有料制の会員制度と会員向けチケット販売 –

 「チケットサービスを中核に置いた有料の会員制度を立ち上げる」場合の考慮すべき点、検討すべき点について、以下に述べていきたいと思います。便宜的に項目に分けて述べさせていただきますが、すべての項目は単独で考えられるものではなく、会員制度全体の設計の中で連関して決められるべきものです。

 まず、どんな種類の会員を募集するのかを明確にする必要があります。つまり、会員の枠組みを設計しなければなりません。個人の会員だけのシンプルなものでしょうか?あるいは、ファミリー会員や、法人会員なども募集するのでしょうか?では、いろいろな呼ばれ方をしている会員制度を整理してみましょう。

1. 会員制度のいろいろな名前

 フアンクラブ、友の会、後援会、サポーターズクラブなど会員組織を表わす名称はいろいろとありますが、内容を見ると大きく3つに分けることが出来ます。

 1番目は、個人情報登録するのだけが条件の無料の会員制度。「会員」と名は付いていますが、実質は「利用者登録制度」と呼んだほうが分かりやすいものです。会員本人も会員であるという意識は希薄です。
 2番目は、会費を徴収し対価に見合ったサービスを提供する有料会員制度。「ファンクラブ」、「サポーターズクラブ」の名前がふさわしい組織です。当然、会員も会費に見合った、換言すれば「元の取れる」サービスを求めます。
 3番目は、会費という名でお金はいただくが、内容としては会費というよりはクラブ運営のための協力金、賛助金に近い会員制度です。小口スポンサー的性格を有しています。「会員」というよりは、「後援会」や「応援団」という名の方がわかりやすい組織です。「会費の元を取る」という発想の少ない組織です。チケットサービスも提供することが多いので、上記2番目の有料会員と同じ枠組みでとらえられがちですが、明確に分けて設計したほうが、会員募集の中身も分かりやすく、かつ今後の活動展開も考えやすくなると思います。

 また、会員制度のいろいろな呼び方の中でもっとも注意が必要なのが、「友の会」という呼称です。2番目の「フアンクラブ」の意味で用いられたり、3番目の「スポンサー的後援会」の意味にも用いられたりと各会員組織によってバラバラです。ほとんど見かけませんが、1番目の 「無料登録会員」の名称にも使うことすらできてしまいます。設計にあたっては、紛れが起きないように名称を整理して枠組みを決めるべきです。「名は体をあらわす」定義が求められます。

 募集する「会員」の大枠を決めたら、次は、会費と提供するサービスの設計です。ここでは、上記2番目の有料会員制度(ファンクラブ、サポーターズクラブ)を中心に考えていきます。

2. 会員制度の「設計」の主要なポイント

1.「会員特典=会員になるメリット」を、どう設計するか。

 1)当然チケットサービスがメインですので、一般の購入者との差別化をどう図るかが主眼となります。考えられるのは、(1)「割引販売」=一般の人よりも安く購入できる。(2)「優先席販売」=一般の人よりも良い席が入手できる。(もちろん良い席の考え方は、見る人によっても違うと思いますが、ここではゲームが観戦しやすいという意味で使って使います。会員専用、又は、応援席という決め方も出来ると思います。(3)「先行販売」=一般向け販売よりも早いタイミングで発売する。(4)「抽選販売」=リーグ決勝トーナメントなど自チームが出場するが、主催ではないためにすべてのチケット需要に応えられないケースなど。さらに以上の販売方法を組み合わせた方式も考えられますが、ポイントはやはり、「見たい試合のチケットが確実に入手できる」ことだと思います。

 2)次に、従来からよくある「チケット以外の特典パッケージ」としては、以下のようなサービスがあります。会員証の配布、記念グッズ進呈、応援グッズ進呈、会報の発行、会員感謝イベントへの招待などです。

また、最近はホームページ上の会員限定サービスもいろいろと工夫されてきています。IDとパスワード入力によって会員だけの専用掲示板、専用情報ページの設定など。さらにスクリーンセーバー、壁紙、その他写真などのダウンロードサービスもあります。

 3)会員制度というと、「会員証」と「会報」が付き物のように思われていますが、本当にサービスとして必要かどうか、有効かどうかをしっかりと検討してからリリースしたいものです。「会員証」は、提示割引、ポイント制など具体的サービス提供時に会員確認が必要ならば必須アイテムですが、単なる「入会の証」にすぎず、具体的サービスにリンクしていない場合はなくても差し支えないとも考えられます。もちろん、チームに対するロイヤルティの側面からはあったほうが好ましいのは言うまでもありません。しかし、いざ作成する場合は、機能、形態にもよりますが、郵送料も含めて会員1名あたり500円前後の経費はかかってしまいます。入会金を設定して経費に当てるのか、年会費の一部を充当するのかなど、入会金・会費設定にも大きな影響を与えます。

 また、「会報」は「会員証」以上に運営コストに占める割合が大きな要素です。会員数、会報形態(発行回数、判型、頁数)などにもよりますが、ことによっては「会報を出すための会費」にもなりかねません。さらに、会報経費を捻出しようと広告獲得活動が必要となると、多大なる労力が「会報」関連業務に費やされることになります。

 従来型の特典はどうしても作成費、郵送料、人件費など「コストがかかるサービス」になってしまいます。会員数によっては、納入された会費の大半が費やされてしまうこともありえます。経費、手間、スピードを考えると、今後はインターネットを利用したサービスを中心に考えるのが得策かと思います。いずれにしても、ポイントは、総花的なサービス・ラインナップを提供するのではなく、ファンクラブの会員が本当に喜んでくれるサービスは何かを定め、そこに力を注ぐことです。


2.会員の種別と会費の設定

 1)会員の種別

 「個人会員」「フアミリー会員」「法人会員」など色々考えられると思いますが、会員の種別が増えれば増えるほど、管理運営は難しくなり、また、チケット販売も複雑になります。事務処理、販売までを考慮に入れて設計をしないと実際の運営の段階で思わぬ障害が発生してしまいますので注意が必要です。「法人会員」に関しては、年間シート販売や「後援会」との関連で考えたほうがサービス設計をしやすいでしょう。

 設計のポイントとして、まず「個人会員」制度の設計を中心に据える。その上で、個人会員以外にも枠組みを設けるのかを検討する。たとえば、小中学生のために「ジュニア会員」を設けるのか、「ファミリー会員」として取り込むのかなどの課題です。また、その際「ジュニア会員」の線引きを小学生、中学生、高校生のどこで引くのかも課題です。

 2)入会金と年会費
 (1)入会金は設定するのかしないのか?

現在は入会金を設定していないファンクラブのほうが多数ですが、「入会記念グッズ」つきで設定している会員組織もあり、1,000円位の設定が多いようです。
 (2)年会費はいくらに設定すればよいか?

 各競技によってだいぶ違いが出ています。

プロ野球は、3,500円〜4,000円位が一般会員の会費の中心価格帯です。ジュニア会員は、2,500円前後です。また、プレミアム会員として10,000円を超える価格設定もみられます。一方、Jリーグは、一般会員3,000円、ジュニア会員1,000円という価格設定が多くなっています。年間ホームゲーム数の違いが大きく影響していると考えられます。

他のスポーツのファンクラブの年会費は、プロ野球やJリーグの会費と比較されて高い安いと判断されることが多いと考えられますので、一般会員で3,000円前後の会費で検討するのが現実的かと思います。


3.会員募集期間と年会費の有効期間


 シーズンの始まる前の期間に限定して募集をし、また年会費有効期間もシーズンにリンクさせるファンクラブが多いです。年会費分のサービスをフルに活用してもらうことができ、一番問題のおきない無難な設定です。一方、シーズン途中での入会希望者を受け入れられないというマイナスが発生します。限定会員制度ではない限り、「一名でも多く会員を増やす」という会員組織のミッションに反する設定になってしまいます。シーズン途中でも会員を受け入れられる工夫が必要です。たとえば、事務処理は煩雑になってしまいますが、年会費を割り引いて途中入会を受け付ける仕組みを設ける、などです。


4. 会員データベースの設計

 「無料の登録会員制度」では、極力、登録の抵抗感を薄めるために、登録情報として「住所なし、電話番号も市外局番のみ、生年月日ではなく年齢のみ」を例示しました。しかし、有料の会員制度を充実させていくためには、「氏名、その読み、性別、郵便番号、住所、電話番号、生年月日、e-mailアドレス(PC、携帯)」の一般的に「基本情報」と呼ばれる項目の登録が必要です。
 会費の納入などの「決済」や、チケットの送付など「物流」などが発生してくると、「本人確認」などのKEYデータとして必要性が増します。さらに、会員と一層のコミュニケーションを図り、さらに今後のサービスを開発・充実させるためにも「会員登録の必須情報」として登録してもらうべきでしょう。

 また、当初はサービスリリースしなくても、将来的サービスをも視野に入れてデータベースの項目を設計することが必要です。たとえば、入会受付システム・専用HP・掲示板などでは「ID(またはニックネーム)、パスワード」、グッズ販売では「決済手段登録」などです。「サービス利用のための必須情報」です。

3. 会員制度の「運営」の主要なポイント

 次に、実際に事務局を運営する際には、以下の3つがポイントになります。「入会処理システム(=会員情報登録システム)」、「会費徴収システム(=決済システム)」、「チケット販売システム(=物流システム)」です。


1.入会処理システム



 「入会問い合わせ→事務局より入会申込書(振替用紙)送付→会員が送金→事務局が入金確認と会員データ入力」という入会受付方式が、従来からもっとも利用されているパターンです。しかし、現在はインターネット利用環境の発達により、入会希望者と事務局の双方が、より少ない時間・手間・経費で処理ができます。

 「入会問い合わせ〜受付〜登録」の事務処理の流れは、e-mailによる問い合わせと返信で対応でき、ホームページ上で入会の申し込みと会員情報登録をしてもらうことで、従来1ヶ月前後かかっていたサイクルも10日間もあれば処理できるという処理フローが作れます。

また、会員情報変更も会員自身がホームページ上で修正できるシステムも今後は必須でしょう。


2.会費徴収システム


 選択肢としては、(1)郵便振替、(2)銀行振込、(3)クレジットカード決済、(4)コンビニ支払い、(5)その他(ネット銀行、電子決済、物販の代引きなど)があります
結論からいうと、従来から採用されている(1)郵便振替、(2)銀行振込はそのまま採用すべきです。3,000円〜5,000円の会費徴収だけなら、その2種類でもOKだと思います。ただし、将来のグッズ販売やホームページ上での決済などまで見越して考えると、(3)クレジットカード決済まではあらかじめそろえておきたいところです。
 また、(4)のコンビニ支払いは、利用者のニーズの高い決済方法ですが、支払い票の印字封入、発送の手間、経費、及び支払い手数料を考えると会員組織の運営側にとってハードルが高いのが難点です。(5)のその他では、「ネット銀行の利用」は今後検討されるべき課題だと思います。何といっても振り込み手数料が安く、24時間利用可能なのが魅力であり、利用者のニーズも高まると思われます。
 (1)郵便振替、(2)銀行振込にしても、入金金額の間違いがあると処理に非常に手間がかかるため完璧な方法ではありません。電子マネーなど次々と新たな決済方法も登場してきています。会員と事務局双方にとって、便利でしかもお互いにコストがかからない決済システムを、常日頃から研究しておくことが課題となります。


3.チケット販売システム



 事務局ですべて処理する場合は、「問合わせ対応〜予約受付〜販売処理(チケット管理・封入・発送)〜入金処理」の一連の業務をこなすことになります。「手売り」で済む位の少量の場合は何とかなっても、量が増えるとコストも作業も増大し手に負えなくなります。

やはり、「手売り」の範囲を超える場合は、チケット販売業者に委託するのが良策です。

 グッズ販売も同様です。すべて自社でこなそうとするのは、「労多くして益少なし」です。

製作、販売、物流、在庫管理、など外注で処理したほうがよいものは外注で処理すべきです。

 ポイントは、人件費も入れた自社処理コストと外注費用又は支払いマージンとの比較を行い、どちらが有利かの選択です。実際に計算してみると、思ったよりも、自社で処理するのが有利だという扱い量は少ないことが判明すると思います。

 以上、「ファンクラブの有料会員制度」について検討してきました。最後に付言しますと、「(賛助金中心の)後援会」や「(年間シート購入の)個人・法人会員」については、それぞれ独自の営業方法と管理方法が求められます。したがって、ファンクラブの会員制度とは違った切り口からの検討が必要になります。

 さて、(1)「e-mail→ホームページ→アクション」のコミュニケーションサイクルを確立し、(2)チケットを柱とした有料会員制度により「ファンを組織化」し軌道にのせることができれば、次はいよいよ(3)会員のロイヤルティを高め「自分のチーム」と思ってくれるように、様々な工夫を凝らしていく段階です。

 次回のテーマは、「会員組織を育てる」です。会員のロイヤルティを高めるいろいろな工夫を、実例をみながら考えてみたいと思います。


【第2回了】

及川 義孝(おいかわ よしたか)

(株)レクチャーシステム 代表取締役

[会社所在地]

〒227-0072

神奈川県横浜市西区浅間町5-386-7

045-324-8569

[経歴]

1980年 早稲田大学政治経済学部卒業。

5年間出版社勤務の後、ぴあ株式会社入社。

96年から会員事業部にて、課長、部長、事業部長を歴任。

ぴあカード、Club@ぴあなど自社会員制度運営及び

興行元会員制度の立ち上げ支援と管理代行業務を行う。

立上げに参画した主な会員制度として、新国立劇場、宝塚、

旧横浜フリューゲルス、totoなど。

2005年 6月 (株)レクチャーシステム設立。

顧客管理、会員管理、CRMなどを中心にコンサルティング業務を行う。