを意味します。ある規模(1万人前後)の会員数を組織化できれば、クラブチームの経営に寄与するだけではなく、ビジネスチャンスも広がるという大きな可能性を秘めています。では早速、クラブチームの発展に貢献できる会員組織を作るためのポイントを検討していきたいと思います。

2. 会員組織を作る

 まず、会員制度の段階を大きく以下の3つに分けて考えると考えやすいのではないかと思います。第1段階「無料の会員制度を立ち上げる」、第2段階「チケットサービスを中核とした有料の会員制度を立ち上げる」、第3段階「会員サービスを充実させる」です。

 第1段階は、観客を増やすための地ならしの時期です。何よりも、「競技とクラブチームを知ってもらう、興味を持ってもらう」→「実際に競技を見てもらう、試合に足を運んでもらう」→「チケットを有料で買ってもらう」というサイクルを作ることが目標です。

 第2段階は、チケットサービスを軸とした有料の会員制度を検討する時期です。「チケットを確保したい」「良い席で見たい」さらに「ゲームによく行くので、より安く、より良い席を、苦労なく購入したい」というニーズに応える段階です。

 第3段階は、会員サービスを充実させる時期です。様々なサービスを利用してもらい、「チームとより一体感を持ちたい」、「チームの役に立つような活動に少しでも関わりたい」という意識までロイヤルティを高める段階です。

<第1段階 無料の会員制度を作る>

 会員と呼ぶよりは、チームの情報を受け取ることができる人をいかに増やすかです。コミュニケーション手段の確保が必要です。「メールアドレス」を登録してもらうのが主眼の活動段階です。

1)そのためには、まず気軽に登録してもらえるように登録項目を必要最低限に絞りこむことが必要です。(1)「氏名とその読み」、(2)「年齢」、(3)「性別」、(4)「住所」(5)「電話番号」(6)「メールアドレス」で、十分です。「生年月日」は一番記入をためらう項目なので、年齢だけにしてはどうでしょうか。また、「住所」も郵便番号だけ、「電話番号」も市外局番だけでも当初はかまわないと思います。チームの本拠地からの時間的距離がわかれば十分です。

2)次に、募集は、「地域に根ざすクラブチーム」として、ひたすら地道に地元密着で行っていくしかないと思います。(1)役所、企業、商店街、学校と繋がりを強め、(2)地域のイベント機会を逃さず参加して、(3)練習見学、ゲーム招待など実際にプレーを見る機会を提供し、トッププレイヤーを間近で見る体験してもらうなど、露出機会とふれあいの機会を多くして効果が出るまで根気強く続ける段階です。

3)この段階では会員システムも特別なものは必要ありません。名簿管理もExcelなどの表計算ソフトで大丈夫です。必須なのは、メール配信ができることとクラブのホームページを持つことです。簡単な情報をメールで送りホームページで詳しく見てもらう。また、何度もホームページを訪れてもらうための内容の充実と工夫という地道な作業が大切です。

3. 個人情報保護法に関する留意点

 第一回目の最後に、個人情報保護法」に関して、会員制度を運営するために把握しておくべき点をいくつか簡単にまとめておきたいと思います。

1)「個人情報」の定義は、「特定の個人を識別することができるもの」、「個人が自身を表す情報として認識しているもの」「他の情報と容易に照合することができるもの」と多岐に渡りますが、基本的には、「名前」と結びついて個人が特定できる情報はすべてと考えたほうが無難です。個人名や企業名の入っていないフリーメールアドレスは、個人情報に当たらないと考えられていますが、会員組織を運営するに当たってはリスクを冒さず、会員関連のデータはすべてと考えて厳重な扱いをするに限ると思います。

2)処罰対象の「個人情報取扱事業者」であるかどうかの個人情報の量の人数的分岐点は、5,000名です。会員データとしては5,000名に満たなくても、会員組織運営体が独立経営体でなければ、所属会社の従業員数まで含めた数が個人情報保有数となるので注意が必要です。また、独立経営体であっても情報を管理しているサーバーに関連会社の個人情報が入っている場合も同様に考えておくべきかと思います。

3)個人情報収集時の注意
(1)必ず、利用目的を特定明示し同意を得る。第三者への提供、明示した利用目的外の利用の際には、必ず本人に通知し同意を得る。
(2)「機微情報(宗教、人種、本籍地など)」といわれる収集が禁止されている情報に注意する。

4)インターネットに接続したままの状態のパソコンで会員データを取り扱わない。またパソコン上にデータを保存しない。

 会員制度を運営するものにとっては、個人情報の漏洩は信頼を根本から損なってしまう致命的ミスですので細心の注意が必要です。会員データを扱う方は、経済産業省の「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン」に目を通しておくことをお勧めします。
(内閣府個人情報保護のページ):http://www5.cao.go.jp/seikatsu/kojin/about.html


次回のテーマは、「チケットサービスを中核にした有料の会員制度を立ち上げる」です。

【第1回了】

及川 義孝(おいかわ よしたか)

(株)レクチャーシステム 代表取締役

[会社所在地]
〒227-0072
神奈川県横浜市西区浅間町5-386-7
045-324-8569

[経歴]
1980年 早稲田大学政治経済学部卒業。
5年間出版社勤務の後、ぴあ株式会社入社。
96年から会員事業部にて、課長、部長、事業部長を歴任。
ぴあカード、Club@ぴあなど自社会員制度運営及び
興行元会員制度の立ち上げ支援と管理代行業務を行う。
立上げに参画した主な会員制度として、新国立劇場、宝塚、
旧横浜フリューゲルス、totoなど。
2005年 6月 (株)レクチャーシステム設立。

顧客管理、会員管理、CRMなどを中心にコンサルティング業務を行う。