<リーグのブランド化について>


 リーグのブランド化については第1回連載時に招待券の配布のところでも少し述べたが、各リーグは戦略的に自分たちのブランドを構築する必要がある。しかし、今日、日本トップリーグ連携機構に加盟するすべてのリーグは必ずしもブランド構築に成功しているとは言えない。今回の第3回連載では、リーグのブランド構築について考えていきたい。



1.各リーグの現状

 現在、日本トップリーグ連携機構(JTL)に加盟する各リーグの試合を見渡してみると、試合会場の立地や場内の雰囲気から“本当にこれが日本最高峰のリーグなのか?”と思ってしまいそうな光景も少なくない。現に、「もっと交通の便がよい会場で試合を開催して欲しい。」といった観戦者からの声も聞かれるという。それらの問題を解決するには、都市部の交通のアクセスがよいアリーナを使用するなど、ハード面での改善について考えることは容易である。しかし、その様なアリーナを使用するには多額のお金がかかり、また、各リーグには競技の普及といった使命もあることから、すべての試合を都市部の交通のアクセスがよい会場で開催することは難しいのが現状である。では、リーグがハード面の改善以外にどのようにブランド価値を高めるかについて考えた時、やはりソフト面の充実を図ることが重要となるだろう。


2.非日常の創造

 わが国でも、近年、スポーツの試合会場で音響効果やライトアップなどの技術を駆使し、試合を盛り上げる様々な演出がおこなわれている。これは欧米(特にアメリカ)のスポーツイベントを真似たものであるが、最近では多くのリーグやチームによってこの手法が取り入れられ観客を楽しませている。音響効果やライトアップを使った演出はもちろん観客を楽しませることが大きな目的である。しかし、それ以外にも様々な用途でリーグのブランド構築に利用することが可能であると思われる。現在、JTLに加盟する各リーグの試合会場に行ってみると、トップリーグの試合前に会場周辺の地域や学校のチームによる練習や試合がよくおこなわれている。これは競技の普及が課題であるリーグにとっては当然考えられるプログラムだろう。しかし、彼らのプレー後にすぐトップリーグの選手が練習や試合をはじめることは本当に相応しいことだろうか。なぜなら、トップリーグの試合は国内で最高峰のリーグの試合であり、競技をおこなっている人、特に子どもたちにとっては憧れの対象とならなければいけないからだ。高い技術や試合環境を見せることも国内の最高峰にあるリーグの重要な役割である。試合を見た子どもたちが“トップリーグ=かっこいい”という憧れを持ち、「将来、自分もあの場でプレーしてみたい。」と思うようになれば、小さい頃からのファンを獲得できると同時に、競技の面においても将来たくさんの有望な人材の獲得が期待される。その方法として、同じ試合会場であっても、トップリーグの試合が開催される前には演出をおこない、あえて他のレベルと区別してはどうだろうか。音響やライトアップはいわば、非日常の空間をつくり出す装置であり、そのような装置によってつくり出された華やかな舞台は選手だけでなく、観客にとっても魅力的なものだろう。現在、試合会場として使用されている体育館やアリーナ、競技場の中には施設の設備上、音響やライトアップの使用が難しい場所もあるようだが、各リーグは音響やライトアップだけでなく、何らかの工夫をおこなうことで、非日常の空間を創造してみてはどうだろうか。


3.オープンな応援席

 試合会場の雰囲気もそのリーグを象徴する大きな特徴の一つである。わが国のスポーツの試合会場では、多くの場合、会場内に応援席が存在する。現在のトップリーグの試合会場においても、多くのリーグでチームを応援するファンが企業応援団席に陣取り、チアリーダーの音頭で大応援を繰り広げるという光景がよく見られる。応援団はとても華やかであり、試合を盛り上げるための重要な要素の一つである。しかし、これらの応援団はチーム企業の社員や関係者によって構成され、一般のファンが含まれることはあまりない。企業の社員やチーム関係者にとっては身内感覚で応援でき、チームや選手に対し大変親近感が持てるかもしれない。それゆえ、これまで多くの企業がスポーツを社内の一体感を醸成させる目的で利用してきたのがわかる。しかし、このチーム関係者が応援する空間は企業の社員ではない“一般のファン”にとっては少し距離を感じる場所となっているのではないだろうか。一般のファンの中には応援団に交じり一緒に応援に参加したいと思っているが、“企業席”というカテゴリー化された、“企業の人ばかり(自分以外は皆知り合い)”の中に入ることに対しためらいを感じる人もいるだろう。実際、各リーグに寄せられたコメントの中にも応援席に関するものが数多く見られた。そこで、応援団席をもっとオープンな場とし、一般の人でも気軽に入れる空間にしてみてはどうだろうか。これまで「応援団席」と呼ばれていたチケットや座席のカテゴリーのネーミングを「サポーター席」などに変えるだけでも、随分その印象は変わると思われる。応援席がオープンな場となることで、より試合会場が盛り上がると考えられるとともに、特定のチームに対する心理的な愛着を高める効果も期待できる。Jリーグの浦和レッズはオフィシャルサポーターズクラブという小さな応援団を多数“チームのオフィシャルサポーター”と認定することで、一部のサポーターの既得権益を排除し、応援団同士が対等な立場で協力し合える仕組みをつくりあげた。そうすることで、より多くの人がオープンな場で一体となることができるのである。


4.スタッフ教育

 スポーツの試合会場において、会場接客の仕事を担当するのは「アウトソーシングのアルバイトスタッフ」か「地方協会の関係者、もしくは地元の生徒・学生ボランティア」である。前者の場合はある程度のトレーニングを受けたスタッフが有給で職務についているため、それなりの質のサービスが期待できる。JTLに加盟する各リーグの場合、試合会場でその役割を担当するのは多くの場合、地元ボランティアスタッフである。彼らの働きぶりは大変熱心である。しかし、スタッフの行動基準については統一されたものがなく、会場によってばらばらである。そのため、時々混乱も生じる。試合を観戦に訪れる人々にとって、会場のスタッフが有給であるか、ボランティアであるかは関係ない。よって、リーグはボランティアスタッフに対しても十分な教育をおこなう必要があるのである。すべてのスタッフに対し“自分たちはプロのスタッフとして働いている”ことを認識してもらい、ボランティアスタッフであっても接客に関する十分な知識があれば、会場全体のサービスの質も高まることが期待される。


5.一流の意識

 このように、今回紹介したことがら以外にもリーグのブランドを構築させる様々な方法がある。各リーグはより良いブランドを構築するため、様々な努力や工夫が必要となる。リーグのブランド化と言っても、“非日常の空間でおこなわれる、一歩上のリーグ”であったり、“オープンで親しみやすいリーグ”と意味は様々であろう。しかし、リーグのブランド構築に関して共通して言えることは“関係するすべての者が高い意識を持ち、いかに魅力あるものを提供できるか?”ではないだろうか。