審判を取り巻く環境について 第2回<全3回>

パネルディスカッション:プロ審判としての生活

橋本(以下:H):では、プロの審判になって、どう生活が変わりましたか?


吉田(以下:Y):教員のころは、自分の学校のサッカー部の監督もしていたのですが、チームがアップしている時はお願いをして、自分のトレーニングをさせてもらってました。今は、トレーニングであったり、分析であったりと、全部の時間を自分のために使えます。そして、フィジカルのトレーニングコーチもついています。ですので、“いいパフォーマンスができて当たり前”という意識でやっています。

H:フィジカルのトレーニングということですが、どのような内容をされているのですか?

Y:サッカーの競技特性上、瞬発系も持久系も必要です。私は40歳になって初めてフィジカルトレーナーの方についてもらいましたが、マシーンによるトレーニングはしてなく、腹筋、背筋、腕立て伏せなど、基本的なトレーニングをしっかりすることでフィジカルがアップしてきました。

H:トレーニングのメニューは一人ひとり違うのですか?

Y:はい、一人ひとりに合わせて、臨機応変にトレーナーが作成してくれます。

H:受講生のみなさんの中にも、トレーニングをやりたくてもなかなか時間が取れないという人がいると思いますが、トレーニングをやるポイントなどはありますか?

Y:サッカーも含めて、教員の方が多いと思いますが、朝早く出社してやるとか、昼休みの時間を利用してやるなど、工夫することがポイントではないかと思います。

H:受講生のみなさんは、どのようにしてトレーニングをされていますか?(会場の受講生を指名して)

女子サッカー:私は実家で働いているので、時間的には恵まれていると思います。空いている時間をトレーニングに充てています。

女子バスケット:私の場合は、一般企業に勤務しているので、仕事後にランニングを行ったりしています。しかし、できる時、できない時があります。。

H:仕事などでトレーニングが十分にできなくて、自分のコンディションに不安がある時の対処法などはありますか?

Y:これはフィジカルトレーナーに言われたことなのですが、日本人は凄く真面目なんですよね。人間はもともと高いフィジカル能力を持っていて、その機能は凄いらしいのです。なので、少しぐらいなら気にせず、日々の仕事もトレーニングになっているわけなので、気持ちの部分、逆に不安な気持ちをつくらないことが大切だと思います。これはプロだけではなくすべてのレベルで、腹八分目、やり過ぎると壊れてしまうので、無理し過ぎないことも重要だと思います。

H:競技によって、フィジカルの必要性は違うと思いますが、“目”、つまり試合感は共通して重要だと思います。吉田さんは長い間試合がない期間など、どのようにして試合感を養っていますか?

Y:私は幸いこれまで大きな怪我をしたことがないので、長い休みと言っても、シーズンとシーズンの間ぐらいです。サッカーでは、怪我などで長期の休みがあった時はサテライトやトレーニングマッチ(練習試合)で調整をしてから試合に臨むことになっています。それと、サッカーでもあまり行っている人はいないのですが、目をぐるぐる回したりする運動は試合前にやっています。

H:バスケットの場合、トレーニングマッチなどをやり過ぎて、試合数が多くなるとどうしても慣れが生じて、ジャッジも甘くなりがちになるのですが・・。

Y:トレーニングマッチなどで甘くなってしまうと、逆に大きな試合ではちゃんとコントロールできなくなってしまいます。審判を行うにあたって、選手にもちゃんとルールを理解させる必要があるので、日ごろから“練習”という意識ではやるのではなく、“常に本番”であることを心掛けることがメンタルでは大切ではないでしょうか。あと、試合後に分析をして振り返ることも重要でしょう。

H:試合後の反省という話が出ましたが、レフリーの評価は、それぞれの競技でどのように行われているのでしょうか?(受講生を指名して)

ラグビー:評価に関しては、国際的な基準があります。しかし、特に若い人には、評価ばかりだと萎縮してしまうので、きちんとした指導も行っています。

アイスホッケー:評価委員会があり、そこでチェックをおこないアドバイスが行われます。

バレーボール:ゲームジュリーが点数で評価をおこない、それをもとにコメントが行われます。

H:サッカーではいかがでしょうか?

Y:サッカーでは、試合後30分〜1時間ぐらいの反省会があって、数日後、アセスメントレポートがあり、10点満点の評価とアドバイスが送られてきます。若い人はアセスメントを気にしがちになるのですが、あくまで審判は“いい試合を展開することが一番重要”であって、“アセスメントの点数を上げること”が目的ではないのです!なので、点数を気にし過ぎず、自分のポリシーも持つことも必要であると思います。

H:もしアセッサー(評価員)と意見が違った場合は?

Y:サッカーの場合、多くがVTRに収められていて真実はVTRを見ればわかります。正しいことは正しく、間違いは間違いなので、自分が間違っていれば、次の試合では違う立ち位置に立ってみるとか、その意見を次に生かしています。

H:では、ご自身ではどのようにしてゲーム分析をおこなっているのですか?

Y:私はプロの審判なので、すべての時間を審判の活動に費やすことができます。しかし、時間がない時は、優先順位をつけて、試合をいい展開でできるためにはどうすればいいか?など、考えながら学習しています。

H:他の審判との連携はいかがでしょうか?

Y:サッカーでは、私に8人の副審がついてローテーションで試合を担当するのですが、その人たちとは電話やメールなどでよくコミュニケーションや連携を取るようにしています。

H:次のゲームに対する備えは?

Y:先入観になってはいけませんが、自分が担当するチームの情報は入れておきます。

H:もし情報がない時は?

Y:今は環境が整い、恵まれていますが、私が審判をはじめた時は情報はあまりありませんでした。あと、海外のクラブの試合の時は情報がないことが多いです。そのような時は、開始5分で試合の雰囲気や流れ、キープレーヤーなどを把握する努力をしています。

H:よく開始早々でイエローカードを出す審判がいますが、私はとても勇気がいることではないかと思います。そのあたりはいかがでしょう?

Y:見ている人は不満に思うかもしれませんが、自分の基準を伝える重要なメッセージだと思います。いかに、その日の試合の基準、自分のメッセージを伝えるかという意味で重要ではないでしょうか。

H:どの試合もゲームの最初の5分間は重要なのだろうと思いますが、審判それぞれの方に個性があると思います。吉田さんの試合も何試合が拝見させてもらいましたが、小柄な身長を感じさせないレフェリングだと思います。その点について、何か努力されていることなどはありますか?

Y:私は体が小さいので、大きな歩幅で、胸を張って走って、大きく見せる努力をしています。メンタルの面でも、自分を強く持つことを心掛けていて、自信を持って判断するようにしています。

<文責:備前嘉文>

(次回につづく)