「大魚は支流に泳がず」

 近年、プロ野球やサッカーなどにとどまらず、数多くのアスリートが海外のリーグなどで活躍しています。まさに、スポーツ界もボーダーレス化時代に突入した感があります。
 そんな中、一部には「せっかく育成したのに海外流出してしまうのでは?」という懸念の声があります。しかし、私はスポーツ人として、海外の大きな舞台で活躍したい、という気持ちを持った若いアスリートたちを、もっと応援してあげるべきだと考えています。
 世界の大舞台で勝負することの本来の意義は「人材の流出」ではなく「海外への飛躍」です。才能あるアスリートがより広く、より高いレベルに挑戦することは、日本人として誇らしいことではないでしょうか。

 また、子どもたちも世界で活躍する日本選手に、あこがれのまなざしを向け、刺激を受けるはずです。それがきっかけとなって次世代の中田英寿選手(サッカー)やプロ野球のイチロー、松井秀喜選手などが育ってくるのではないかと思います。スポーツ界にとって大事なことは、そのような選手を喜んで送り出してあげる環境の整備や支援体制の充実であると考えます。
 大きな海で泳いだ魚は、必ず大きくなります。世界の大舞台で戦うことは、単にスポーツの技能が向上するだけではなく、国際感覚、人脈など計り知れない価値も身につけることができるのです。
 「大魚は支流に泳がず」。日本のスポーツ界に求められるのは、才能のある若いアスリートを世界に送り出し、そして、大きく成長した魚が戻ってきた時に、それを受け入れる、広い度量ではないでしょうか。そんなスポーツ界でありたいものです。

平成20年2月28日 東京新聞夕刊コラム「放射線」より転載