アスリートの食事学 Vol.43
2009/08/17
河谷 彰子
● 大人がきちんと見守りたい ジュニア期のダイエット
|
子どもの肥満が低年齢化しているという問題があると思えば、痩せも問題になっている日本の現状は、少しおかしいのではないかと感じることがあります。
テレビではタレントのダイエット企画が放送されたり、大人からダイエット情報を耳にしたり、いつでもどこでも子供たちも簡単にダイエット情報を入手できる環境だからこそ、ご家族やコーチ・スタッフなど周りの大人が交通整備をしてあげる必要があるのではないかと感じます。
ティーンズ向けの雑誌にダイエット情報が掲載されているなんて、私が幼い頃には考えられなかったことです。
思春期は可愛くて人気のあるタレントやモデルに憧れたり、誰かのハートを射止めるためなど理由は様々ですが、子ども達がダイエットしたいと思ってしまう時期なのかもしれません。
女子ジュニアアスリートの中には、“トレーニングを頑張ったら、ムキムキになっちゃう〜・太っちゃう〜”と心配している方もいます。乙女心として可愛らしいと思う反面、勝てるアスリートを目指しているの?と質問したくなるコメントです。
成人アスリートと同様、太りすぎはパフォーマンスに悪影響を与え兼ねません。(Vol.42参照)しかし、ジュニア期にはそれ以上に痩せすぎや間違った方法で減らした体重では勝てるアスリートになることができないということを伝えたいものです。
では、何をポイントにするべきかを解説していきましょう。
1.体重を落とそうとせず、体重維持を目指す!
|
大人と同様、ジュニア期のダイエットは基本的に摂取エネルギーと消費エネルギーの両面からアプローチすることが必要です。しかし食事からの摂取エネルギーを厳しく制限するよりも、
運動量を増やすことで消費エネルギーを増やすことが重要と考えます。
週数回の運動習慣はあるけれど、それ以外は特に運動していないというのであれば、練習を兼ねて公園などへ出かけましょう。家にいることが多ければ、冷蔵庫を開けたりお菓子箱をあさってお菓子を食べたくなる機会がどうしても多くなってしまいます。“食べちゃダメ!”と気持ちを抑えたり、言われるよりも“外行って、練習してきたら?”“お散歩行こう!”などと上手に促してあげれば良いのではないでしょうか?
毎日運動をしていて、これ以上運動を増やすことが難しいというのであれば、食べ物に気を遣ったら良いでしょう。
|
そこで気をつけたいのが、大人のダイエットとの大きな違いです。それは “体重を落とそうとせず、体重維持を目指す”ということです。
大人と違って、子供は身長が伸びます。体重が増えないようにすることを心がけて、背が伸びるのを待っているだけで、理想の体型を手に入れることができるのです。
2.本当に痩せる必要があるの?
体重維持を目指す前に確認したいこと!子供たちが、「痩せたい」「ダイエットしたい」と言ってきたり、もしくはそんなそぶりが見えたとき、本当に痩せる必要があるのかを周りの大人がしっかりと見極める必要があります。
基準の1つに成長曲線があります。身長の伸びに対して、体重の増え方はどうなっているのかを見る必要があるでしょう。
また、成長期には、身長が伸びる時期と体重が増える時期が交互に来るため、大幅に成長曲線から外れていない限り体重が増えたからといって、過剰に反応する必要はありません。
不必要なダイエットをして、身体に必要な栄養素が十分に摂取できなかったら、どのような問題が起きるのか解説していきましょう。
・炭水化物が不足すると・・・
⇒ |
特に炭水化物(ご飯・パン・麺類など)が充分でないと、記憶力や集中力が低下します。つまり、勉強に影響が出てしまいます。 |
・カルシウムが不足すると・・・
⇒ | 特にカルシウム(乳製品・小魚・海藻など)が充分でないと、身長を充分伸ばすことができないですし、骨折の可能性が高まってしまいます。
骨量は20歳がピークとなり、加齢と共に減少していきます。骨密度を高めるためには10代前半が勝負。この時期に丈夫な骨を作っておかないと、将来の骨粗しょう症になる確率が高くなってしまいます。また、身長が伸びるのも同じ時期。この時期は骨にも栄養が必要です。 |
|
・ホルモン分泌への影響
⇒ | 二次成長の遅れや、女子の場合は将来の不妊につながりかねません。子供本人は、妊娠・出産は遠い未来のことと、考えもしないでしょう。 周りの大人が気を配ってあげたいものです。 |
3.食習慣の見直しを
成長曲線などから本当に痩せる必要がある判断した場合、食習慣についてどのような点を見直していけば良いのでしょう?
大人の場合でも、「●●を食べるのを減らす or 止める」という行動は、簡単なようでなかなか続かないのものです。ダイエットで大事なことは、体重・体脂肪を減らすということではなく、健全な食習慣を身に付け、健康な身体を維持することです。結果的に体重や体脂肪の減少がついてくるのだと考えると良いでしょう。
子供の場合はなおさらです。その後の長い人生を健康に過ごせるかどうかは、子供の時期に健全な食生活を身に付けられるかどうかにかかっているといっても過言ではありません。
まずは以下の点について、見直してみましょう。
・お菓子を食べ過ぎていないか?
⇒ |
いわゆるお菓子には、砂糖や油など摂り過ぎ注意の材料を多く使っているものが多く、結果的にエネルギー過剰の原因となりがちです。またお菓子を食べすぎることによって、空腹感を感じず食事をしっかりと食べることができなくなってしまったり、食事時間が不規則になるおそれがあります。
スポーツ栄養の観点から見ると、運動後になるべく早く炭水化物を食べるとグリコーゲンローディングが最もスムーズに行なわれます。ジュニアアスリートには、運動後にお菓子を食べることより、おにぎりを食べるほうが勝てるアスリートに近づく方法だということを伝えてあげましょう。 |
・よく噛んで食べているか?
⇒ |
食事にかける時間が短いと、満腹を感じる前に食べ過ぎてしまいます。つまり太りやすい食べ方ということです。 |
・牛乳やジュースを水代わりに飲んでいないか?
⇒ |
飲み物だけで、相当のエネルギー量を摂ることになってしまいます。 |
|
親御さんの悩みの中には、“食べ過ぎて太っている”に対して、“少食で痩せている”や、“好き嫌いが多くて困る”というものが多いように感じます。
“食べ過ぎ”と“少食”は相反する悩みのように見えますが、実は、問題がジュースの飲みすぎやお菓子の食べすぎと共通していることも多いです。まずは、お菓子やジュースの量と頻度から見直す必要があるでしょう。
また、食事の食べ方を見直す方法として、友人家族と一緒にご飯を食べると良いかもしれません。何故、自分の子どもは食べすぎるのか?もしくは、食べなさ過ぎるのか?が、食事の様子から分かったという親御さんが多くいらっしゃいます。
また、子ども達も “自分は食べ過ぎだ” “食べなさ過ぎだ” “好き嫌いが人よりも多いかも” などと気づくこともあります。
是非、試してみてください。
4.大人がきっかけ?
子供のダイエット思考は大人の何気ない一言が引き金になっている場合もあるということを知っておいてください。以下のような言葉を気軽に口にしていませんか?
・“おデブちゃん”“太ったんじゃない?”
⇒ |
からかいのような言葉はNG。摂食障害の引き金にもなりかねません。愛情表現は別の言葉で。 スポーツをしているアスリートであれば、“身体がガッチリしたね。”“強そうな身体になったね。”という言葉が、嬉しいのではないでしょうか? |
・あの人は痩せているから何でも似合うわね
⇒ | 反対に言えば、「太っていると何も似合わない」ということにも。ほめ言葉のつもりでも注意が必要です。 |
・明日からダイエット頑張る!
⇒ | 痩せているのが良いというメッセージにも受け取れます。必要なダイエットは、治療のためのダイエットだけ、と大人が伝えなければいけません。 |
|
大人の言動にも気を付ける必要がありそうです。大人が正しい食習慣を教えてあげていれば、子どもは大きく間違ったダイエットをすることはおそらくないでしょう。
“食べたいと思ったものは、身体が必要なものだから…”という説明をする方もいらっしゃいますが、幼い頃から正しい食習慣を送ってこなかった方には、これは通用しません。
ジュニアアスリートを取り巻く様々な大人が、ダイエットを含めた食生活を上手にサポートしてあげることは、勝てるアスリートを育てるための重要なポイントの1つでしょう。
|