アスリートの食事学 Vol.45



2009/08/31




河谷 彰子



筋肉をつけて当たり負けしない身体を作る! 増量時の食事

 ジュニア期のアスリートを持つ親御さんやコーチの方からの相談の1つに身体を大きくしたいというものがあります。
“周りと比べて身体が薄いし、当たり負けする。”
“厚みのある身体にならない”  “食べても身体が大きくならない。”
“身体が細いせいかスタミナがない。” など・・・
 そこで親御さんやコーチが“しっかり食べなさい!”“ちゃんと食べろ!”と言っているケースをよく耳にしますが、当の本人は“しっかり”と“ちゃんと”の意味を理解していないことが多いように感じます。そこで、増量したい時のポイントをお話ししましょう。
 勝てるアスリートにとって身体を大きくするということは、基本的に筋肉量を増やすということです。それには、炭水化物とたんぱく質が必要です。つまり食事で言うと、主食と主菜・ごはんとおかずです。


1.朝食のごはん(主食)を、今より1膳増やす。

 増量したいと考えた時、皆さんなら何から始めますか?
 今より食事量を増やす・プロテインを飲む・ウエイトトレーニングを増やす…色々な方法がありますが、まず初めに見直したいのは、朝食です。

 食育の観点で、高校生位の年代から朝食の欠食が多くなっているということが問題になっていますが、スポーツの世界でも同様です。また朝食を食べていたとしても、量が十分でないアスリートが非常に多いと感じます。夕食を中心に食べる量を増やした場合に多く見られるのが“身体が思うように大きくならない。”“体重は増えたけど、筋肉よりも脂肪がついてしまった。”という悩みです。
 夕食を増やすことは悪いことではありませんが、夕食で食べる食事量と朝食で食べる食事量を比較したら、アスリートでなくても、ほとんどの方が夕食の方が多いでしょう。1日の食事量を大幅に増やしたいのであれば、朝食の方が改善の余地があるのです。

 “最低限食べておきたい1食あたりの主食量(Vol.2参照)”と“1日の主菜および乳製品量(Vol.18参照)の1/3量”を朝食から食べているか確認しましょう。
 厳密に表とにらめっこしなくても、今日までの朝食より、ご飯量を1膳増やすと良いですよ。

 朝食から外食を利用していて、今まではご飯量が普通盛りだという方は、大盛りに増やしましょう。

 お店にもよりますが、大盛りは約300gです。この主食量では特に、1日に4,000kcal以上必要な方は不十分です。そのような場合は、もう一品主食を増やしたり、もしくはおにぎりやバナナをさらに食べるようにしましょう。

 朝食を充分に食べていないアスリートに、このような説明をした後に、出てくるコメントが“朝、時間がない。”“朝、食欲がない。”などの何とも弱気な発言です。
 睡眠は、約7時間は確保したいところ。
  
・ 夜は、何時に寝ていますか?
  
・ 夜遅くまで、テレビやゲームや電話をしていませんか?
  
・ しっかり寝る準備を整えて、部屋を暗くしていますか?

 朝食を空腹で迎えたいところ。
  ・夕食に揚げ物など、消化に時間がかかるものを多く食べていませんか?
  ・ 寝る間際に、食べていませんか?
  ・ 起床から出かけるまでにどの位の時間があり、朝食にどの位の時間がありますか?

 今までより10分早く起きたら、食欲が湧いてくるかもしれません。
 
それには今までより10分早く寝たら、良いですよね。
 また勝てるアスリートとして、朝食前に10分のジョギングやストレッチは空腹を起こす良い習慣の1つです。それは難しいというのであれば、熱めのシャワーをサッと浴びるというのも良い方法ですよ。

 朝食食べられな〜い…ではなくて、食べられるように生活習慣から工夫することが大切です。まずは1週間、やってみてください。朝食が食べられなかった自分が嘘のように食べられるようになり、それと共に身体にも変化が現れてきますよ。


2.食事回数を今より増やす。

 1日のエネルギー量(特に、炭水化物とたんぱく質)を増やすために、1日3食という概念にとらわれずに食事回数を増やすことが次に見直したいポイントです。
 勿論、朝・昼・晩の3食の量をしっかりたっぷり食べることも大切ですが、中には一度にたくさん食べることができないというアスリートの方もいらっしゃるでしょう。一日に食べる食事量の合計が増えれば良いのです。
 朝食・朝練後・早弁・昼食・練習前・練習後・夕食・・・など食べるタイミングは色々考えられますね。プロアスリートの中には、ジュニア世代に1日9食食べていたという方もいらっしゃいますよ。
 全ての食事に、アスリートとしてバランスの良い5種類の食事(Vol.1参照)をそろえなくてはいけないということではありません。基本的に、朝・昼・晩の3食に5種類の食事をそろえて、増やした食事には、炭水化物・たんぱく質を増やすために、おにぎり・サンドイッチ・バナナ・牛乳・ヨーグルトなど持ち歩きしやすいものを活用すると良いでしょう。

 そこで見直したいのが間食です。皆さんは間食に何を食べていますか?
 スナック菓子・菓子パン・ジュース・アイスクリーム…などは、砂糖や油を多く使っているため、間食に積極的に食べて欲しいものではないということはお分かりですよね。食べてはいけないのではなく、食べる時間帯・タイミング・量を見極めることが大切です。

  ・ 菓子パンを食べていた分を、おにぎりに変える。
  ・ 今までジュースを飲んでいた分を、牛乳に変える。
  ・ アイスを食べていた分を、バナナ(冷凍バナナ)に変える。

 など、食べる内容を食事の一部になるようなものに変えるだけでも、身体に何か変化がありますよ。次の一週間は、これをやってみましょう。
 3食の食事以外の食事をアスリートの場合は“補食”と考えます。食事を補う内容であることが大切であり、まさに食べるもの全てが身体を補うのだという自覚を持つようにしましょう。

3.1食の主食・主菜量を、今より増やす。

 食事の回数が増えてくると、消化力がつくためか1回の食事量も増やすことが容易になってくるでしょう。そこで、今より3食の主食と主菜を増やすということが3番目に見直したいポイントです。同じ料理の食べる量を増やしても良いですし、味に変化をつけるために、主食であれば、ごはんとパスタなど異なる種類をそろえるのも良いでしょう。
 ごはんがすすむアイテムとして梅干し・漬物・キムチ・海苔などを用意するのもお勧めです。(Vol.41参照)
 ここまで来れば、スタート時の身体と比較すると何か変化が起きているのではないでしょうか?

 アスリートの中には “筋肉を増やすにはたんぱく質だからサプリメントのプロテインを飲む!”と実行する方がいらっしゃいますが、そもそも1日に摂取するエネルギー量が充分でなければ、プロテインは筋肉作りにつながらず、エネルギーとして使われてしまいます。これでは、せっかく買って飲んだプロテインがもったいないですよね。まずは、食事量が充分かを検討する必要があります。基本的に、サプリメントは食事をこれ以上増やすのは難しい位食べているけど、食べて身体を大きくしたいなど、食事ではどうしても摂る事ができないと判断した場合や、トレーニング後になるべく早く食事をしたいけど、近くにスーパーやレストランがないなど食事を摂ることがどうしてもできないという環境で利用するべきだと考えます。


 勝てるアスリートは、色々な面での自己管理能力が高いと感じます。では、自己管理をきちんとするということはどういうことでしょう。
 身体を大きくしたいなどの場合は、体重測定がその一つです。朝起きてトイレに行った後に体重を毎日測定するなど、毎日同じタイミングで測ることで、体重の変化を知ることができます。どんな方法が増量につながったのか?どうして、体重が減ってしまったのか?自己分析することも大切です。

 食事はトレーニングの一部!勝てるアスリートであるためには、トレーニング内容の見直しをしたら、食事の内容の見直しもした方が良いと考えるくらいでありたいものです。


河谷 彰子(かわたに あきこ)

株式会社レオックジャパン スポーツ事業担当 管理栄養士

〔経歴〕

1995年日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業

1997年筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻卒業

1997〜2006年3月株式会社タラソシステムジャパン入社
(海水中・陸上での運動指導や栄養カウンセリング、食サービスの提案を実施)

2006年4月〜株式会社レオック関東入社 同年9月にレオックジャパンに転籍
横浜FC栄養アドバイザー・横浜FCユース栄養アドバイザー
その他、YMCA社会体育専門学校にてアスレチックトレーナー育成講座『スポーツ栄養学』講師・慶応大学非常勤講師・さくら整形外科クリニックにて栄養相談などを行なう。

以下のコラムを担当しております。