アスリートの食事学 Vol.13

2008/12/22




河谷 彰子




遠征前にやっておきたいこと



 
アスリートにとって“食事はトレーニングの一部”です。
 キャンプや合宿時の遠征先でも食事に気を遣いたいところですよね。選手を支えるスタッフは何を事前にしておいたら良いのでしょうか?






宿泊場所での食事メニュー確認



 どのような環境でも、アスリートにとってバランスの良い食事(主食・主菜・副菜・乳製品・果物)を1日3回そろえることが大切になります。(Vol.1参照)
 宿泊場所によってはステーキ・カツ・天ぷら・刺身など、色々と豪華に準備してくださるところもあるでしょう。ただ、アスリートにとってバランスが良い食事ばかりとは言えません。
 たんぱく質は十分に摂ることはできても脂質が多すぎたり、野菜や果物や乳製品が少なく、ビタミンやミネラル不足になることもあるでしょう。そうするとコンディションを整えることが難しくなりがちです。長期の遠征中に口内炎ができるというのは、この良い例です。
 そこで、このようなことが起こらないように、事前に宿泊場所でのメニューを調整することは非常に大切なこととなります。
 シーズン初めの身体作りの時期なのか?試合前なのか?遠征の目的により気をつけたい食事の要点は異なります。その要点については、各コラムをご参考にしてください。
 メニューチェックのポイントは、以下の通りです。


<主食>

 主食は、しっかりと食べていただきたいので(Vol.2参照)、丼もの・ちらし寿司・うどん・パスタ・パンの盛り合わせなどを組み合わせると良いでしょう。
 昼食はハードな午前中のトレーニング後、且つ午後のトレーニングに備えてしっかりエネルギー補給をしたい食事なので、主食のバリーエーションをそろえることで少しでもたくさん食べられるような工夫をする必要があります。
 さらに、気温や湿度が高い状態でのトレーニングは、食欲も落ちやすいため冷たい麺類など、食欲が増すような工夫も必要です。
 ご飯がすすむ工夫として納豆・漬物・海苔などを準備しておくこともお勧めです。
 ご飯にビタミン強化米や玄米を混ぜて炊いてもらうことは可能か、夜食などの補食を用意してもらえるのかなども確認しておくと良いでしょう。
 パンの種類は、デニッシュパンやクロワッサンなど砂糖や油を多く使用しているものは避け、フランスパン・ロールパン・など脂肪が少ないものをそろえておいたほうが良いでしょう。


<主菜>

 主菜は脂肪を多く含みやすいので(Vol.5参照)、肉や魚は脂肪の少ない部位を指定したり、調理方法もしくは調理過程で油を使いすぎないようにお願いすると良いでしょう。 刺身などの生ものは、特に夏場は避けるようにすると共に、衛生面に不安のある環境であれば(海外など)季節を問わず避けるべきでしょう。

<副菜>

コンディションを整えるためにも野菜もしっかり食べて欲しいため(Vol.4参照)、食べたくなるようなメニューの工夫も必要です。
 生野菜のサラダ・温野菜・おひたし・煮物・野菜炒めなど、いくつかそろえておくと良いでしょう。さらに、汁物は豚汁やけんちん汁など、具だくさんにするのも工夫の一つです。


<乳製品・果物>

牛乳とヨーグルトと果物を毎食用意しておきましょう。
 乳製品は普通脂肪・低脂肪・無脂肪のどれを準備しておくかは、選手の状態から選択しましょう。
 果物を毎食用意してもらうことが難しいようであれば、現地調達をすると良いでしょう。(勿論、宿泊場所への了解が必要となりますが)

<その他>

 日常生活から離れて集中してトレーニングをしたいキャンプ時でも、緊張の連続である試合遠征でも、タイミングを見てその地方や国ならでは料理を楽しむことはアスリートのリフレッシュにつながります。最もリラックスする夕食時に登場させると良いでしょう。
 ただし、調理方法や味つけがあまりにも独特で、好き嫌いがはっきりしそうなものは避けるべきです。



補食


 アスリートにとって、補食は食事の一部として大切です。特に、夕食後から就寝時までの時間帯に補食を準備するのかどうかを検討し、宿泊場所での準備なのか、現地調達をするのかをあらかじめ検討しておくと良いでしょう。その場合、宿泊場所やトレーニング場所の近くにスーパーがあるかを、宿泊場所のスタッフに伺ったり、下見の際に確認しておくと良いでしょう。





海外遠征時に気をつけること



 衛生状態・生活環境・自然環境などが大きく異なるため、事前に調べておくことが体調管理や安全管理にもつながります。
 衛生面で、まず確認しておきたいことは水質です。水道水のみならずミネラルウォーターに関する情報も収集する必要があります。野菜の項目にもお伝えしましたように、生野菜サラダやカットフルーツにも注意が必要です。さらに、の使用にも注意しましょう。
 宿泊場所でのメニューのみではストレスを感じそうな場合、近くに日本食レストランがあることが確認できれば利用すると良いでしょう。
 体調を崩した場合に備えて、簡単な料理ができるスペースがあると良いですが、無理な場合は、このような事態に備えてどのように対応するかを考えておくと良いでしょう。特に食事面は宿泊場所での対応や現地での調達が難しいようであれば、食材を持参して対応するのも1つです。(国によっては、食品の持込が厳しく規制されているところもあるため、事前の確認が必要です。)
 飛行機での移動が長時間に渡る場合は、積極的な水分補給も大切です。機内は乾燥しているため、あらかじめミネラルウォーターを渡しておくことも大切です。さらに、マスクをすることも、風邪予防のためには役に立ちます。




 食事メニューを事前にチェックして宿泊場所と調整をしていく中で、さらに料金がかかってしまうこともあるため、宿泊場所での食事で実施できること、持参するもの、現地調達するものなどをあらかじめ決めておくと良いでしょう。






河谷 彰子(かわたに あきこ)

株式会社レオックジャパン スポーツ事業担当 管理栄養士

〔経歴〕

1995年日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業

1997年筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻卒業

1997〜2006年3月株式会社タラソシステムジャパン入社
(海水中・陸上での運動指導や栄養カウンセリング、食サービスの提案を実施)

2006年4月〜株式会社レオック関東入社 同年9月にレオックジャパンに転籍
横浜FC栄養アドバイザー・横浜FCユース栄養アドバイザー
その他、YMCA社会体育専門学校にてアスレチックトレーナー育成講座『スポーツ栄養学』講師・慶応大学非常勤講師・さくら整形外科クリニックにて栄養相談などを行なう。

以下のコラムを担当しております。