会員組織を育てる –

 会員組織を立ち上げたら、新規会員を一人でも多く増やし、また、退会者を一人でも少なくしなければなりません。そして、チームへの愛着心と一体感を持つロイヤルティ(Royalty:忠誠心)の高い会員を一人でも多く育てるのが目標となります。そして、そのための仕組み作りと運営方法の工夫が必要になります。

 まず、「会員組織を育てる」ための方策を考えるにあたって、役に立つマネージメント用語、マーケティング用語が幾つかありますので、具体策を検討する前に、簡単に整理しておきたいと思います。

1. インセンティブとコミットメント

 入会、継続など会員数を維持する、増やすなどの方策を考える際に考えを整理するのに役立ちます。

1) インセンティブ(Incentive)
・ 迷っている人、決めかねている人の背中を押してこちらが望む方向に決断させる「促進策」です。
・ 入会動機や、継続意思を強めるのに有効な方策です。会員限定サービス・特典の提供、来場プレゼント、ポイント制度の実施などが代表例です。

2) 心理的コミットメント(Commitment)
・ 現在の状況をやめる、手がけていることをやめるなど、現状放棄を思いとどまらせる「抑止力」です。
・ マーケティング関連では、「献身」としての意味合いで、マネージメント関連では、「自分で自分に課す義務、責任」の意味合いで使われています。
・ 「自分が応援しないで誰が応援するんだ」と思うほどのチームへの愛着心、一体感が高まった状態です。退会を思いとどまらせる心理的「抑止力」が働くまでにロイヤルティを高めるのが、会員組織の理想です。

3) スイッチングコスト(Switching Cost)
・ 「抑止力」ということでいえば、この概念も有効です。
・ 今まで応援してきた時間は何だったのか、他に楽しみをまた探さないといけないのか、という心理的コスト。また、ポイント制度のように、退会してしまえば無駄になってしまうという金銭的コストです。
・ 一言でくくってしまえば、「もったいない」という感覚です。しかし、もったいないを超えて「嫌気がさす」状態になれば、抑止する力は働きません。一時的効果にすぎないので、不満足を解消する対策が必要になります。

 では、次に、チームに対する会員のロイヤルティを高めていく方策を考えてみたいと思います。

2. ロイヤルティを高める


 提供するサービスに顧客が満足をする機会、体験を増やすことにより、ロイヤルティが高まっていくといわれます。つまり、「満足感の累積」がロイヤルティを高め、また、心理的コミットメントを強めることにつながります。
 したがって、必要なことは、「提供するサービスを増やす。サービスを利用してもらう。サービスの質を高める。」ことになります。実際、各ファンクラブのホームページをみると、チケット販売〜ゲーム観戦という中核サービスをはじめとして、グッズなどの販売サービス、ファン感謝デーに代表される触れ合いの場の提供サービスなど、いろいろなサービスが提供されています。
 しかし、さらに突き詰めて考えてみますと、「チームによるサービスの提供と会員のサービス利用」とは、チームと会員のコミュニケーションをとることに他なりません。つまり、サービスの利用頻度と質を高めるために、何よりも大事なことは、「会員とのコミュニケーションを深める」ことになります。会員とのコミュニケーション頻度を増やし、同時に、コミュニケーションの質を高める方策が求められます。

 だからこそ、まず無料の会員制度を立ち上げ、e-mailアドレスという「コミュニケーションの手段を確保」し、ホームページへ誘導して「コミュニケーションのサイクルを作り」、コミュニケーションの回数を増やすことが最初の目標となったわけです。

 したがって、会員組織の目標は、常に「コミュニケーションを深める」というテーマに回帰します。
 ではここで、コミュニケーションとCS(Customer Satisfaction:顧客満足)の関連について考えてみます。

3. CS(Customer Satisfaction:顧客満足)とコミュニケーション

 サービスの究極の目標として「すべてのお客様に満足していただけるサービス」を目指すのは非常に大事なことですが、考えてみると、満足度を図る指標はあまり存在しません。一方、満足していない状態は現実に確認できます。
「クレームというコミュニケーション」が、その代表例です。
どのように満足しているかは表現しにくく、満足していない点は具体的に説明しやすいのです。口コミにおいても、「不満足」ほど良く伝わるわけです。つまり、現実的対応としては、形の見えにくい「満足」を目指すよりは、「不満足のない状態」を目標とする方が、効果は大きいと考えられます。

 といっても、決して消極的な姿勢をとるわけではありません。たとえば、「問い合わせが多い」ということは、告知が不十分なのか、説明がわかりにくいのか、などサービスの不十分な点をいろいろと考えなければならないということです。自分たちでは気がつかない改善すべき点を、お客様がわざわざ教えてくれているわけですから、現在のサービス、将来のサービス設計に生かさなければなりません。
 また、「我慢してすむことは、我慢してすます」、「不快なことは忘れようとする」人々が圧倒的に多いのですから、クレームになるということは、よほど劣悪なサービスと感じさせてしまったと認識すべきでしょう。さらに、1)一人のクレームの蔭には何十倍もの数の人間の不満足が潜んでいること、2)クレームとなった直接の案件は単なるきっかけであり、それまでの不満足が積み重なって発生した可能性が高いことも心すべきだ思います。
 つまり、問合わせやクレームなど、会員からの指摘のあったポイントこそが、「サービス向上の鍵」に他なりません。クレームは、会員との重要なコミュニケーション手段として、対応を充実させる必要があります。

4. 重要な二つの指標

 「コミュニケーションが十分に取れているか」、また、「CSは十分か、ロイヤルティが高まったかどうか」を判断できる目に見える数少ない指標が二つあります。

1)「会員稼働率」
 クレジットカード会員に対しての分析でよく使われる指標で、カードを利用している人の割合を月ごとに集計します。利用実績のない「休眠会員」は退会につながりやすいために重要な指標です。コミュニケーションは十分とれているか、CR(Customer Retention:カスタマーリテンション/顧客維持)は十分できているかなどの判断に利用します。
 稼働率の考え方は、「情報の到達度」にも当てはめることができます。たとえば、e-mailの開封率やクリック率が高ければ、e-mailの情報が十分必要とされており、会員の稼働率は高いと判断できます。

2)「会員継続率」
 コミュニケーションが十分とれていたか、サービスに満足してもらっているか、ロイヤルティは高まっているかなどの、すべての要素の結果が示される最重要データです。また、退会事由のデータ収集と分析は何にもまして大切な仕事です。

 最後に、重要なコミュニケーションツールであるホームページについて簡単にですがふれておきたいと思います。

5. コミュニケーション強化のためにホームページを工夫する

 いろいろなファンクラブのホームページを丁寧に見ていくと、様々な貴重な発見をすることができます。見る人の立場に立って非常に良く工夫されているホームページ、とりあえず作成しているだけなのがすぐにわかってしまうホームページなど、一目瞭然です。
 不思議なもので、会員に対する思い入れの温度差がホームページを見ているだけで伝わってきてしまいます。
 たとえば、運営サイドが自分たちの伝えたいことは細かいことまでニュースとして掲載している一方で、利用者が知りたい情報に、なかなかたどりつかないホームページも散見します。(年会費の有効期間を調べたときに体験しました。)

 良いホームページの条件はいろいろとありますが、最低限下記の条件は満たしておきたいものです。

1)利用者が知りたい情報に、迷わずにたどりつける作りの機能性が必要です。

 〜そのためには利用者が何を知りたいかを的確に把握する必要があります。

2)定期的にページを更新する。

 〜オフシーズンなど、ほとんど更新されないホームページも存在します。

3)頻繁にHPにアクセスしてもらう工夫が必要です。

〜ホームページの売りになる、目玉や名物を作る。

6. 実例紹介


 連載の締めくくりとして、優れたサービスの具体例をいくつか紹介させていただきます。詳しいサービス内容を参照できるように各項目の下に、参照ページのURLを挙げてあります。

1.<インセンティブにより会員継続の意欲を高める>

・「北海道日本ハムファイターズの継続年数別会員証」
 年会費は同じだが、入会年数に応じ特典のピンバッジを変え、また会員証を「ステータスカード」として入会年数に応じてカードデザインを変えて会員のインセンティブを高めています。
http://www.fighters.co.jp/fanclub/


2.<コミュニケーションを強化する>

・「広島東洋カープの会員証」
 遊び心のある「会員の証し」。事務的なデザインではなくチームとファンの絆を強めるような呼称、デザインの会員証です。
http://www.carp.co.jp/fanclub/login.html

3.<ポイント制のインセンティブによりロイヤルティを高める。>

・「千葉ロッテマリーンズの会員制度TEAM26のステータスカードシステム」
 年会費10,000円のゴールド会員の中から、1年間のポイント実績200名のみ翌年はプラチナ会員としてさらに優遇する仕組み。千葉ロッテマリーンズの「会員中の会員である」というプライドをくすぐる仕組みとして優れています。
http://www.team26.jp/types.html

4.<会員のロイヤルティを強める。チームとの一体感を強める。>

・「千葉ロッテマリーンズの背番号26」
 あまりにも有名な話となりましたが、試合への出場登録できる選手は25人であり、26番はファンのための準永久欠番として選手と共に試合を戦うと言う宣言です。選手とファンとの連帯感を強める強烈な仕組みです。共に戦って勝つという一体感を醸成する効果は絶大です。
http://www.so-net.ne.jp/marines/team/no26.html

5.<会員の心理的コミッションを強める。自分たちのチームという意識を強める。>

・「浦和レッドダイヤモンズのオフィシャル・サポーターズ・クラブ」
 これもまた有名なシステムです。小さな応援団がいくつも存在して、応援団同士で互いに競い合いまた協力しあう状況が生み出されます。大きな応援団に入れてもらうのではなく自分達でクラブ公認の応援団を作れてしまう仕組みです。レッズファンが熱狂的な一因はこの制度にもあると思います。応援団の一人ではなく、自分自身が応援団です。
http://www.urawa-reds.co.jp/Supporte/osc.htm

 以上、皆さんがよくご存知で、しかもネットですぐ見ることができる優れた具体例を、ほんの数例ですが紹介させて頂きました。

いろいろな会員組織のホームページを詳しくみることにより、運営上のヒントを幾つも得ることができると思います。ぜひ、定期的にチェックなさることを、お奨めいたします。

 最後になりましたが、スポーツチームの会員組織を運営するということは、特性が明確で、かつロイヤルティの高い優良顧客を囲い込んでいるということです。上手に会員組織を育てることができれば、将来的には「会員制ビジネス」への展開も可能となり、チーム運営の新たな財政基盤を築くチャンスも広がります。

 ぜひ、会員組織を大きく育てて頂きたいと思います。3回にわたりお読みいただきありがとうございました。

【完】

及川 義孝(おいかわ よしたか)

(株)レクチャーシステム 代表取締役

[会社所在地]

〒227-0072

神奈川県横浜市西区浅間町5-386-7

045-324-8569

[経歴]

1980年 早稲田大学政治経済学部卒業。

5年間出版社勤務の後、ぴあ株式会社入社。

96年から会員事業部にて、課長、部長、事業部長を歴任。

ぴあカード、Club@ぴあなど自社会員制度運営及び

興行元会員制度の立ち上げ支援と管理代行業務を行う。

立上げに参画した主な会員制度として、新国立劇場、宝塚、

旧横浜フリューゲルス、totoなど。

2005年 6月 (株)レクチャーシステム設立。

顧客管理、会員管理、CRMなどを中心にコンサルティング業務を行う。