「不易流行」

 スポーツにかかわって、半世紀以上がたちました。

 はじめは選手として、そして指導者、スポーツ団体の関係者として。そのいずれの時期にも「スポーツ」は、私にとって魅力的な存在であったことは間違いありません。

 スポーツの魅力を一言で言い表すなら、それは「本物」ということでしょうか。練習を積み重ね、試合に臨み、勝利を目指して全力を尽くす。非常にシンプルなことですが、スポーツの本質だと思います。

 私は「不易流行」という松雄芭蕉の言葉が好きです。世の中には変わってはいけないもの、変えてはならないものがあります。これが「不易」です。また、改善してゆかなければならないもの、進歩してゆかなくてはならないがあります。「流行」とは、その意味です。

 スポーツの世界も同じです。スポーツの持つ本質的な価値、魅力は変わることはありません。しかし、スポーツを取り巻く「環境」や「組織」、「情報」や「戦略」「技術」などは時代とともに進歩していきます。古い因習や経験則にとらわれて、こうした進歩への対応を怠った時、それは停滞ではなく、後退を意味します。スポーツの本質的価値を敬いながら、常に勉強を怠らないことが、スポーツ界における「不易流行」ではないでしょうか。

 日本サッカー協会専務理事の田嶋幸三さんが、よく話されている「学ぶことをやめたなら、指導することもやめなくてはならない」という言葉は、まさに至言だと思います。

 それは、本質的価値を学びながら、さらに改善や不断の進歩を続けるという意味であり、指導者だけでなく、選手でも競技団体の運営に携わるスタッフにもあてはまることだと思っています。

※平成20年1月10日 東京新聞夕刊コラム「放射線」より転載