トップアスリートに聞く食事学 Vol.8



2010/04/20




河谷 彰子

奥 大介(おく だいすけ)

1976年2月7日生
兵庫県尼崎市出身
神戸弘陵高等学校卒業後、ジュビロ磐田(1994〜2001年)⇒横浜F・マリノス(2002〜2006年)⇒横浜FC(2006〜2007年)にてプレー。(Jリーグ通算280試合出場62得点。)
元日本代表MF(国際Aマッチ26試合出場2得点)。
財団法人日本サッカー協会公認 B級ライセンス所持。
現在、フィートエンターテイメントに所属し、多摩大学目黒高等学校サッカー部監督。

フィートホームページ:http://www.feat-e.com/index.html
ブログ:http://blog.livedoor.jp/daisuke_oku/

 現役時代の姿からは想像できない高校生時代の食生活と体型。それには、それなりの理由がありそうです。また、現在高校生を指導している立場から感じることを色々とお話し頂きました。

1.高校時代、もっと食事を食べていれば、何かが違っていたかも?!

 高校卒業した時の身長が173cmで体重が61kg。高校時代、ガリガリに痩せていたんです。
 それがジュビロに入って試合に出始めた21歳の頃には72kgになっていました。
 今思うと、高校時代の生活パターンが問題だったかなって思うんです。

 高校時代は2時間半以上かけて学校に通っていたんです。5時半の電車に乗るために5時半ギリギリに起きてました。
 母親は、きちんとご飯と味噌汁なんかを作ってくれていたんですけど、時間に余裕がなかったことを理由に朝食を食べなかった

です。あの時、きちんと朝食を食べていれば良かったと今思うと感じます。
 身長が伸びなかったので、母親に“牛乳だけは飲みなさい!”って言われていました。だから、牛乳嫌いな僕はコーヒーをちょこっと入れた牛乳だけは飲んでから出かけていました。でもご飯は喉を通らなくて、家で朝食を食べることができなかったんですよ。
 電車で寝て駅に着いた頃には、丁度お腹が空いてくるんです。だから、そこにあった売店で菓子パンを買って食べていました。

 学校にはお弁当(ご飯+おかず)とおにぎり2つを必ず持って行っていました。お弁当は昼食用で、おにぎりは帰りに食べるようです。通学時間が長いからホンマに腹が減るんですよ。

 そして、家に帰ってからは、疲れてしまって夕食を食べることができませんでした。しかも、炭酸ジュースとか飲んじゃっていたこともあったんですよ。それでお腹がいっぱいになってしまって、食事を食べることができなかったなんてこともありました。

 プロに入ってからは、しばらく寮生活で、朝食・昼食は寮で食べていました。朝食をちゃんと食べているかどうかのチェックをするために、タイムカードみたいのがありましたよ。食べないと監督に怒られるんです。だから、朝食をきちんと食べるようになりました。初めは、それまでちゃんと朝食を食べる習慣がないから喉を通らなかったです。ご飯なら2口で良い位でした。
 そして、夜は先輩に連れられて、焼肉とか寿司なんか美味しいものをたくさん食べさせてもらっていました。だから、身体がごつくなっていきました。
 実家にいた頃は、外食とか全然しなかったんです。プロになって、初めてお寿司が美味しいって思いましたよ。静岡は寿司が美味しくって。

 プロになってからは、コーチに『身体が細すぎるから筋肉をつけろ!』と言われていたので、食事の回数を4回位に増やして食べたり、寝る前にプロテインやおにぎりを食べていました。
 色々やってみて、自分にとってのベスト体重は69kgちょっとなんじゃないかなってチームに言われたので、常に68とか69kgの体重をキープしていました。

 筋肉をもうこれ以上つけなくて良いよと言われてからは、筋トレも皆が週2回やっているところ、僕は1回に減らしたり、プロテインを飲むのは、その時に止めました。その頃は筋トレしたら、しただけ筋肉がつくようになっていたんです。
 食事量は、そのときは高校時代に比べて当然増えていましたよ。
 米が好きで、昼食や夕食に比べると朝食は今でも量は少し少ないですが、めちゃくちゃ食べるようになりました。ご飯、最高!美味しいです。ごはんと佃煮があれば良いです。

 自分の経験から、今教えている高校生達には合宿では朝食をしっかり食べることをノルマにしています。コーチがご飯をてんこ盛りによそって『最低これ位は食べろよ!』って、昔流に食べ終わるまでは食事が終わらないです。


 以前、河谷さんに聞いた菓子パンの話は子供達に言ってますよ。“メロンパンは気をつけろ。”“メロンパンはパンじゃない。”親御さんには、“買うなら菓子パンではなくって、おにぎりにしてください!!”って伝えてます。

 油っこいものは気をつけた方が良いですよね。太り始めている時なんかは“揚げ物は控えめにしろ!”って言います。
 今の子は、ジャンクフードをよく食べますよね。カバンをパッと見たら、ファーストフードの袋が入っていたりして…。“フライドポテトみたいなもんばっかり食ってないで、ちゃんとごはんを食え!”って言います。

 最近は、他の学校の監督から『選手の身体が大きくてごつくなった』って言われます。特にハードな筋トレをせずに、自重トレーニングを基本としています。気をつけたのは、特に食事じゃないかな。言われてみれば、あたり負けしないで相手チームを吹き飛ばしているので、身体が変わったのかなって感じています。一応、言うこと聞いてくれているのかな〜。
 間違いなく、メロンパンは絶対食べていないです!砂糖と油の塊だぞ!メロンは関係ないぞ!って伝えたら、子供達はびびってましたもん。

 僕自身、今は子供が朝早いので、それにあわせて6:30に起きて一緒に朝食を食べて見送るんです。朝早く起きるようになったせいか、現役中より食事をたくさん食べるようになりました。朝食が一緒じゃないと、夜子供達は寝てしまっていて、会うことができないんです。
 
それと朝食を食べるようになってから、よく眠ることができるようになりました。朝早く起きるせいだと思うんですけどね。

 まずは朝食をしっかり食べる、そして朝食に何を食べるかが大切ですよね。

河谷のコメント:
 横浜FCで選手時代、奥さんはご飯をいつもおかわりしていました。モリモリ食べる姿しか知らないので、
 昔は朝食を食べることができなかったというお話に、とても驚きました。
 そして、朝食をほとんど食べなかったのに、お母様がご飯と味噌汁を用意してくださっていたのは、本当に感謝すべきことです。食べないから作らないとなってしまうと、食べるチャンスを逃してしまう可能性があります。あえてアドバイスするとしたら、朝のご飯をおにぎりにしておいて、家で食べなくても学校に着いたときに食べられるようにすると売店の菓子パンがおにぎりになったかもしれませんね。
 『牛乳だけは飲みなさい!』是非、皆さんにも見習って欲しい習慣です。もし今、朝食を食べていないのであれば、初めの1週間は何か1つでも良いので口にする。牛乳だけから牛乳とバナナ…少しずつ量を増やしていくと、朝食をしっかりバランス良く食べることができるようになりますよ。

2.代表クラスの選手は意識が違う!


 代表の選手は、やっぱり違いますよね。
  鶏肉の皮を必ずはいで食べる。
  油ものは絶対食べない。
  パスタはソースがあらかじめかかったものは食べない。
     かかっていたら怒る。素のパスタに自分の加減でソースをかけて食べる。
  炭酸ジュースを飲まない。
  3食の食べ終わる時間を決めている。=1日のスケジュールが決まっている。
 自分の決まりごとがあるというような、そういう意識の高さはありますよ。かなりストイックに気をつけていますよ。
 僕は、鶏肉の皮をはぐとかはやっていなかったけど、唐揚げとか油っこいもの揚げ物はやっぱり食べないです。

 僕は、バランス良く食べることが大切なんじゃないかなと思います。野菜も肉も食べる。肉は脂肪が少ないものを選んだ方が良いように感じる。脂肪がある方が美味しいけど、そこをあえて気をつける。良い食生活を続けていると、きつい練習やゲーム後の疲労回復が早くなる。『気をつけた方が、良いぞ』と子供達には伝えるようにしています。

 食事以外では、試合が終わってなるべく早くにサウナに入ると疲れが取れると、ある先輩に聞いたことがあって、その気になって結構はまりました。脳のリフレッシュにはなりますよね。

 マリノスの時は、連戦後に氷の入ったバスタブにみんなブルブル震えながらお腹まで入っていました。
 あと、ある選手に教えてもらって、足の指をカーっと開くような道具を寝るときつけてました。めちゃくちゃ足が楽になりますよ。

 結構、色々やってましたよ。
 たまに、長期の休みがとれるときにある所へ行って断食をやったりしてましたよ。身体が入れ替わるっていうか、断食後に食事が美味しく感じる気がしました。それから玄米を食べるようにもなったんですよ。

河谷のコメント:
 “色々試して自分流を探す。”このこだわりは合っても良いと感じます。
 ただし、ジュニア期にはメディアからの偏った情報や世の中に溢れている色々な情報に惑わされないように周りの大人が情報の交通整備をしてあげないといけませんね。
 3食をきちんと食べていないのであれば、練習後にプロテインを飲むより前にやることがあるのではないか?と生活習慣を見直してみることが大切です。
 毎日パパッとシャワーで済ませるという方であれば、まずはお風呂でバスタブにゆっくりつかる習慣をつけてみることも大切でしょう。
 意識が高いということは、自己管理ができるということのようにも感じます。そして、臨機応変に状況に合わせて対応できることも大切ですよ。

3.挨拶って大切じゃない?

 最近の子は、挨拶があんまりできない、そして上下関係がないと感じます。

 引退後、特に色々な分野の方々と接する機会があります。そういう時に敬語などが使えてない人や挨拶ができない人に会ったら“え!この人…”って僕自身が思ってしまう。やっぱり、挨拶は大切なんじゃないかなって思います。僕が通っていた高校は、特に厳しかったせいもあると思いますけど。

 サッカー部の関係者に対してはきっちり挨拶をしても、管理人さんや野球部の監督などには挨拶が出来ない…それではいけないと思います。だから、学校にいらした関係者などにも、きっちり挨拶をするように、特に徹底的させています。社会に出てからも挨拶は絶対必要だと思います。実際、僕自身がそういう経験が役にたっていますもん。
 最初のうちはスムーズに挨拶が出来なくって、子供達は顔を見てからハッと気づいて『あ!お早うございます。』なんて言っていました。 “挨拶はやらされて言うもんじゃない。”と思います。挨拶ができない人は、その辺を今までに教育されてこなかったんでしょうね。

 あと上下関係が今は無くなったな〜と感じます。そこはあえて子供達には言わないんですけど。
 僕達の頃は、もっともっと上下関係が厳しかった。高校時代は、練習中でも先輩にパスする時でも“○○先輩!”って呼んでいました。プロになってからは、ピッチ上では呼び名、ピッチを離れたら『○○さん』に切り替えましたけど。代表の時、トルシエ監督からピッチ上で君付けやさん付けで呼んでいたら『敬語なんていらない!出てけ!!』って言われました。たまにポロって出てきちゃいますけどね…。

 今の後輩の態度を先輩が許している状況はダメだと思うんです。だから僕はボールがなくなったり、ビブスが一枚なくなったりと1年生が仕事でミスした時には3年生に『先輩である君達の責任なんだぞ。』って言っているんです。そうすると3年生は、焦ってすぐに自分達で探しに行ったりする。そうやってちょっとずつ3年生にプレッシャーをかけていって、上下関係の大切さを気づかせるようにしているんですよ。
 先輩が僕に怒られているのを1年生が見たら、その後は失敗しないようになるんじゃないかなと思って、仕向けるようにはしているんですけどね。

 僕の出身高校も、今は僕がいた頃に比べると上下関係が厳しくなくなったって聞きます。何ででしょうね〜。世の中の風潮なのか。上下関係は古いと思われているのか…。でも、そういうのが無いとユルユルになりますよ。特に、チームプレーにはちょっとは必要じゃないかと思います。
 試合中でも先輩からの“良いプレーしよう!”という雰囲気が1年生に伝わって皆頑張る!という空気になったりするんじゃないですかね。怒られたら、やらなあかん!!という風になっていって欲しいですけどね。強いチームと練習試合なんかすると、やっぱり挨拶はちゃんとしていますよ。僕がグラウンドに入った瞬間に、バッと並んで“お早うございます!”って。立ち止まってまでやれ!とは言いませんが、ちゃんと挨拶はした方が良いですよ。規律が守れることが大切ですよ。

河谷のコメント:
 皆さんも、幼い頃に『挨拶は何て言うの?』『ありがとうって言った?』などと母親に言われたことでしょう。私が最近気になるのが、挨拶はしているけど相手の顔を見ていないということです。
 本来、挨拶を言うことが大切なんじゃなくて、お互いが気持ち良く過ごすための雰囲気作りに挨拶は大切なんじゃないかなって思います。挨拶をしている2/3は、後姿に言っているなんてことありませんか?
 『いつもありがとうございます。』『今日も1日頑張りましょう。』『昨日はごめんね。』『お久しぶりです。お元気でしたか?』…色々な気持ちが含んだ、『お早うございます。』『こんにちは。』『こんばんは。』を言いたいなと私自身は思っています。

4.負けん気と競争心を大切にして欲しい!

 強くなるために大切な資質は、負けん気とか競争心が大切なんじゃないかと思います。
 僕の憧れている選手はマラドーナとサッカーが上手い先輩です。
 マラドーナの何から何まで真似しようとしました。右利きなのに、左利きにしてみたり、90年のイタリア大会で5人抜きのドリブルをしたんですけど、そのドリブルのタッチをビデオ見て、一人で外で練習して真似したり…。サッカー小僧ですよね。
 憧れの先輩にはフェイントやリフティングを教えてもらったり。できなかったら悔しいじゃないですか。できるまでやるタイプです。先輩を超えたいという一心で。

 ジュビロの時なんかそうでしたよ。遊びのゲームでも、本気になる。その負けん気があれば、チームって絶対に強くなる。
 一人がリーダーシップとって、みんなが連動すれば、絶対に強くなる
 一人でも真剣にやらん奴がいるとむかつく。負けず嫌いの気持ちは大切だと思う。
 上下関係がないと、仲良しクラブみたいになっちゃうかもしれませんね。
 教え子には『勉強でも何でも競い合って欲しい』って言います。食事の場面でも、小さい選手には『あいつより食ってないから、だからお前は小さいんや。だからもっと食べろよ。』って。そこで頑張って勉強するようになったり、頑張って食べようと努力する子供もいる。今回、サッカー部には赤点の奴はいなかったんです。子供達の間で『お前テスト何点だった?』なんて会話も出てきています。そういうのは良いんじゃないかなって思います。

 僕自身、高校時代に競争心が自分を育ててくれたって感じていましたよ。学校の中で一番サッカーが上手になると、なんとなく刺激がなくなってしまってのんびりしてしまう。でも、選抜に選ばれて一緒に練習して“あいつに負けたくない”という気持ちが刺激になる。やっぱり競争心が自分を上達させたんだと思いますよ。

河谷のコメント:
 個性を大切にする・運動会で順位を決めない・人と比べない…これらの良し悪しの判断は人それぞれでしょう。しかし、スポーツという場面では、経過も大事だけど、勝敗も大事。勝ちを受身ではなく、勝ちを取りに行くのであれば、人より努力することが大切なんじゃないかとも感じます。
 また、本当に好きなことは人から見て“あの人は、努力している”と見られることが、自分にとっては“ただ好きなことを好きなだけやっているだけ”などと受けとめ方に違いがあるようにも感じます。マラドーナに憧れていたから真似をしたかった・先輩を超えたい、そして試合に勝ちたい!という気持ちが奥少年を自然と練習に向かわせたのかもしれません。
 万全の体調で勝ちを取りに行くために、日常生活を整えて欲しいなと思います。勝ちは、勝手に降ってきませんよ。

 何かを一生懸命やっている人は、輝いていて格好良いなと思います。
 
そして、強くなるための近道はなく、日々の積み重ねが大切なのではないでしょうか。
 “格好良い人は、1日にしてならず。”
 輝いている奥さんには、これからたくさんの格好良い高校生を排出して欲しいなと思います。
 貴重なアドバイス、ありがとうございました。



河谷 彰子(かわたに あきこ)

株式会社レオックジャパン スポーツ事業担当 管理栄養士

〔経歴〕

1995年日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業

1997年筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻卒業

1997〜2006年3月株式会社タラソシステムジャパン入社
(海水中・陸上での運動指導や栄養カウンセリング、食サービスの提案を実施)

2006年4月〜株式会社レオック関東入社 同年9月にレオックジャパンに転籍
横浜FC栄養アドバイザー・横浜FCユース栄養アドバイザー
その他、YMCA社会体育専門学校にてアスレチックトレーナー育成講座『スポーツ栄養学』講師・慶応大学非常勤講師・さくら整形外科クリニックにて栄養相談などを行なう。

以下のコラムを担当しております。