アスリートの食事学 Vol.33
2009/05/25
河谷 彰子
● アスリートの“ママになりたい“を応援します。
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柔道の谷亮子選手・マラソンのラドクリフ選手・女子サッカーの宮本ともみ選手・ビーチバレーの佐伯美香選手・クレー射撃の中山由起枝選手・陸上長距離の赤羽有紀子選手・投擲の大橋千里選手など、出産後も競技を続ける女子選手が増えてきました。
出産後もアスリートとして頑張ることができるのは、本人の頑張りも勿論ですが、トレーニングや食事の科学的な検証が行なわれるようになったり、また女性に対する様々な環境が変化した結果とも言えるでしょう。
妊娠・出産は女性の身体が大きく変化するときです。自分の身体の変化に敏感なアスリートにとって、とても興味深い現象かもしれませんね。
1.妊娠中のエネルギー量は普段と、どの位違うの?
一般的には、母体に必要なエネルギー量は増えます。それは、お腹の赤ちゃんを育てていく為です。
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ひと昔前は、「妊娠したら2人分食べなさい!」と言われていたくらいです。
しかし妊娠によって増やすべきエネルギー量は、
・妊娠初期(2・3・4か月)で50kcal
・妊娠中期(5・6・7か月)で250kcal
と、さほど多くはありません。
妊娠後期(8・9・10か月)でも500kcalで、ご飯2膳分位です。
そのため、食べ物があふれている現在では、太り過ぎないように気をつけるように指導されることが多くなりました。
その反面、食べ物が溢れているにも関わらず若い女性における偏食や痩せている人も増加しており、妊娠中・授乳中のママと赤ちゃんのために適切な食習慣を身に付けることが、とても重要な課題となっています。
アスリートの場合は、トレーニングが制限されて消費エネルギー量が少なくなるために、妊娠中はいつもより食事量が少なくてよい場合も考えられます。
また、普段はできるだけ増えないようにしていた体脂肪も、育児に備えて蓄える必要があったりするので、現状の食事内容を見直す必要が出てくる可能性があります。
2.肥満も痩せも気をつけて!
赤ちゃんの重さ
胎盤・羊水の重さ 母体必須体重増加 |
約3kg
約1kg 約3〜4kg |
合計 | 約7〜8kg |
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一般的に、妊娠で増える体重の内訳は、右記のように言われています。
母体必須体重増加というのは、大きくなった子宮や蓄えられた脂肪分、また妊娠によって増えた血液や体液分です。
赤ちゃんの成長と母体に必要な体重増加は約7〜8kg。この程度の体重増加が望ましいといわれています。
最終的に10kg増えた人は、約2〜3kgが余分な脂肪というわけです。
しかし、妊娠中の適切な体重増加量については、肥満ややせといった妊婦個人の体格に配慮しなければいけません。
特に、妊娠中の体重増加量が少ない、あるいは妊娠前の母体が痩せ型だと、低出生体重児を出産するリスクが高く、低出生体重児は、成人後に糖尿病や高血圧など生活習慣病を発症しやすいという報告もあります。
「妊娠中の体重増加量は母乳の脂肪濃度にも影響」するとも言われています。
妊娠中には体脂肪を蓄え、授乳期には食事からの脂肪摂取量が少ないママの方が、母乳へのエネルギー以降量が多いことが明らかにされています。
母乳は赤ちゃんの大切な栄養源。
とりわけ母乳の脂肪は赤ちゃんのエネルギーや必須脂肪酸の供給源として重要なのです。
出産後のママにとって赤ちゃんに母乳をあげることが、妊娠中に増えた体重を元に戻す助けになるのです。
妊婦のための食事指導は、産婦人科や各自治体の行なっている母親教室・両親学級等でも受けることができます。適正な体重管理のための食事についてはもちろん、
・妊娠・授乳で必要量が多くなる栄養素 鉄・カルシウムについて
・便秘予防の為の食事について
・むくみを予防する為の食事について
などが主な内容の所が多いようです。
3.今日から、正しい食習慣やワザを磨いておこう!
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妊娠中はだんだんお腹が大きくなるとはいえ、まだ身1つの妊婦は、まだまだ食への意識を改めきれないのが現状という方も多いでしょう。
頭では分かっていても、食事を菓子パンで済ませてしまったり、麺類や丼ものなど単品で済ませてしまったり。あるいは、これじゃいけないとサプリメントに頼ってみたり・・・。
でも、ちょっと考えてみてください。
生まれてくる自分の子どもも食事は菓子パンで良いですか?
サプリメントで栄養補給をさせれば良いですか?
赤ちゃんが産まれてから、離乳食が始まってからはちゃんとしますという方もいらっしゃるかもしれません。
離乳食が始まると、わが子には「安心で安全な食品を食べさせたい」という思いが大きくなるママが大半です。「離乳食は頑張って手作りしてます。」という声もよく聞かれます。
また、わが子には「きちんとした食習慣を身に付けさせたい。」と思うようになるママも多いです。
そのためには、家族の食事を作る手腕が必要ですし、自分もきちんとした食習慣を身に付けておく必要があります。
元気な赤ちゃんを産みたい、立派なお母さんになりたいと思ったら、今日から磨いておきたいワザですよね。
4.最近注目のトピックス!“葉酸”
多くの疫学的研究により、葉酸の摂取は二分脊椎などの神経間閉鎖障害の発症リスクを低くすることが明らかにされています。
この障害は妊娠7週未満に発生することが知られているため、妊娠したかも・・・と思ってからの対応では遅い可能性があるのです(妊娠が分かるのは5週前後です)。
そのため葉酸は少なくとも妊娠の1か月以上前から摂取し始め、妊娠3か月まで摂り続けることとされています。
遅くても「赤ちゃんが欲しい!」と思ったときから、食事に気をつける必要があるのです。
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葉酸を多く含む食品には、
・野菜(ブロッコリー・ほうれん草・モロヘイヤなど)
・豆類(枝豆・そら豆・大豆・大豆製品など)
・海苔
・肝臓
・小麦胚芽
・卵黄
・牛乳
などが上げられます。
妊娠とは自分の身体の中で、もう一人の命をはぐくむこと。自分が食べたもので赤ちゃんが育つのです。
妊娠を希望したり、妊娠が分かったときから、少し出産後の育児のイメージができると良いですね。
例えば母乳で育てたいとか、子供の離乳食や幼児食は安心・安全なもので手作りしてあげたいとか、どんなおやつを食べさせてあげたいとか、ちょっと想像してみませんか?
そうすることで食生活を見直すきっかけにできるかも知れません。
妊娠・出産は、アスリートにとってマイナス要素が少なくありません。
しかし競技力向上の為に、自分自身のために食事管理をしていたアスリートなら、きっと妊娠・出産も無事に乗り越えられるはずです。
身体を回復させて、競技に復帰したい女性アスリートも応援していきたいと思います。
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