第2回 〜スポーツ界の自立と連携〜


 第1回の冒頭で述べたような社会構造の変化により、スポーツ界にも意識改革の必要性が生じてきた。これまでのように活動のすべてを企業任せにするのではなく、自らが価値を創造し、存在意義を世の中に示す必要が出てきたのだ。スポーツ界も“自立”しなければならないのである。ステークホルダーに自らの存在意義を理解してもらうことにより、必要性を認識してもらうのだ。具体的な方法としては、今日の社会において注目されている企業の社会貢献活動(CSR)の一環としての役割が挙げられる。企業の社会貢献活動は近年大きな注目を集めており、環境への取り組みや教育支援など、多くの企業がさまざまな形で取り組んでいる。社会貢献活動はこれまでボランティア的な要素が強かったが、最近ではCSR促進部といった社会貢献活動を専門的に扱う部署を社内に設ける企業が増えるなど、社会貢献活動を企業の経営資源として積極的に活用していこうとする流れがある。その中で、スポーツも例外ではない。スポーツを通じた活動も社会貢献活動のひとつとして認識されている。スポーツを通じた社会貢献活動には、社会に貢献するという理念のもと、スポーツチームの支援をおこなったり、各種大会をサポートするなどの活動が含まれる。スポーツの価値が高まり、企業のこうした活動が社会貢献として世の中に評価されれば、スポーツは企業の経営戦略資源としてより大きな役割を果たすであろう。
 これまでも、スポーツはフェアプレー精神やフレンドシップをはじめとしたモラルの向上や感動を創造することによる人間力の高揚という点において、大きな資産を築きあげてきた。スポーツが人間形成や教育面において、果たしてきた役割は測り知れない。また、近年では多くのスポーツチームやリーグにおいて子どもたちへのクリニック・スポーツ教室の開催や住民参加型スポーツクラブの設立といった活動を展開し、同時に、地域行政や地元企業と連携することで、経済や教育などさまざまな分野においてこれまで以上に住民や地域と密接な関係を築いている。これらのスポーツ資産をうまく活用することで、スポーツの価値を高めることができ、社会貢献活動の一環になりうる可能性は十分に考えられる。

 今日のスポーツ界を見てみると、必ずしもすべての組織が活動を通じて築き上げた資産を親会社である企業や地域に還元し、経営戦略資源へとうまく結びつけるノウハウを持ち合わせているとはいえない。自立することとは、すなわち、自らが持つ資源を有効に活用し、経営をおこなうことを意味する。そのためには、マーケティングの導入やマネジメントの知識を持った人材、国際感覚が豊かな人材の育成も必要であろう。スポーツ界においても、通常のビジネスと同じように、優れた経営感覚が求められる時代となったのである。しかし、現在のスポーツ界の現状を考えた時、経営に関するノウハウを持ち合わせていない組織がこれらの役割をすべて自らでおこなうことは大きな負担となりうるだろう。そこで、“自立”とともに、これからのスポーツ界にとって大きなカギとなるのが“連携”である。競技間、組織間、または各界との連携を図ることで、より効率的に、また、より幅広い活動をおこなうことが可能になるのである。

 2005年5月、競技間での連携を実現するため、日本トップリーグ連携機構が設立された。日本における団体ボール競技、8競技9リーグのトップリーグが連携し、互いのリーグの強化活動の充実、並びに、運営の活性化を図っていくことを目的としている。近年、わが国の団体ボール競技の多くは、オリンピックに出場する事が精一杯であり、早急に「団体ボール競技復活」を実現していかなければならない状況にある。そこで、各競技団体のトップリーグが連携することで、それぞれのリーグやJOCでは手が届かない事業や強化活動、及び運営の活性化といった事業に着手し、目標の達成に向けたさまざまな活動をおこなっている。この日本トップリーグ連携機構のように、たとえ競技種目は異なれども、多くのリーグやチームが連携することで、これまでは組織が単独でおこなっていた事業や活動も、より幅広く展開することが可能となるのである。この“連携”のしくみはスポーツが社会貢献活動を通して新しい価値を創造する際においても、重要な役割を果たすのではないだろうか。

 次回の第3回では、実際におこなわれているスポーツを通じた社会貢献活動の事例を挙げながら、“連携”をテーマに今後のスポーツと社会貢献のあり方についてより具体的に述べていきたい。


市原 則之(いちはら のりゆき)

広島県東広島市出身

現日本ハンドボール協会副会長。日本トップリーグ連携機構専務理事。日本オリンピック委員会常務理事、総務委員長、北京オリンピック日本選手団副団長。