アスリートの食事学 Vol.40
2009/07/27
河谷 彰子
● 偏食攻略法!
“好き嫌いが多い人は、人の好き嫌いも多い”という調査結果があるのをご存知ですか?
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偏食は少ないに越したことはありません。できれば、人前では何とか食べられるというくらいにはなっていたいものです。
身体が資本のアスリートにとって、偏食があるということは、立派なウィークポイント。もしあなたが、アレが嫌い、コレが食べられないと言っているとしたら、それはチームメイトにポジションを奪われるチャンスを作っていることになりかねません。
そうならないために、苦手な食材を克服する攻略方法を練ってみましょう。
1.苦手食材の利点を知る。
もやしやレタスなど、各種栄養素が少ないというイメージのある食材を目の前に、よく選手から『●●には、栄養って無いんでしょう?』『●●って、エネルギー低いし、身体の足しにならないんでしょう?』と聞かれます。私は『栄養がないなんてことは無いですよ。身体の調整をしてくれる栄養素があるので、食べてくださいね。』と言います。
どんな食材にも、何かしらの栄養素を含んでいて、身体へのメリットがあります。
野菜を例に、解説してみましょう。
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多くの生野菜は、カリウムを多く含み、筋肉のエネルギー代謝・神経伝達・筋肉の収縮を助けるという働きがあります。
脚がつる理由には、血行不良・ナトリウムやマグネシウムやカリウムなどのミネラル不足・準備運動不足・水分不足・ビタミンB1不足など様々ありますが、野菜嫌いや野菜を食べる量が充分でない選手に、よく見られるように感じます。(Vol.4参照)
さらに暑さで食欲が落ちがちな今の時期は、冷たい生野菜のサラダから食べ始めると食欲がわきますよ。はじめに野菜料理を登場させることで、夏ばて防止につながるのです。
また、野菜の重量の内、8〜9割が水分です。つまり、野菜をしっかり食べる(700g/日)ことは、水分補給につながります。つまり汗をかく夏場の野菜不足は、脚がつる原因にもなりかねないということです。
野菜の量を食べたくない場合や食べるのが大変な時は、優先的に緑黄色野菜を食べましょう。
野菜には、大きく淡色野菜と緑黄色野菜の2つに分類されます。
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全ての野菜に多く含まれるビタミンはビタミンCですが、緑黄色野菜には、ビタミンB1・B2・A・Eなど数多くのビタミンが含まれています。
様々な身体の調整に役立つビタミンを多く摂るためにも、同じ量を食べるのであれば、もやしよりピーマン、レタスよりほうれん草の方が、良いということになるでしょう。
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視覚的な負担を減らすために“火を通してかさを減らす”というのも一つの手でしょう。火を通すことで、ビタミンCやカリウムの含有量は減りますが、1日に必要な野菜量をしっかりと食べていれば、不足を心配する必要はありません。
このように、苦手食材の利点を知ることで“食べる気持ち”を湧かすというのも一つではないでしょうか?
2.デビュー戦が勝負
特にジュニア期ですが、初めて食べる食材や料理を提供する際には、気を遣いたいものです。
苦手な食べ物を作ってしまうきっかけに離乳食が大きく影響をしていると考えられます。
子どもの味覚は未発達で、甘味や旨みは好きですが酸味や苦味は苦手です。そのため、酢の物の酸味や緑黄色野菜の苦味が苦手な子ども達が多くいます。その経験を引きずったまま克服できず、大人になっても食べられない、もしくは食べない習慣がついてしまうということが充分考えられます。
そこで、初めて食べる食材や料理を登場させる時には、少し考慮してあげると良いでしょう。
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酢の物であれば、酢の量を少なめに、すっぱさがほんのり付く程度にすると良いでしょう。
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おひたしであれば、大人は鰹節をかけて醤油で食べますが、子供用にはめんつゆのような甘味もある調味料を使ったほうが食べやすくなります。
抵抗なし | 抵抗あり | |
味 | 甘味
旨み(和風・洋風だし) 刺激のない味 |
苦味・酸味・辛味
薬味等の独特の味 |
香り | 好きなメニューや
調理の香り |
生臭み
刺激の強い臭い 発酵臭 |
食感 | 噛みやすい
なめらかな口当たり |
噛みにくい
飲み込みにくい |
子どもの抵抗ない味に混ぜて登場させると、案外すんなりとデビュー戦をかざることができるかもしれません。(右表参照)
ですから、いくら栄養価が高いといっても、子どもに苦瓜を食べさせるようなことはしなくても良いでしょうし、香りが良いからといってシソや茗荷などの薬味を使った料理を食べさせる必要はないのです。
独特な味・香り・食感の食べ物は、大人が食べているものに興味を持ったときが子ども自身が選んだデビュー戦と思えば良いでしょう。
また、子どもの咀嚼力は未熟なため工夫が必要です。
私にも、煮物に入っていた乱切りのごぼうを食べるときに苦労したという思い出があります。いくら噛んでも飲み込める状態にならず、涙を浮かべながら、味噌汁で押し流しました。
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充分に噛み切る・噛み砕くために、食物繊維が多くて堅そうな食材は大人よりも少し小さめに切ると良いでしょう。
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また、脂肪が少なくて食材の水分が少なそうな食材は、あんかけにしたり、油を使うなどの調理方法に工夫をしてあげる必要があるでしょう。
ほうれん草を使った料理であれば、デビュー戦には葉先を少し小さめに切ったものを用意してあげたり、おひたしよりもバターソテーにすると食べやすいでしょう。
魚料理なら、ムニエルやソテーしたものをホワイトソースでからめると良いでしょうし、焼魚であれば野菜あんをかけたりすると良いでしょう。
良く噛んで食べる習慣を身につけて、だんだん大人と同じ調理方法で食べられるようにしましょう。
子どもが嫌いだからと、その料理や食材を出さないのではなく、気が向いたらいつでも食べられるように、食卓に並べておくことが大事です。子どもが食べないものでも、大人が美味しそうに食べる姿を見せることも必要です。
デビュー戦は失敗しても、子ども自らリベンジする気持ちをかりたてましょう。
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その他の苦手克服方法として “一緒に野菜を育ててみる”“一緒に料理をする”などがあります。子ども達にお手伝いをお願いすることで、苦手料理を克服することにつながったという経験談をよく耳にしますよ。
“見せ方・切り方を工夫する”という方法もあります。キャラクター弁当が悪いとは言いませんが、やりすぎる必要はありません。可愛くて、綺麗な見た目でないと食べられないという子供にならないよう、程々の工夫でOKです。
“積極的に子どもと接している家庭ほど、偏食のある子どもの割合が少ない”“偏食がある家庭とそうでない家庭には子どもの成績にも差が出る”という調査結果もあります。
子どもの食べ物の苦手克服には、周りの大人の関わり方も大きく影響していそうですね。
3.苦手な食材に、サブがいるから大丈夫?
嫌いな食べ物があったとしても、それに変わる食材(サブ)を食べることができれば、身体に必要な栄養素を満たすことはできます。ただ、そうも言っていられないこともあります。
乳製品が嫌いなアスリートがいたとしましょう。
乳製品はたんぱく質とカルシウムを豊富に含む食品で、骨づくりや筋肉づくりに欠かせない食材といえます。
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アスリートに必要なカルシウムは(年代や種目にもよりますが)1,000〜1,500mgです。牛乳やプレーンヨーグルト200mlには、カルシウムが約200mg含まれています。コップ2〜3杯分のカルシウムを乳製品から食べることができると、栄養バランスが良くなるだけでなく、何より献立作りが非常に楽になります。
しかし、乳製品が食べられないとなると、カルシウムを豊富に含む他の食品で補わないといけません。栄養バランスを考えるプロである栄養士が献立を考えるにしても、かなり苦労する状況です。
アスリート自身が気をつけたとしても、必要なカルシウム量を乳製品なしで摂取するのは非常に難しいことです。
乳製品・卵・納豆や豆腐などの大豆製品・緑黄色野菜を筆頭に、サブに頼りたくない食材も存在するということも知っておきたいですね。
4.憧れの大人であるために
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憧れの人が嫌いなものを料理からほじくり出したり、よけて食べていたりする姿は、とても格好悪いと思いませんか?
アスリートの皆さんは、そのスポーツを頑張っている子ども達にとって、憧れの存在なのです。食習慣に関しても、期待を裏切らない素敵な選手でありたいものですね。
ある親御さんから相談を受けたことがあります。
子どもが通っているあるスクールの背の高いコーチが子ども達に“俺は、牛乳が嫌いだ!でも、こんなに背が大きくなった”と自慢して困るというのです。
子ども達を教えているコーチも子ども達の憧れです。言動には注意したいものですね。
子供に関わる全ての大人も同様です。「アレが嫌い、コレが食べられない」と言っているその姿を、子供は見ていますよ。「嫌いなんだ」という言葉は、一緒に食事をする人にとって、心地良いものではありません。どうしても食べたくないものなら、周りに気づかれないように、スマートに残しませんか?
様々なチーム・アスリートをサポートしていて、やはり強い選手には偏食が少ないと感じています。
苦手な食べ物を少なくして、勝てるアスリートを目指しましょう。
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