審判を取り巻く環境について 第1回<全3回>

はじめに

 スポーツの試合において、試合をコントロールする審判は必要不可欠な存在であります。わが国の審判のレベルは、競技を問わず、世界的に見て大変高いレベルにあると言われています。その証拠に、数々の競技で日本人の審判が国際審判員として、オリンピックやワールドカップなどの大舞台で活躍しており、また、若手を中心に、多くの審判が国際審判をめざし日々審判技術の向上に励んでいます。日本トップリーグ連携機構(JTL)でも競技における審判の重要性から、毎年、加盟する8競技9リーグから推薦された国際審判や、国際審判をめざす審判を対象に審判研修会を実施しています。4回目の開催となった今年は、味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)で、8月22(土)、23(日)日の1泊2日の日程で行われました。

 研修会の中で、国際バスケットボール連盟名誉国際審判員である橋本信雄氏と、サッカーの国際審判員でありかつプロフェッショナルレフェリーとしてJリーグなどの試合でも活躍されている吉田寿光氏をお迎えし「トップレフェリーであるために」と題して行われたパネルディスカッションから、審判の活動の実態や、日本のスポーツにおいて審判を取り巻く環境について考えてみたいと思います。



パネルディスカッション:プロ審判への転職

橋本(以下:H):みなさん、こんにちは。日本バスケットボール協会審判部長の橋本です。私もこの研修会の第1回に受講生として参加させていただき、それ以降毎年たずさわらせていただいています。この研修会も今年で4回目の開催となるわけですが、これまでに参加された審判の中からも、多くの方がリーグや海外の試合で国際審判として活躍されています。現在、プロの審判というと、野球やサッカー、大相撲など、まだ数えるぐらいしかいないと思います。その中で、今日は多くのプロ審判がいるサッカーから吉田寿光氏をお招きし、お話を伺いしたいと思います。

吉田(以下:Y):みなさん、こんにちは。日本サッカー協会の吉田です。みなさんもご存知かもしれませんが、私は昔、試合中に大誤審をしてしまいました。ですので、今日みなさんの前でお話するのは大変恐縮なのですが・・。また、私にはサクセスストーリーもありません。ですので、今日は気軽に話を聞いていただけたらと思います。

H:では、まず吉田さんが審判になられたきっかけについてお伺いしたいのですが。

Y:私は、大学でトップの選手になりたくてプレーしていたのですが、思うようになれなくて、地元に帰って審判をすることになりました。その時、先生に連れられて審判の試験を受けたことがきっかけでした。その後、審判の研修会などで、まだ若かったですから、体力テストなどで常に1位になることができ、そこから快感になり審判にはまりました。それから徐々にステップアップし、Jリーグの審判や国際審判の経験を経て、先日、2009年8月15日におこなわれたガンバ大阪vs浦和レッズ戦で、Jリーグ通算200試合目に到達いたしました。

H:日本のスポーツでは、まだプロの審判がいるスポーツは少ないのですが、サッカーがプロ審判をつくった背景はどのようなものだったのでしょうか?

Y:サッカーでは1993年にJリーグができ、選手のレベルが上がり、次はレフリーの環境を整備する必要があるという流れができ、私の先輩である岡田・上川のお二方がまずプロの審判になられました。そして、その後、私もプロの審判の話をいただきました。

H:吉田さんはプロの審判になられる前は、公立高校の先生をされていたということですが、安定した公務員を捨てて、プロになるにあたっての決断での不安や葛藤などはなかったですか?

Y:2001年に岡田・上川さんがプロになられた時、私にも話があり、その時、自分ではやりたいと思いました。で、妻に相談したら「あなたがやりたいことをやれば。」という言葉が返ってきました。学生時代トップ選手にあこがれ、Jリーグができ、もしサッカーで食べていけるのならやりたいと思っていましたので、妻の反応には驚きましたが、素直にうれしかったです。

H:その時、もし奥さんに反対されていたらどうでしたか?

Y:それは・・・たぶん説得していたでしょうね。。(笑)

H:プロになることは大きな決断だったと思いますが、公務員(先生)をしていた時の職場の理解はいかがでしたか?

Y:試合で長い期間出掛ける時は、いつも休暇を使っていました。ご存知の通り、2002年にはW杯がおこなわれ、その時は審判のリエゾンとして大会期間中は活動してたのですが、その時は国内にいるということで、学校長から職業免除の扱いをしてもらえました。教員を辞めて、プロになる際も、もちろん校長や同僚には話しましたが、それまでは普通に一教員として働いてました。

H:審判の環境の話になると、必ず職場や家庭の理解の問題になるのですが・・。それぞれの状況があるので、一概には言えませんが、今の時代、なかなか仕事を休むことはできないと思います。ましてや、一日休むだけでも大変なのに、長い休みや海外にはなかなか出にくいと思いますが、その辺り、サッカーではいかがですか?

Y:若い人の中には、審判をするために職場を変える人もいますが、私はそうでないと思っています。努力して、職場の人に理解してもらうのが正しい姿だと私は思います。私は審判を行うにあたって、“自分(職場や家庭)をコントロールできない人は、ゲームをコントロールなんてできない!”と思っています。

<文責:備前嘉文>

(次回につづく)