トップアスリートに聞く食事学 Vol.3



2010/02/09




河谷 彰子

奥寺 康彦(おくでら やすひこ)

1952年3月12日生
秋田県鹿角市出身
1977年、旧西ドイツの名門チーム「1FCケルン」から日本人初のプロサッカー選手としてデビュー。ブンデスリーガ(西ドイツ1部リーグ)では通産235試合出場、25得点をあげ「東洋のコンピューター」と賞賛された。
1986年帰国後、古河電工とプロ契約。日本国内で最初のプロサッカー選手となる。
1988年現役引退後、東日本古河サッカークラブ(現 ジェフユナイテッド市原・千葉)のゼネラルマネージャーに就任。
現在、株式会社横浜フリエスポーツクラブ代表取締役会長。

ブログ: http://www.diamondblog.jp/yasuhiko_okudera/

 サッカーのシーズン切り替え準備中である12月に、お話しをうかがってまいりました。横浜FCは先シーズン18チーム中16位と、けっして良い成績とは言えない結果でした。だからこそ伝えたい、若いプロのアスリートへの数々の叱咤激励や日本のスポーツをさらに発展させたいからこそのコメントをいただきました。
 
そして、プロを目指しているアスリートやアスリートを育てるコーチ陣への熱いメッセージもいただきました。

1.内臓が強い選手はスタミナがある。

 僕が子供の頃は、早弁をして、その後パンやコロッケを間食に食べたりしていたよ。時代が違うこともあるけど、お菓子やジュースは食べたり飲んだりしなかったな。朝食は、丼ごはん・納豆・魚・味噌汁って感じ。とにかくたくさん食べていた。
 内臓が強いアスリートはスタミナがあるし、消化力のあるアスリートはスタミナがあると感じる。まずは、子供の頃にきっちり食事をする習慣を家で身につけることが大切だよ。それには、周りの大人がまず気をつけるべき。身体作りの時期にどのような習慣を身につけたかが、とっても大切だよ。
 子供には、アスリート用の特別な食べ物なんて必要ない!ちゃんと食事をしていれば良い。だから僕は「もっと飯を食え!」「おにぎりを持って来い!」と言いたい。
 これから成長していく身体には食材からの食事が大切だし、それで十分だよ。流動食みたいなものでは、内臓が強くなるわけないじゃない。
 高校生まではガンガン食事を食べて、内臓を強くしていったら良い。小さい頃から、特別なものを食べていたら、内臓が強くなりゃしないよ。内臓強くないと、バテちゃうよ。そういうことを分からずに、色々な商品に飛びついちゃいけない。
 食べ物を食材から食べるということは噛むことにもつながるし、それは脳の発達にも大切だよ。
 そういうことを身につけずにプレーしたって、ちゃんとしたプレーができっこないよ。

河谷のコメント:
 全くその通りだと思います。
 ジュニア期のアスリートに、朝からご飯はこの位(勝てるアスリートの食事学Vol.2参照)食べて欲しいと伝えると、“そんなに朝から食べられない・・・。”と返答されることがよくあります。朝食を今よりしっかり食べるためにも、少しずつ増やしていくことがポイントとなります。現在、朝食を食べていないのであれば、バナナ一口から食べるとか、来週までの次の一歩を何にするかを考えてみると良いでしょう。そうすれば、一年後には、朝食からアスリートとしての理想の食事を食べることができるようになっていますよ。
 先日、横浜FCジュニアユースの選手が“初めは食べられなかったけど、1週間したら、食べられるようになりました。”と報告してくれました。

2.ジュニアの指導者は、情報を整理して選手に安心感を。


 指導者に伝えたいことは、食事面の指導も大切にして欲しいことかな。アスリートに関する色々な情報は溢れているけど、日本は小学生などジュニアの指導者へのこのような指導が特に遅れているんじゃないかなと感じるよ。

 “○○の商品が良い!”という情報が入ったら、受け売りですぐに実行してしまうのは危険だと思う。そういう点では、子ども達の周りにいる大人が、ちゃんとした知識を収集して、勉強すべきだと思う。
 アスリートがある程度の年齢になったら自分で情報を集めたり、周りの選手を観察して、試して自分にあった方法を実践することが大切だよ。僕も色々試したよ。人に言われたことはまず試したよ。

 選手には、これで大丈夫だという安心感も大切。だから試合前には指導者は、選手にこれで大丈夫だと伝えて安心させることも大切なんじゃないかな。
 集めた情報を整理しないと、情報に左右され過ぎて、かえって不安になってしまう。なくても大丈夫。ただ、食べておいた方が良いんだ位に思っておいた方が良いんじゃないかな。無かったら、これで代用するなど、気持ちに余裕を持っていることが大切なんじゃないかな。

河谷のコメント:
 やはり、全く同感です。
 年齢を問わず、サプリメントを初めとするアスリート用と特別な食べ物に手を伸ばそうとする選手や指導者には、私は“その前にやることはないですか?”と伝えます。
 朝食をしっかり食べるために、夜早く寝る必要があるかもしれません。強くなるための近道な食べ物なんてないって思っていた方が良いでしょう。
 朝食を今より、お茶碗1杯多く食べてみませんか?お弁当箱をもう一回り大きくしてみませんか?トレーニングの前後に補食を取り入れてみませんか?今より10分早起きするために、就寝時間を10分早くしてみませんか?
 皆さんは、何から始めますか?

3.若いプロアスリートには、もっと強い向上心を持って欲しい!

 日本のサッカー界自体、もっともっと上を目指さないといけない。
 これを実現させるためには、まず選手自身が自分を知ること。一人一人が自分の目指す所がどこで、そのために何をするかという強い向上心をもっと持つことが必要じゃないかな。
 向上心を持っているかどうかは、周りにも伝わる。普通にやっていては上を目指せない。練習や試合を見ていて、周りの人に伝わらないような向上心では足りないんだよね。残念ながら、そういう選手が多いように感じるよ。

 厳しい言い方をすると、向上心が弱いのはプロフェッショナルとは言えない!アマチュアだ!本人は気がついていないこともあるけど、まぁ良いやとか、どこかで妥協したり、流されてしまうのは良くない。でも試合や練習を見ていれば、コーチは分かっているよ。
 がむしゃらさを見せられないのは向上心への気持ちが弱い現われなんじゃないかな。

河谷のコメント:
 奥寺さんのお話しをうかがっていて、思い出したエピソードがありました。
 競技レベルは異なりますが、学生アスリートへのセミナー中での出来事です。何をアドバイスしても言い訳をしてくるアスリートに、何故競技を頑張っているのか?目標は何か?それを実現するために、今何をやらなきゃいけないのかを考えて欲しいと伝えました。
 言葉で言うのは簡単ですが、考えているだけではなく、まず行動に移す。自分に言い訳を作っちゃいけないんじゃないかと思いました。
 これは、スポーツ以外にも言えることかもしれませんね。私自身も肝に銘じたいと思います。

4.プロとしてのやりがいは、応援してくれている方のために頑張る気持ちにある!

 プロチーム・選手を抱えているからこそ感じるんですが、選手には自分のアスリートとしての立場を自分だけのことと思って欲しくない。応援してくれている方々や支えてくださっている方々を考えながら、頑張る必要があるんじゃないかなと思うんだよね。だからこそプロが成立すると思う。
 選手自身の技能・技術などが評価されてプロになったとしても、プロになったら技術が上手いだけではいけない。それ以上の何かが必要だと思う。
 例えば、選手を評価するのはチームの関係者やお客様。だから“自分を支えてくれている人々のために頑張る!”という気持ちをもっと持つことが大切なんじゃないかな。そいう、気持ちがないと、プロアスリートとしてのやりがいというものは生まれてこない気がする。僕がそうだったから。

5.自分は何を要求されているのかを考えて、自分も要求する!

 ドイツに行ったとき、監督から“こんな感じのチームにしよう!”と伝えられたけど、お前はこうしろ!ということを僕は一つも教えもらわなかった。だから何を求められているんだろう?どうしたら、自分のプレーが活きるんだろ?自分のポジションはこうだから、こうしよう!とかを考えた。言われるのではなくて、感じて考えなきゃいけないよ

 それともう一つ、アスリート自身も要求しなきゃいけないよ。ボールをここに欲しいんだとか、チームメイトに自分の要求をアピールしなきゃいけない。そうすれば、プレーの中で自分のやりたかったことをチームメイトに知ってもらえるし、お互いのことが理解できるじゃない。それがコミュニケーションじゃないかな。
 アスリートとして闘っていく中で、グラウンドでのコミュニケーションは一番大切なことじゃない?

 考えて要求するからには、アスリート自身、自分がどんなプレーヤーかを知っている必要もある。それには周りを観察して分析するということを自分でやっていかなきゃいけないんだよ。
 今の若いアスリートが考えていないとは言わないよ。でも昔と比べると、何か違うんじゃないかと感じることがあるんだよね。昔の選手はもっと豪傑だったように思う
 今の若いアスリートは自分が無いんだよ。自己主張がなくて、プロになっちゃっている子が多いんじゃないかな。若いプロアスリートには、チームとして一緒に勝ちを取りに行くという強い気持ちをもっと持って欲しい。アマに毛が生えた位の選手じゃないのか?と自分にもう一度自分に問いただして欲しい!海外に行ったら、全然違うよ。ドイツの選手は自己主張だらけ。それがなくてはやっていけない世界だよ。だから、自分をしっかり持っているよ。
 Jリーグの中でも、上位の数チームは、そういう雰囲気を持っているところも勿論あるし、そういうチームはやっぱり勝っている。
 人を羨む前に、自分がやるべきことをやれ!と言いたい。それがプロアスリートなんだよ。自分の要求することだけ要求して、やることやっていないなんてプロとはいえないよ。

 お客様には、言い訳は通用しない。そんなやつは、プロを辞めてしまえと思う。ドイツに行った時に、。「ドイツに来てプロとしてやるからには、お前自身がしっかりしていないとダメなんだよ。そうでないと、チームにいられないよ。」と監督に何度も言われたよ。それだけプロは厳しいものなんだよ。
 後悔するなよ。自分の思っているようにやれているか?と僕は言いたい。

6.学生アスリートだって同じ。自分に責任を持とう!

 学生時代に監督などから“これはダメだ!”などと抑えつけられ過ぎちゃって、主張する気が無くなってしまっている子も多いんじゃないかな〜。最近の子は、大人しくて、良い子なんだけど、いざ!というときに度胸が座っていないんだよね。頑張れる力が少ないように感じるな。
 自己主張する分、何も言われないように頑張る。そうすれば、自分にも周りにも言い訳ができない。自分に責任を持つってことだよ。
 何かを成し遂げるために、一生懸命やるのは当たり前。
 ドイツの恩師である監督に “どうやったら、チームを良くしていけるんだ?”って聞いたら“勝ちたい気持ちがあれば良いんだよ。”って。勿論、個々の能力を高めるという努力も大切なんだけど、まず勝ちたいという気持ちを強く持つことが大切だって。その通りだと思うよ。

 チームメイトに対してだって、自分ならできると思えばボールを奪えば良いんだよ。それがアピールだよ。もっと必死にやれよ!と思う。

 勝ちを取りに行く気持ち、向上心を持つ、自分に責任を持つ、こういう気持ちや行動が、学生の時から身についていないといけないんじゃないかな。学生を指導している監督やコーチは、「メンタル面や考え方は、そんなんで良いのか?」「プロになったら、それじゃ通用しないぞ!」など、選手に言っていかないといけないんじゃないかな。厳しい言い方かもしれないけど、プロになってから一から教えるというレベルでは、日本のスポーツはなかなか発展していかないよ。
 サッカーには、僕は厳しくありたい。若いアスリートには、そう言いたいし伝えたい。


 厳しくも温かい、たくさんのコメントをいただきました。
 プロとは何か?さらに上を目指すために、子ども達はどうするべきか?そしてそれを指導していく指導者は、どうあるべきか?非常にためになるお話しでした。
 アスリートのみならず、何かを頑張っている姿は素敵だな、格好良いなと感じますよね。



河谷 彰子(かわたに あきこ)

株式会社レオックジャパン スポーツ事業担当 管理栄養士

〔経歴〕

1995年日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業

1997年筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻卒業

1997〜2006年3月株式会社タラソシステムジャパン入社
(海水中・陸上での運動指導や栄養カウンセリング、食サービスの提案を実施)

2006年4月〜株式会社レオック関東入社 同年9月にレオックジャパンに転籍
横浜FC栄養アドバイザー・横浜FCユース栄養アドバイザー
その他、YMCA社会体育専門学校にてアスレチックトレーナー育成講座『スポーツ栄養学』講師・慶応大学非常勤講師・さくら整形外科クリニックにて栄養相談などを行なう。

以下のコラムを担当しております。