第3回 〜これからのスポーツ界〜


 これまでの連載で、社会構造の変化等により、意識改革の必要性が高まっている我が国のスポーツ界の現状や、スポーツを通した企業の社会貢献活動について知っていただけたのではないかと思う。最終回の今回は、今日、実際におこなわれているスポーツを通した企業の社会貢献活動の事例をいくつか挙げながら、今後の“スポーツと社会貢献”のあり方について考えていきたい。

スポーツを通した社会貢献活動(1)

 近年、企業の社会貢献活動が注目される中、スポーツを通した社会貢献活動も、かなり盛んになってきた。その中で、まず思い浮かぶのは地域の人々や子どもたちを対象とした各種スポーツのクリニックの実施ではないだろうか。株式会社ジャパンエナジーは『JOMOバスケットボールクリニック』と題し、全国各地で女子バスケットボールチームのOGが中心となり、現役選手も参加してバスケットボールの指導をおこなっている。同様の活動は、富士通女子バスケットボールチームの『ふれあい教室』やJTのバレーボール教室などでも見られ、全国各地に広がりを見せている。サントリーではラグビーのサンゴリアスと男子バレーボールのサンバーズがJリーグと結んだ“Jリーグスポーツフェローパートナー”の活動の一環としておこなわれていた『サントリー_Jリーグ スポーツクリニック』に参加していた。また、男子Vリーグの堺ブレイザーズも同じ都市に本拠地を構えるbjリーグの大阪エヴェッサと合同でクリニックを開催しており、近年では競技の枠を越えた複合的な活動も数多く見られる。

スポーツを通した社会貢献活動(2)


 クリニック以外にも、スポーツ組織はさまざまな形で社会貢献活動に参加している。例えば、バレーボールVリーグ機構は財団法人骨髄移植推進財団の活動を支援し、骨髄バンクの普及に協力している。この活動では、Vリーグ機構に加盟するチームの関係者が骨髄バンクのドナー登録をおこなったり、試合会場において骨髄バンクのブースを設置し、観戦者に対して骨髄バンクへの理解、および、ドナー登録を呼びかけている。また、他の団体やチームにおいても、大会開催時や各種イベントにおいてチャリティー・オークションなどを開催し、そこで得られた収益を慈善団体などに寄付をおこなっている。アジアリーグアイスホッケーはFAO(国際連合食糧農業機関)のTeleFoodチャリティーイベントの一環で、『アジアリーグアイスホッケー2007-2008 TeleFood チャリティーゲームズ in YOKOHAMA』を開催し、国内4チーム提供によるチャリティーグッズ販売、及び募金活動などで得られた収益をTeleFood に寄付をおこなった。その他にも、選手が地元の老人ホームや小・中学校などへ訪問するといった活動もよく見られる。今後、これらの活動において重要となるのは、単発的なイベントで終わらず、活動の内容などをプログラム化することによって、継続性のある事業へと発展させることである。活動を継続し、事業として成り立たせることにより、地域やさまざまな組織とのネットワークといった新たな資産が生まれるのである。

 このように、近年、スポーツを通じた社会貢献活動もさまざま形でおこなわれるようになった。その中で、より幅広い活動をおこなうにあたり、今後どう活動を継続し、どのような成果を生み出すかを考えることはスポーツ組織にとって大変重要な課題であろう。そして、その答えのひとつとして考えられるのが、他の組織との積極的な“連携”である。昔から、スポーツは多くの人々を惹きつける力と高い技術力をもっていると言われてきた。これらはスポーツの資産と言ってもいいだろう。社会貢献活動をおこなうにあたっても、その資産を最大限に活用しない手はない。多くの資産を有するスポーツとさまざまな活動に対するノウハウを有する他の団体が連携することで、より効果的な社会貢献活動が期待できるのである。

S+3Cの関係


 社会貢献活動において、スポーツ組織と他の団体との連携のしくみはさまざまな形が考えられる。その中でも、今後、スポーツ界(Sports)がより効果的な社会貢献活動を展開するにあたっては、企業(Company)・大学、研究機関(College)・地域(Community)との連携が特に重要となるであろう。スポーツとこれらの機関との連携をそれぞれの英語の頭文字を取って、S+3Cの関係と呼びたい。このS+3Cの連携が実現することにより、地域社会にスポーツがより幅広く貢献できると同時に、地域経済や教育・研究などのさまざまな分野においても有益な成果が期待できるのである。その一例として、教育への貢献が考えられる。例えば、多くの小学校では体育の授業に、体育を専門としない教師によって授業がおこなわれているという。そのような学校に地域に属するいろいろなスポーツチームが連携し、選手を講師として派遣することで、子どもたちにより高い技術や専門的な知識を提供することができるのである。また、選手が学校の授業や企業の研修会などで自身の経験から得た教訓やスポーツの素晴らしさを伝えることは、子どものみならず、大人にとってもフェアプレーやマナーの大切さを改めて知るよい機会となるであろう。その他にも、大学などの研究機関と連携することで、運動プログラムの研究・開発やマネジメント知識を創造することも期待されるだろう。このように、スポーツ界が地域のさまざまな機関と連携することで、多くの新しい価値が生み出されるのである。

スポーツ界のこれから

 今回、3回の連載で、今後、スポーツ界が成長していくために必要な意識改革の重要性について述べてきた。その中でも、スポーツが社会において必要とされる存在になることは大変重要であり、その有効な手段のひとつとして、今日、世の中で注目を集めている社会貢献活動へのより積極的な参加が挙げられた。スポーツが持つ資産を有効に活用することで、社会に貢献するのである。それはスポーツ界にとって、これまでのように企業に依存するのではなく“自立”することを意味する。また、“自立”と同時に、競技間、あるいは、スポーツとは異なる組織と“連携”することも重要となるのである。今日の社会では、どの分野においても“連携”は重要なキーワードとなっている。さまざまな組織が連携することで、これまで単独ではなかなか手が回らなかった事業にも着手することが可能となるからである。今後も科学技術が進歩することにより、我々の社会もこれまで以上に大きな変化を迎えることが予想される。その変化に対応するためにも、スポーツ界は常に社会と親密な関係を構築し、変化に惑わされない確かな視座と自己を確立しなければならないのである。


市原 則之(いちはら のりゆき)

広島県東広島市出身

現日本ハンドボール協会副会長。日本トップリーグ連携機構専務理事。日本オリンピック委員会常務理事、総務委員長、北京オリンピック日本選手団副団長。