「スポーツの価値」

 日本のスポーツの発展に、企業は大きな役割を果たしてきました。戦後、数々の名門チームが誕生し、幾多のオリンピック選手を輩出しました。企業がスポーツチームを所有する理由には、社員の福利厚生や士気の高揚といったものが挙げられます。企業スポーツにかかわる多くの人も「チームの活躍は、企業によい効果をもたらす」と考えてきました。
 しかし、経済不況や社会構造の変化を受け、多くの企業チームが、リストラの対象となりました。女子バレーボールの日立やラグビーの新日鉄釜石といった、一時代を築いた名門チームでさえも廃部に追い込まれたのです。
 
 1990年代後半から2000年代に入って間もない時期にかけては毎年、三十以上ものチームが消滅する、というスポーツ界にとって危機的な状況が続きました。残念ながら、スポーツ関係者が思っていたほどスポーツの価値は、企業の経営者に理解されていなかったのでしょう。
 チームの休・廃部はここ3,4年、落ち着きを見せています。しかし、これまでと同じやり方では、いつ同じような危機にさらされるかわかりません。景気や社会の変化に左右されない組織をつくりあげる必要があるのです。
 スポーツが新しい価値を創造する方法のひとつに、企業の社会貢献活動としての役割が挙げられます。地域のスポーツクラブなどでクリニックやスポーツ振興の手伝いをする。教育現場、とくに学校体育や総合学習の時間に専門性を生かした指導をする。社会貢献団体と連携しチャリティー事業を行うなどがあります。こうした活動が広まれば、多くの人に、スポーツが持つ価値を再認識してもらえるのではないでしょうか。

※平成20年3月6日 東京新聞夕刊コラム「放射線」より転載