アスリートの食事学 Vol.42



2009/08/10




河谷 彰子



余計な体脂肪を減らして動ける身体になる! 減量時の食事


 身体を動かすためには筋肉が必要です。余計な体脂肪は、筋肉を動かす際のおもりになってしまい、スピードを落としてしまいかねません。
 
監督やコーチに『体重を落とせ!』と指導された場合、皆さんはどのような方法で減量をしますか?方法を間違えると、スピードは勿論のこと、スタミナも落としてしまいますので、さらに勝てるアスリートを目指すことができなくなってしまいます。
 
今回は、この辺りを解説してまいります。

1.減量の結果、得られる利点を理解しよう。


 
何故監督やコーチは、減量をリクエストしたのでしょう?
  ・体重階級のある競技(柔道など)では、計量をクリアするため。
  
・芸術的要素が多い競技(新体操やフィギュアスケートなど)では、身体そのものの美しさも要求される
   ため

  
・その他の多くの競技では、体脂肪はおもりとなってしまい機敏な動きを妨げる要因になるため
 
以上のような理由が考えられます。

 監督やコーチに言われて減量させられているという状態では、勝てるアスリートとは言えません。選手自身が納得して、必要性を感じて行動に移さないと真の意味での減量は成功しませんよ。
 選手自身が自分の競技特性・ポジションの特異性・有利となる体格や体組成など、何が適当なのかを理解し、指導者からの『体重を落とせ!』の真の意味を理解しましょう。


 ジュニア期であれば特に、監督・コーチは『体重を落とせ!』の一言ではなく、その裏に隠されている理由を、時にはじっくりと説明してあげる必要があります。
 競技暦が長くなると、どの位の体重だと動きやすい・体重や体脂肪の上限と下限を知っていて、それを超えるとスタミナやスピードが落ちるなど、自分に適したところが分かってきます。そういった自分の感覚も大切にすると良いでしょう。
 しかし、自分自身の感覚が間違っている場合もあります

 減量でなく増量のケースですが、高校生から大学生、アマからプロなど、より高い競技レベルが要求される状況になるときによく起こるように感じます。食事量を増やし、レベルに合った身体を作るべき時期であっても「たくさん食べると動けない」と、勝手に決めつけてしまっているアスリートをよく目にします。同じ体重の増加でも、脂肪が多く増えたときと筋肉が多く増えたときでは、動きやすさに違いが出てきます。勝手に自己判断で、適正な体重を決めつけるのではなく、客観的な視点も必要なのです。


2.目標を決める

 次に、いつまでに・どの位減量(体重・体組成)するのかという目標を決める必要があります。
 急激な減量や短期間の減量はリバウンドを起こしやすく、さらに勝てるアスリートを目指してるとは言えませんね。何より、無謀な計画には無理があります。
 では計算上、どの位が実行可能なのかを見てみましょう。
 減量の際に、基本的に落としたいのは筋肉量ではなく、体脂肪です。
 食品の脂質は1g当たり9kcalで計算しますが、ヒトの体脂肪は7.7kcalで計算します。

例えば、1ヶ月で2kg落とすなら・・・
 1ヶ月に今までよりも15,400kcalを現状からマイナスにすれば良い。
                                   (脂肪2kg=2,000g=15,400kcal)
 1ヶ月を30日として、1日当たりに約520kcalを現状からマイナスにすれば良い。
                                      (15,400kcal÷30=513kcal)

 今のトレーニングに減量のためのトレーニングをさらに加えることができるのであれば、マイナスにすべきエネルギー量を運動分と食事分に分けて考えます。これ以上トレーニング量を増やすことが難しければ、食事からマイナスすることを考えます。
 1ヶ月に4kgと考えたら、計算上はその倍のエネルギー量を現状からマイナスしなければいけないことになります。
 無謀な計画は、体調を崩してしまい、勝てるアスリートではなくなってしまいますよね。
 現在、減量中のアスリートで心当たりのある方は、目標設定に無理が無いかを改めて見直す必要があるかもしれませんね。
 ちなみに、短期間にたくさん落ちた体重の内訳は、ほぼ水分や筋肉。短期間にたくさん増えた体重の内訳は脂肪ですよ。

3.まず見直すのは嗜好品!その次が油!

 嗜好品はお酒・菓子類・ジュース・アイスなどがあげられます。アルコールや菓子類に含まれる脂質・砂糖は、エネルギーはありますが、身体の調整をするビタミンやミネラルなどの栄養素はほとんど含まれていません。そのためアスリートが摂るべき優先順位が低く、真っ先に減らすことできる食品、もしくは減らすべきものと言えるのです。

 次に、油の使い方や食材の脂肪分を見直します。
 
揚げ物の量と食べる頻度を減らし、マヨネーズ・ドレッシングなどに気を付けることなどが必要です。(Vol.12参照)


4.低エネルギー食材を活用する

 ジュニア期の子ども達がよく勘違いしていることの1つに“食べ物の重さと比例してエネルギーが多い=体重が増える”ということです。エネルギー量と食事のカサは、単純に比例するものではありません

 低エネルギーの代表的な食材は、海藻・きのこ類・こんにゃく・野菜類などです。ただ、油をたくさん使えば、少量でもエネルギー量の高いものになります。
 具体的に説明すると、低エネルギー食材のサラダであっても、マヨネーズやオイルたっぷりのドレッシングをかけてしまえばエネルギー量はグーンとアップしてしまいます。ノンオイルドレッシングをかけるなど、エネルギーを抑える工夫をしたいものです。

 肉料理であれば野菜を巻いた料理にすることで、主菜のボリュームもアップすることができます。同じボリュームの食事量でも、エネルギー量を抑えることができます。

 このように低エネルギー食材を上手に利用することで、減量中でもボリュームのある食事にすることができます。


5.いつの食事に何を食べるかがポイント


 朝食を抜いたり、遅い時間に夕食を食べるなど、不規則な食事は体脂肪を増やしやすい食べ方といえます。減量時は、食事時間をなるべく等間隔に、毎日同じ時間に食べるようにすることがお勧めです。食べない時間もしっかり作ることが大切です。

 同じエネルギー量なら、1回にまとめて食べるより、数回に分けて食べたほうが、太りにくい食べ方になります。
 空腹時に手足が冷たく、食後ポカポカするという経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。食事をすると大汗をかくという方もいらっしゃるでしょう。これを食事誘発性熱酸性(DIT反応)と言い無駄なエネルギー消費と言えます。食事回数を増やすということは、この反応の回数を増やすことにもなります。

 しかし一般的に食べる回数を増やした場合、食事からのエネルギー摂取量は多くなりがちです。そのため実際には、朝昼晩の3食をしっかり食べて、間食や夜食は控えるようにするのがベストでしょう。
 食後に身体を休めると、摂取した栄養素を身体に蓄える方向に働くことも覚えておきたいものです。分かりやすく説明すると、適量のたんぱく質の摂取は筋たんぱくの合成につながりますが、脂質の過剰摂取は、体脂肪に直結するということです。(過剰にたんぱく質を摂取した場合は、体脂肪として貯蔵してしまいます。)

 ですから夕食では、過剰に脂肪分を含む料理は避けたいところです。
 つまり、料理方法であれば揚げより炒め、炒めより焼きや蒸しなどと、工夫すると良いでしょう。
 いつ何を食べるか?食事のタイミングも大切です。

6.間違ったダイエットはやめる

 スポーツ選手においても、間違った減量の方法をとっている人が少なくありません。
 最近流行っているバナナダイエットなど、単品だけしか食べないもの、ミネラルウォーターを飲んで痩せるもの、ダイエット食品やサプリメントで痩せるなどがそれです。
 短期間で痩せた内訳は脂肪ではなく筋肉です!基礎代謝を減らし、太りやすい・痩せづらい身体にしてしまい、必ずリバウンドします。アスリートであれば、筋肉量が落ちてしまうことはパフォーマンスを落としかねませんよね!

 これらに注意して、コンディションを崩さずに減量を成功させたいものです。
 減量を考えているアスリートの方!減量計画を再設定してみませんか?




河谷 彰子(かわたに あきこ)

株式会社レオックジャパン スポーツ事業担当 管理栄養士

〔経歴〕

1995年日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業

1997年筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻卒業

1997〜2006年3月株式会社タラソシステムジャパン入社
(海水中・陸上での運動指導や栄養カウンセリング、食サービスの提案を実施)

2006年4月〜株式会社レオック関東入社 同年9月にレオックジャパンに転籍
横浜FC栄養アドバイザー・横浜FCユース栄養アドバイザー
その他、YMCA社会体育専門学校にてアスレチックトレーナー育成講座『スポーツ栄養学』講師・慶応大学非常勤講師・さくら整形外科クリニックにて栄養相談などを行なう。

以下のコラムを担当しております。