アスリートの食事学 Vol.50



2009/10/27




河谷 彰子



便利な世の中だからこそ


 皆さんの家には、どの位の食料が置いてありますか?
 レトルト食品・冷凍食品が販売され始めたのは1960年代後半、カップラーメンは1970年代前半、そして、コンビニエンスストア・ファミリーレストラン・ファーストフードレストランなどの外食産業も1970年代前半に日本に登場しています。手軽で低価格、外食するにも営業時間がそれまでのお店より長いこともあるため、特に都市部では食べ物に溢れているという状況が作られつつあったと言えるのではないでしょうか。そのお陰で現在は食べることが手軽になりました。
 難しいことを語るつもりはありませんが、そもそも食とは生きるための手段ではないでしょうか。アスリートであれば、生きるための手段にプラスして勝つために日々頑張っているトレーニングの一部でしょう。
 アスリートと話しをしていて、ふと感じるのが便利すぎる世の中になったお陰で “生きる力が衰えていないか?”ということです。
 手軽に食品が手に入らないときは、どうするのだろう?海外遠征では?急な発熱時は?…気になることは、たくさんあります。
 その食材が食べられるか食べられないかを判断することができない方に多く出会います。
 そこで、アスリートの家にそろえておきたい食材である、米・卵・牛乳・ヨーグルト・納豆・バナナについて保存方法などのちょっとした情報をお伝えしたいと思います。

1.米を買ったら、別容器で保存しよう。

 主食である米は、アスリートに欠かせないものですよね。(Vol.2参照)
 さて、皆さんは、米を購入するとき、何を気にしますか?
 美味しさを追求する方なら5kgなどの小袋、安さを追求する方なら10kgなどの大袋、中には実家から送ってくると言う方もいらっしゃるでしょう。
 米を美味しく食べることができる期間は、季節によって異なります。春 1ヶ月・梅雨〜夏の初め 1ヶ月弱・真夏 半月・秋冬 2ヶ月が目安です。この期間に食べきることができる量を購入するというのも一つです。
 さらに、保存状態によっても美味しさは大きく異なります。温度・湿度・通気性に左右されるため、米袋のまま流しの下やコンロの下に置いておくのは、良くありません。カビ・虫・酸化などによって、味が落ちやすい環境になってしまいます。
 カビが生えてしまったものは、身体に良くありません。食べないでおきましょう。
 虫がついて、糸のようなもので米がくっついたものは、全て取り除き、米を陰干しして虫を除去しましょう。最近では、虫除けのトウガラシやニンニクのエッセンスが入った商品もありますね。
 保存している米を触った時に粉がつくようであれば、それは米が古くなっているサインです。なるべく早く食べきりましょう。1回に買う量が多すぎたのか?外食が多かったからか?合宿で家をあけることが多かったからか?時期や自分のスケジュールに合わせて購入する量を検討する必要もありますね。

 カビ・虫・酸化を防ぐためにも、買ってきたお米は以下のことをすると良いでしょう。
  1. 買ってきたらすぐ、密閉できる別容器に移し替える。
  
2. 冷蔵庫(野菜室がベスト)に入れる。

 冷蔵庫が小さくて、2は難しいというのであれば、1だけでも結構です。別容器というのは、プラスチック容器やペットボトルでもOKです。中を洗って、しっかり乾燥させてから使いましょう。少なくなっても米の継ぎ足しはせず、容器は毎回しっかり洗うようにしましょう。

 ペットボトルの容量に入る米の量は500ml≒3合 1.5L≒9合 2L≒12合です。
 5kgの米であれば、1.5?の容器4本・2?の容器3本に入りきります。ちょっと入れづらいですが、漏斗(ろうと)や紙を丸めて漏斗状にして移し変えると良いでしょう。
 1日3合の米を最低限食べておきたいアスリートの場合(3,500〜4,000kcal/日)、500mlペットボトル1本分が一日分ということですね。
 炊飯器で炊いて保温しておける美味しさの限界は6時間程度になります。冷蔵庫での保存は、もっとも味の劣化が早く、見た目も黄色く変色してしまうので、避けましょう。
 私なら、多めに炊いておいて一食分ずつ冷凍保存しておきます。(Vol.24参照)ちなみに、冷凍したご飯は約2ヶ月美味しくいただけます。
 毎日ご飯を炊くのは面倒だから、ご飯よりパンを食べているという方もいらっしゃるでしょう。パンはダメということはありませんが、米のほうが安いですし、何よりどんなおかずにも合います。是非上手に保存して、美味しく食べてくださいね。

2.卵には、サルモネラ菌が付いていることがある、安心して食べる方法を知ろう。


 
ゆで卵・卵かけご飯・目玉焼き・玉子焼き・スクランブルエッグ・オムレツなど、朝食の主食としても便利な卵!そして安い!アスリートにとって毎日数個は食べて欲しい食材でしたね。(Vol.18参照)皆さんがよく行くスーパーは何曜日が安売りですか?週に1度位はセール日があるので、チェックしてみましょう。
 卵は、購入時・保存時・調理時にそれぞれ気をつけたいことがあります。

<購入時>

 卵の殻の周りには、サルモネラ菌という食中毒の原因菌の1種が付着していることがあります。すでに割れているものは、卵の中に菌が入り込んでいることがあるので、これを避けるため、パックの中の卵にひびがはいっている物や割れている物ないか確認しましょう。
 買って帰る途中でひびが入ってしまったものは、すぐに加熱して食べるようにしましょう。

<保存時>

 サルモネラ菌は、10℃以下で増殖しにくく、5℃以下だと増殖が止まります。
 そのため、家に帰ったら、冷蔵庫にすぐに入れましょう。サルモネラ菌を色々な場所に付着させるのを防ぐためにも決まった場所にパックのままがお勧めです。さらに、とがった方が下になると良いと言う方もいます。
 卵には、賞味期限が記載されていますが、これは“卵を安心して生食できる期限”です。そのため、賞味期限内の、生食はOK・賞味期限が切れたら、加熱して食べればOKです。期限切れだからと言って、捨てていませんか?勿体ないですよ。


<調理時>
 冷蔵庫で冷された卵を温かい部屋に出すと、汗をかいて細菌が繁殖しやすい環境になるため、使用する個数だけ、調理直前に冷蔵庫から取り出しましょう
 また、殻を割った状態で、長時間放置してはいけません。卵かけご飯を朝食に食べようと思って卵を割ったけど、急に気が変わって昼食に食べると言う場合は、卵かけご飯ではなく、十分加熱した料理で食べるようにしましょう。

 皆さんの中に、ゆで卵を持ち歩いているという方はいらっしゃいませんか?
 持ち歩く場合は、白身も黄身もしっかり火が通った固ゆでにしましょう。持ち歩く際に入れる袋は、再利用したビニール袋ではないですか?未使用の綺麗なビニールや、お弁当箱などの食品の保存に適した容器が良いです。理想は保冷剤などで周りを冷しておきたいものです。
 お弁当のおかずに卵料理を入れる場合もしっかりと火を通して、冷めてからお弁当に詰めましょう。また、半熟状態に調理したものは、2時間以内に食べきるようにしましょう。これは、購入時の注意点と同じ理由です。


 ところで、卵の鮮度の見分け方をご存知ですか?新鮮な卵は割ってみると、白身も黄身も盛り上がっていますが、古くなるにつれて卵はだんだん平らになってきます。割った時に卵の黄身が崩れていたら腐っていますので、食べるのは避けるのが賢明です。そのため、複数の卵を割って使用する場合は、1個ずつ別皿で割りながら、ボールに合わせ入れましょう。全部を同じボールで割るってしまうと途中で腐った卵があった場合に、全てを捨てなくてはいけなくなってしまうからです。

 1日3個の卵を最低限食べておきたいアスリートの方(3,500〜4,000kcal/日)は、1週間に21個、つまり2パックは必要ということです。卵の特売日の曜日を知って、2パック購入すると良いでしょう。意外かもしれませんが、卵は生の状態が一番日持ちします。料理が面倒だからといって茹でてしまっては、悪くなるのが早まりますので注意ですよ。


3.牛乳の賞味期限に頼りすぎていませんか?

 皆さんの冷蔵庫には、牛乳は何本・ヨーグルトは何個入っていますか?十分に必要な量があるでしょうか?(Vol.18参照)
 乳製品は、10℃以下に保存しておくことが腐敗を防ぐ大切なポイントです。乳製品を買ったら、寄り道せずに帰って冷蔵庫に入れましょう。
 未開封の牛乳であれば、ドアポケットよりも棚に入れておいたほうが冷蔵庫の開閉による温度の影響を受けません。

 賞味期限は開封前の期限です。開封した時点で賞味期限は無効です。
 牛乳パックはどのように開けますか?注ぎ口の部分に指先が触れないようにするのも雑菌をつけないポイントとなります。賞味期限の前であろうが、雑菌が増えて腐敗することはあります。
 そして、開封したらどの位で消費していますか?理想は開封後3日で食べきるのが安心です。
 “自分だけが食べるから”と牛乳パックから直接牛乳を飲んだり、使用済みのスプーンをヨーグルトの容器に入れていませんか?このような食べ方だと、細菌が入ってしまい賞味期限前であろうが、腐敗の原因となるので止めましょう。牛乳ならコップに移してから飲む・大きいサイズのヨーグルトなら未使用の乾燥したスプーンを使って取り分けましょう。

 腐敗していないか不安に思った場合、どのように確認しますか?見て、表面にブツブツが出ていないか?においをかいで、酸味や異臭が無いか?少しを確かめて、苦味がないか?などの動物的な観察が大切です。
 これらの問題は見当たらないけど、不安がある場合は、鍋に少し入れて沸騰させてみましょう(電子レンジでも可)。モロモロのかたまりと水分が分離したら腐敗しているので廃棄しましょう。

 牛乳の中には、常温保存可能牛乳(LL牛乳)という“常温で2ヶ月保存可能な牛乳”があります。これは牛乳をパックする際の殺菌方法や容器の滅菌方法が異なるものです。よく保存料が入っているのでは?含まれている栄養素が普通の牛乳と異なるのでは?という声を聞きますが、そんなことはありません。ただし、開封したら普通の牛乳と同じなので早めに飲みきるようにしましょう。

 ヨーグルトの保存は、チルド室がベストです。保存温度10℃を超えると、乳酸菌が活発に活動してしまうため、発酵が進み、酸味が強くなってしまいます。
 プレーンヨーグルトから出てきた乳白色の水分は、腐っているのではありません。たんぱく質・ビタミン・ミネラル豊富な乳清(ホエー)ですので、捨てずに固形部分とかき混ぜて美味しくいただきましょう。

 ちなみに、乳脂肪はにおいが移りやすいので、冷蔵庫の乳製品の近くにはキムチなどにおいの強いものは置かないほうが美味しく保存できます。

4.納豆は冷凍保存も可能!

 納豆はご飯が進むし、朝食のたんぱく質源として納豆も便利な食材でしたね。しかも安い!
 納豆のパックは通常1食ずつパックされているため、相当なことがない限り雑菌が入ることは無いと考えられます。ただプレーンヨーグルトと同様に熱処理をしていないため、納豆菌は生きたままです。そのため長く置くと発酵が少しずつ進み、アンモニア臭や苦味が出て味が落ちると考えられます。身体に害はありませんが、納豆全体が白くなっていたり、表面に白い粉のようなものが見られるようになります。

 冷蔵庫に保存することが基本となりますが、冷凍保存も可能です。美味しく食べるには、前日に冷蔵庫に移して解凍するのがお勧めです。


5.寒さに弱いバナナ

 朝食にも補食にも便利なバナナですが、皆さんはどのように保存していますか?
 あるアスリートが『バナナを買ったら、黒くなってダメになったからがっかりしてしまった。だから買うのを止めた…』と残念そうに言いました。そのアスリートは常温で保存していたそうです。
 バナナは、12〜15℃で保存すると最も長持ちするので、常温はバナナの保存適温よりも高く、買って1週間ほどで熟成し、黒くなってしまいます。かといって、冷蔵庫や野菜室でむき出しのまま保存すると低温障害を起こしてしまい、早く黒くなってしまいます。そこで、私はビニール袋や新聞紙に包んでおくと、黒くなるのを遅らせることができると伝えました。
 冷蔵庫の中で保存するには、冷気を直接当てないということがポイントです。熟成をもっと遅らせるには、1本ずつ発泡スチロール性の緩衝材(電化製品を買うとついてくるものや食器棚の下に敷くもの)に包んだり、アルミ製の保冷袋に入れて冷蔵庫に保存すると良いでしょう。

 後日、そのアスリートに聞いてみると『バナナって冷蔵庫に入れると硬くなるんですね。』と言っ
ていました。よく話しを聞いてみると、以前の黒くなったバナナの悲しい思い出から、なるべく黄色いものを買ったそうです。
 バナナはまだ青いうちに収穫され、追熟させて黄色くなった時点で店頭に並びます。この時点ではまだ果肉は硬めで、その後熟成が進むことでやわらかく変化していきます。このアスリートの場合、買ってすぐに冷蔵庫で保存したので、このような印象を受けたのでしょう。

 熟成が進んで変化するのは皮の色だけではありません。果肉の味も変わります。皮の黒いポツポツ、シュガースポットが出てくると、甘さが増した証拠です。硬くて少し酸味がある黄色いバナナと軟らかくて甘味が強いポツポツバナナ。皆さんはどちらのバナナがお好みでしょうか?

 買ってきたバナナを冷蔵庫で保存するのか、少ない本数で購入し常温保存でなるべく早く食べきるのか、どちらでも良いでしょう。常温で保存する際には、ぶつかる面が少なくなるようにすると黒くいたむのを避けることができます。専用のバナナスタンドや紐やフックもあるので、使ってみても良いですね。持ち歩く際に、バナナケースに入れているアスリートもいらっしゃいますよ
 さらに、常温で保存しておき、シュガースポットで食べ頃になったら、皮を剥いて1本ずつラップに包んで冷凍しておく方法もあります。
 エネルギー補給になって、持ち歩きに便利なバナナを、アスリートの皆さんには上手に保存して、美味しく食べていただきたいところです。

 さて、皆様のお陰で、このコラムも50回を迎えました。
 食事はトレーニングの一部というお話しを何度かこのコラムでお話ししていますが、●●を食べたから確実に勝てると言うわけではありません。
 ただ、Vol.1でご紹介した“バランスの良い食事”を基本に、何をさらにプラスするかがとても大切だと日々痛感しています。
 成長期で身体が常に変化している時期や、中学生から高校生・高校生から大学生など、ワンランク上のステージに上がったためにトレーニング量や内容が大きく変化した時などは、食事はとても重要です。“何をどの位、どのタイミングで食べるか”“1日何回食べる機会を作るか”この2つは、勝てるアスリートを目指すために、特に重要です。
 頑張るアスリートをこれからも応援して参ります。

 ひとまず、しばし休憩をいただき再スタートを致します。お楽しみに。



河谷 彰子(かわたに あきこ)

株式会社レオックジャパン スポーツ事業担当 管理栄養士

〔経歴〕

1995年日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業

1997年筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻卒業

1997〜2006年3月株式会社タラソシステムジャパン入社
(海水中・陸上での運動指導や栄養カウンセリング、食サービスの提案を実施)

2006年4月〜株式会社レオック関東入社 同年9月にレオックジャパンに転籍
横浜FC栄養アドバイザー・横浜FCユース栄養アドバイザー
その他、YMCA社会体育専門学校にてアスレチックトレーナー育成講座『スポーツ栄養学』講師・慶応大学非常勤講師・さくら整形外科クリニックにて栄養相談などを行なう。

以下のコラムを担当しております。