アスリートの食事学 Vol.41
2009/08/03
河谷 彰子
● 手塩にかけたアスリート食で、良い塩梅(あんばい)に!
アスリートにとって、“食事はトレーニングの一部!”
ただ、食事は楽しく・美味しく食べて欲しい!というのが私の願いです。
|
|
タイトルには
“手塩にかける=自分で直接世話して大切に育てること”
“塩梅=塩と梅酢を合わせた調味料”とあるとおり、今回のキーワードは“塩”です。
塩は身体に欠かせない調味料です。上手に塩を使うことが食事をさらに美味しく食べることができるなら、活用したいですね。
1.塩をなめてトレーニング?夏場に、気を遣いたい塩分補給!
夏場、水分補給をするときに「お茶や水では水分が身体に行き渡らない感じがする」「スポーツ飲料を身体が欲する感じがする」など感じたことのある方もいらっしゃるのではないかと思います。
夏は特に汗をたくさんかくため、水分だけでなく塩分の補給も必要になります。
今まで関わった学生アスリートの中には、夏に塩をなめながらトレーニングをしているチームもありました。汗による塩分の損失が心配なのはわかりますが、直接、塩をなめる必要はありません。なぜなら、毎日、朝・昼・夕と調味された食事を食べることで、塩分は充分に摂ることができるからです。
本当に塩分不足を心配しなくてはいけないのは、食事を抜いた状態で大量の汗をかく場合と考えておきましょう。何より手塩にかけた料理で楽しくて美味しい塩分補給もしたいところです。
|
ご飯がすすむアイテムとして塩分を含む梅干し・漬物・キムチ・佃煮・味付け海苔などを用意することは、手軽で良いことです。
ちなみに、横浜FCの選手はキムチが大好きです。ご飯は勿論、うどん・そば・パスタにもキムチを添えて食べたり、納豆とキムチを混ぜたりと、自分好みにアレンジしています。
まさに、手塩にかけて良い塩梅で食事を楽しんでいるんですよ。
|
長時間に及ぶ過酷な競技をしている方の中には、試合後に味噌汁を飲みたくなるという方もいらっしゃいます。これは、汗をたくさんかくと、身体が塩分を欲するということの1つの表れかも知れません。味噌汁は、適度な塩分と旨味成分も入っているので、暑い日のトレーニング後に飲む・食べるのにお手軽なスポーツドリンクと言えるでしょう。さらに、汁物があることで食が進むのですから、一石二鳥ですね。
おいしいと感じる塩分濃度は、科学的に分析されています。それは体液の塩分濃度と密接に関係しており、汁物なら0.8%前後の塩分濃度です。
汁物を料理するのは面倒臭いというアスリートの方であれば、インスタント味噌汁でもOKです。できることなら、具材も加えたいところです。インスタントの味噌汁でも、好みの野菜をレンジでチンして入れれば、さらにビタミン・ミネラルが摂れる味噌汁になります。乾燥わかめなどの海藻類なら、もっと簡単ですね。
2.料理の立役者“塩”
|
スイカに塩・あんこを作るのにも塩・有塩バターを使った洋菓子・・・など塩は甘味を際立たせる影の立役者ですよね。これは味の対比効果といって、甘みの中に少量の塩分が加わることによって、より甘さが引き立ちおいしく感じるのです。
甘味のみならず、旨味物質やアミノ酸の味に適度な塩を加えると、旨味物質の味が引き出され、それぞれの素材がさらに美味しくなります。
さらに塩には、強い味を抑えてまろやかな味にする抑制効果もあります。例えば、酢の物や酢めしです。塩を加えることで、酢の強い風味を美味しく変えてくれるのです。
|
つまり塩を入れなければ折角の美味しい素材も美味しさの出し惜しみをしてしまったり、自己主張をしすぎてしまうものもでてきてしまうのです。
塩は味付け以外に、脱水・魚の臭みを取る・野菜の緑色を鮮やかにするなどの働きもあります。
魚の下準備に・きゅうりの板ずりに・ほうれん草など青菜をゆでる際に・焼き魚に塩、さらには化粧塩なんて使われ方もありますね。
保存のためにも、塩は使われています。上記のご飯がすすむアイテムにも登場している、梅干・漬物の他、魚の干物、塩辛などが代表的ですね。
意外なところでは・・・、魚のすり身は塩分を加えることで粘りが出て、かまぼこやはんぺんのような製品にすることができるのをご存知ですか?また、パンやうどんなど小麦粉の粘り・こしを出すためにも塩は使われています。
つまり、アスリートにとって美味しい食事をしっかり食べることは、自然に塩分補給ができることにもなるんですよね。
3.1日の塩分量
一般的に1日の塩分摂取目標量は男性10g未満・女性8g未満です。
食品売り場に行くと調味料は勿論のこと、梅干し・ハム・漬物など、色々な減塩商品が陳列されています。そのためか、アスリート本人やそのご家族から、“アスリートは食事量が増えるけれど、塩分の摂り過ぎを気にしなくて良いのか?”とよく質問されます。
男女とも1〜69歳で1,000kcal当たり4.5g未満を目安にすると良いとされています。つまり、1日の摂取エネルギー量が3,000kcalなら13.5g、4,500kcalなら20gです。ただし、摂取すべきエネルギー量が多くなるほど、濃い味付けでも良いということではありません。食事量が多くなるから、自然に塩分量も増えると考えましょう。
|
市販食品には、栄養表示の中にナトリウムの表示が義務付けられていますので、参考にしてください。
食塩相当量 = ナトリウム(g)×2.54 (ナトリウム400mgで塩分約1gに相当)
塩分の摂り過ぎを気にするのであれば、スナック菓子やインスタント食品を食べる習慣から見直すことが優先順位が高いでしょう。
また、趣味でスポーツをしている高血圧症を持つスポーツ愛好家であれば、お酒のつまみの塩分量からではないでしょうか?
4.スポーツドリンクについて
|
涼しい時期の90分未満の運動であれば、水分補給は水で良いと考えます。しかし、夏の時期など、暑い炎天下の状況であればナトリウムが含まれているスポーツドリンクを登場させる必要もあるでしょう。
スポーツドリンクの塩分は、100mlあたりナトリウム40〜80mg以上(塩分濃度に換算すると約0.1〜0.2%)を含んでいるものが良いと日本体育協会でされています。
こちらも栄養表示を見ると確認することができます。スポーツドリンクと称しているものであってもこの値のものは多くなく、ナトリウムを含まないスポーツ飲料“風”の製品もありますので、目的に応じて表示を確認することが必要です。
5.色々な塩
塩大福・塩キャラメル・塩アイス…沖縄の郷土菓子“ちんすこう”の人気商品の中には“雪塩ちんすこう”…など「塩」を売りにした食品が最近では人気ですね。
|
塩自体も、各地方特産のものが出たりと、ちょっとした塩ブームが起きています。これは2002年4月に塩の販売が自由化されたことがきっかけとなっています。日本には岩塩としての資源がないため、海水を煮詰めたり、塩田法による昔からの製法や、瞬間的に水分を蒸発させる加熱噴霧といった新しい方法などで作られています。
天然塩とか自然塩といった塩は、純度の高い塩化ナトリウムの精製塩とは違って他のミネラルも含むため、料理がより美味しくなったり、食材そのものの味が活かせるなどの意見があるようです。
また、食材と塩の産地が同じだと最も料理が美味しくなるという方もいらっしゃいます。
塩分補給の塩にもこだわりたいアスリートの方であれば、調味料の塩にこだわってみるのも楽しいかもしれませんね。
最近では、塩に色々なハーブや香辛料が混ざった商品もあります。レンジでチンしただけのジャガイモにかけただけで、とっても美味しいですよ。
|
汗をたくさんかく季節、汗とともに塩分も失われていることは確かです。塩をなめるなどの直接的な塩分補給は必要ありませんが、バランスの良い食事を最低3回食べて、手塩にかけた料理で楽しんで美味しく塩分補給をすることをお勧めします。
いい塩梅のコンディションが保てますよ。
|