<情報発信について>


 前回の第1回連載では、日本トップリーグ連携機構 ( 以下JTL ) に加盟する各リーグが今後より効果的な集客をおこなうにあたっての方法について述べた。今回の第2回は人々に情報を発信する方法について考えていきたい。



1.JTLに関する情報

 JTLが平成18年度におこなった調査によると、加盟する各リーグの試合におとずれた観戦者の多くは試合や競技に関する情報をリーグやチームの公式ホームページやリーグのプログラムなどといったパブリックリレーションズ媒体から得ているのに対し、新聞やテレビなどのパブリシティ媒体からはあまり情報を得ていないということが明らかになった。このことは言い換えれば、残念ながらJTLに加盟する各リーグに関する情報はマスメディアにとってまだそれほど価値が高いものであると認識されておらず、世の中にJTLに関する情報が普及していないことを表すものだろう。日々発行されるスポーツ新聞を見ても、野球やサッカー、または時期は限られてはいるが大相撲に関する記事が紙面の大部分を占め、よほど大きな出来事がない限り、JTLに加盟する各リーグに関する情報は少ないことがわかる。観戦者の情報入手経路に関する同様の調査がJリーグでもおこなわれているが、こちらはリーグ開催時期恒常的に新聞やテレビニュースなどで取り上げられることもあり、1位・テレビ、3位・新聞、4位・スポーツ新聞とパブリシティ媒体が上位に来るという結果となっている( Jリーグホームページ;http://www.j-league.or.jp/aboutj/2006kansensha.pdf )。


2.ホームページの有効活用

 今日、インターネットは人々の生活に深く浸透し、多くの人々にとって不可欠なものとなった。企業のみならず、様々な人によって情報が世の中に発信されている。これは、当然、日頃メディアになかなか取り上げられる機会が少ない組織にとっては自らの情報を多くの人々に届けることができるチャンスであり、積極的に活用しない手はない。現にJTLにおいては既存の顧客の多くがホームページを重要な情報入手経路としていることから、リーグのホームページの充実はもちろんのこと、チームにも働きかけて各チームのホームページをより充実させていく必要がある。ホームページ充実のキーワードとしては、“ソフトの充実”と“機能の充実”の2つがあげられる。


3.ソフトの充実

 まず1つ目のキーワードであるソフトの充実とは、ホームページ上のコンテンツを充実させることである。マーケティングにおいて、“Exclusive=独占的な権利・専売権”という言葉がよく使われる。販売などの権利の独占により、他との差別化を図るという意味で用いられる。各リーグやチームのホームページは当然公式情報の発信源としての役割が求められるが、その役割に加え、ここでもExclusiveという考えを取り入れ“ここでしか得られない価値ある情報”をホームページ上にもっと提供してはどうだろうか。そうすることにより、各リーグのホームページはより魅力的なものになるはずである。近年のスポーツ界を見渡してみると、ある特定の競技が注目される要因の一つとして、スター選手の登場があげられる。大学野球やアマチュアゴルフを始め、ビーチバレーなど多くの競技でその現象が見られるように、この傾向はここ最近特に顕著である。しかし、残念ながらただ受動的に待っているだけではよほどのことがない限り、スター選手を生み出すことは難しい。各リーグは待ちの姿勢にならず、もっと選手に関する情報を積極的に発信し、能動的に人々の関心を引きつける努力をおこなう必要があるだろう。その点においては、ホームページは最適なツールであると言える。なぜなら、ホームページは他の媒体と異なり、無限大に情報を発信することができる上、自ら情報をコントロールすることが可能であるからである。今日、芸能人などの中には様々な特技や特徴をいかしたスターが多数存在している。彼・彼女らの中には、最初はある一部の人々や地域により熱狂的に支持され、その現象がメディアに取り上げられることで、全国区の人気を獲得したという話もよく聞く。スポーツ選手の場合、本来のイメージと大きくかけ離れた情報はあまり好ましくはないが、常識の範囲内であれば多少マニアックなものであっても、個人の特技や趣味、キャラクターなどの情報を世間に発信してもよいのではないだろうか。そうすることにより、ファンはまた違った視点から選手に注目することができ、楽しみも増えるはずである。


4.機能の充実

 もう一方のキーワードである「機能の充実」とは様々な技術を駆使して、ファンの関心を引きつけるためのアイディアを充実させることである。企業のホームページを眺めてみると、特に、何度もホームページを見に来る“リピーター”を増やすための方法にこのような技術が取り入れられている。例えば、株式会社損害保険ジャパンの採用ホームページでは、ポイント制を導入している。ホームページ上の様々なコンテンツを読むたびに個人のポイントが貯まるしくみになっており、ポイントが貯まれば特典がもらえるというシステムである。企業についてよりよく知ってもらうためのきっかけとして、“ポイント制”という機能が有効となっているのである。また、Jリーグチームのコンサドーレ札幌のホームページでは、ホームページ内にファンが自身のブログページを開設できるコンテンツを持っており、ホームページに対する関心を喚起させるだけでなく、ファン同士、ファンとクラブ、ファンと選手の間のコミュニケーションツールとしても機能している。このように、IT技術のめざましい発達により、ネット上には無数のホームページが存在し、人々の関心をひくための様々なアイディアが散りばめられているのである。


5.「気づき」の促進

 今日、多くのスポーツ組織が前回の連載の中でも述べたように、顧客を獲得するためにホームページを含め様々なサービスや質の向上に取り組んでいる。これをマーケティングの分野で人々の消費行動をあらわすモデルとしてよく用いられるAIDMAやAISASモデルに照らし合わせてみると、すでにI (関心・興味)やD (欲求)、そしてS(検索)の行動段階にある人々に対しては有効であると思われる。しかし、その反面、いまだA(注意)の段階にたどり着いていない人々に対しては、残念ながら組織がおこなっている取り組みの内容は伝わらない。いわば、消費者は“いくら内容が良いものであっても、その存在を知らない限りその良さを知ることはできない”のである。“いかに自分たちの存在を世の中の人々に知ってもらうか?”という問題はスポーツ組織のみならず、今日、多くの組織が抱える課題といえるのではないだろうか。ホームページもそのリーグやチームに興味のあるファンが自らそのページにアクセスしない限り情報に触れることはできない。つまり、情報発信に関してホームページの充実は大変重要であるが、そのことが必ずしも新規顧客の開拓につながるわけではない。JTLに加盟する各リーグにとっても、新規顧客の開拓、特にリーグや競技についての知識をもたない人たちにも自分たちについて知ってもらうという点で、人々の「気づき」を促進する必要が重要である。


6.新しい情報発信ツール

 情報発信に関して消費者の注意をひきつけるために、広告代理店などが中心となり日々様々なアイディアが考え出されている。駅やコンビニなどで入手できるフリーペーパーもその代表的な例の一つである。フリーペーパーは広告収入を元に定期的に発行され、無料で特定の読者層に配布される印刷メディアであるが、行政区画ごとに配布エリアが決まっている新聞や大規模な広告しかおこなえないテレビに比べ、比較的安価で作成でき、柔軟に特定の範囲や商圏、購買層に配布することが可能である。その利点から、今日、多くの企業や組織から注目されている。各リーグも独自のフリーペーパーを作成し、戦略的に配布することで、開催地域のターゲットに的確に情報を伝えるとともに、商圏内の不特定多数の人々の「認知」を促進することができるのではないだろうか。また、割引クーポンなどを付属させることにより、チケッティングや地元商店街などとのタイアップも可能となる。


7.その他の情報発信ツール

 フリーペーパー以外にも、新しい情報発信ツールとしてSNSやタダコピなどが注目を集めている。近年、若者を中心に多くの人々により利用されているSNSは友人同士のコミュニケーションはさることながら、コミュニティと呼ばれるグループに参加することで直接面識はないが共通の趣味や嗜好を持つ者との交流も可能である。bjリーグの大阪エヴェッサは、ファン同士の交流や選手とファンが直接コミュニケーションを図ることができる場としてSNSを活用している。また、コピー用紙の裏面に企業の広告を掲載することによりコピー料金を無料にするタダコピという面白いサービスも複数の大学でおこなわれている。現在のところまだ大学のみの設置であり、一般に向けたサービスは開始されていないようであるが、今後は設置箇所も拡大される見通しである。このサービスの特徴は利用者にダイレクトに情報を訴求できることと、コピー用紙の裏面部分に広告が掲載されていることから、高い確率で利用者の手元に広告が残ることである。よって、情報発信の手段としても十分に利用できると思われる。このように、近年、様々な情報発信のツールが考えられており、JTLに加盟する各リーグもそれらの手法をうまく活用することで、人々の「気づき」をより促進するべきではないだろうか。


8.JTLに加盟する各リーグの課題

 情報発信において、現段階で新聞やテレビなどのメディアに取り上げられる機会が少ない各リーグは、上で述べた様々なこれまでと違った新しい情報媒体や機能をうまく活用する必要がある。また、従来の或からもう一歩踏み込んだ“ここでしか得られない情報”も提供してはどうだろうか。しかし、各リーグが単体でフリーペーパーの発行や新しい媒体を利用するとなれば、当然技術面や金銭面などでの負担も出てくると考えられる。そこで、そのような時は加盟するリーグの強化活動の充実及び運営の活性化を目的として設立された日本トップリーグ連携機構を活用することで、より効率的な情報発信が可能となるだろう。