アスリートの食事学 Vol.17

2009/01/26




河谷 彰子



勝敗を決める水分補給法とは?



 夏場に特に問題となってくる水分補給ですが、運動量の多い種目は特に季節を問わずに水分補給は勝敗を決める重要な要素です。運動中は体温を調節のために、発汗が促されます。体重あたり2%以上の体水分が減ると脱水症状を起こし、パフォーマンスの低下にもつながります。そうならないためにも水分補給はアスリートにとって、十分に気をつけたいことです。
 さまざまな情報がありますが、基本をおさえていないのに応用は利きません。試合や練習時のみならず、勝てるアスリートを目指すために、普段の生活から水分補給は十分に気をつける必要があります。今回はこの辺りをご説明していきます。



食事も水分補給の一部


 これまで何度か食事量のお話をしていますが、現在の食事量と比べてみて少ないと感じている方は、身体に必要な栄養素が十分に摂れていないことは勿論のこと、水分も十分に摂れていない可能性があります。
 米飯は約半分・野菜は約8割が水分です。食材から必要な量の食事をしっかり食べていれば、食事からの水分は1日2〜3Lとも言われています。サプリメントに頼る食事をするということは、たとえ必要な栄養素が摂取できていても、十分な水分補給にならないことにもつながります。



水分補給のポイント



 教科書では水分補給の項目に、下記のことがよく書かれています。

タイミング 30分前に
15分毎を目安に
直後から寝る前まで
飲む量 250〜500ml程度を数回に分けて
1回に一口〜200ml程度まで
体重減少分を分けて
飲み物の温度 5〜15℃に冷やしたもの
飲み物の組成 運動中 塩分濃度0.1〜0.2%、糖度3〜5%



<タイミングと量>

 注目していただきたいことは、トレーニング中のみならずトレーニング前後も水分補給に気を配る必要がある点です。それぞれのタイミングによって飲む量が異なることもポイントです。
 いちいち量る必要はありませんが、お腹がタポタポしない量・パフォーマンスを妨げない量であることが大切です。
 さらに注目していただきたいのは、トレーニング後の飲む量です。“体重減少分を分けて”とありますが、どういうことでしょう?
 トレーニング前後の体重の変化は、主に発汗によるものです。トレーニング中の水分補給が発汗量と同じであることが理想ですが、発汗量が多くなりすぎると脱水症状を起こしてしまい、パフォーマンスを落としてしまいます。体重の変化が2%以内であることが一つの境界線になるため、普段からトレーニング前後で体重測定をすることで、適切な量を水分補給しているか確認しておくことは良い事でしょう。発汗量には個人差がありますものね。
 トップアスリートはトレーニング前後で体重を計っていますよ。トレーニング後の体重測定では、汗を吸収したトレーニング着は脱いでくださいね。
 さらに、お酒を飲んだ日は特に普段よりも水分を多めに飲みましょう(Vol.9参照)。


<飲み物の温度>

 寒い冬でもトレーニング中の体温調節や発汗量を補う水分補給は大切です。しかし、水分補給の度に身体の動きが止まり、水分補給の水温が低ければ体温が下がり、身体に余計な負担がかかってしまいよくありません。表にある水温がトレーニング中の水分補給として低いと感じるようであれば、この温度にこだわる必要はありません。
 また、綿密に温度を測る必要もありません。
 臨機応変に、夏場であれば氷を入れれば良いですし、冬場は氷を入れなかったり、雪が降るような寒い日であれば、少しぬるめの温度を用意しても良いかもしれません。
 大切なのは、運動中の水分補給は飲みやすい水温であるということです。



<飲み物の組成>

 

現在、皆さんは運動中に何を水分補給として飲んでいらっしゃいますか?
 お茶? お水? スポーツドリンク?
 水分補給は、基本的に水で良いです。
 90分位の室内及び屋外運動では、スポーツドリンクに入っているミネラル分や糖分を補給する必要がありません。(ただし、炎天下で長時間(2時間以上)の屋外運動で無い限り)スポーツドリンクを飲む場合も、2〜3倍に薄めることが大切であると共に、必ず水も用意しましょう。
 色々な教科書に書かれているこの濃度は、基本的に市販されているペットボトル入りのスポーツドリンクや粉末状のものを規定の水で溶かした濃度です。しかし、トップアスリートはトレーニング中に、この濃度で水分補給をしていません。皆薄めて飲んでいます。何故でしょう?
 水分は胃ではなく小腸で吸収されるため、なるべく早く胃を通過する必要があります。胃の通過時間を優先して考えると表の濃度で良いのですが、トレーニング中にこの濃度で飲むと喉がさらに渇く感覚になってしまい、必要以上に水分を摂ってしまいます。その結果、お腹がタポタポしてしまってパフォーマンスを落としてしまう可能性が出てきます。
 トレーニング中にミネラルやエネルギーを補給しなくて良いの?と思われる方もいらっしゃるでしょう。
 90分位のトレーニング中にミネラルやエネルギーを補給しなくてはいけないような身体であれば、まずは食生活から見直すべきです。まずは食事の基本であるバランスの良い食事は勿論のこと、自分に必要なミネラルやエネルギー量が摂取できているのか?食事量を増やす工夫はできないか?ということを検討しましょう。




トレーニング後の水分補給


 ハードなトレーニングから開放されたとき、何を飲みますか?
 オレンジジュース?スポーツドリンク?お茶?
 少しでも早く炭水化物やたんぱく質を摂取することは、持久力や筋力アップに欠かせません。トレーニング後に、最初に口にするものもトレーニングの一部であることを忘れてはいけません。
 暑い日であれば、暑さから水をがぶ飲みしてしまいがちですが、飲みすぎてしまえばお腹が膨れてしまい、食欲が落ちてしまうでしょう。
 外から体温を下げることも水分を飲み過ぎないための良い方法です。
 具体的には、トレーニングの一部としてラスト10分位はプールに入ったり、洗顔やシャワーを浴びたりなど、水で体温を下げることは、とても有効な方法です。
 どうしても食欲がわかないようであれば、初めに冷たいサラダから食べると食欲がわきやすくなりますよ。
 ジュースに糖分が多く含まれていると以前にお伝え致しましたが(Vol.12参照)、スポーツドリンクも同様です。商品にもよりますが、ペットボトルに入っているスポーツドリンクであれば、500mlには約砂糖20gに相当する糖分が入っています。ジュースやスポーツドリンクを控えて、お茶に切り替えたら、あと1膳のご飯が増えるかもしれませんよ。





 試合での水分補給の方法が、勝敗を決めることもあるくらい重要なポイントの一つです。普段のトレーニング時から、自分に必要な量やタイミングの水分補給法を探ってみてはいかがでしょう?
 まずは、食事量を増やす必要がある方もいらっしゃるのでは?






河谷 彰子(かわたに あきこ)

株式会社レオックジャパン スポーツ事業担当 管理栄養士

〔経歴〕

1995年日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業

1997年筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻卒業

1997〜2006年3月株式会社タラソシステムジャパン入社
(海水中・陸上での運動指導や栄養カウンセリング、食サービスの提案を実施)

2006年4月〜株式会社レオック関東入社 同年9月にレオックジャパンに転籍
横浜FC栄養アドバイザー・横浜FCユース栄養アドバイザー
その他、YMCA社会体育専門学校にてアスレチックトレーナー育成講座『スポーツ栄養学』講師・慶応大学非常勤講師・さくら整形外科クリニックにて栄養相談などを行なう。

以下のコラムを担当しております。